認知症は百人百様(専門医も対処法は分からない)
「だれがしたん!」母の日常、その(18)
2005/9/13(火) 午後 1:44
某月某日 私は母には、出来るだけ、その日の出来事を話すようにしている。もちろん、母にもいろいろ、問いかける。この10月から介護保険が改正されることになった(私は介護保険制度がいまいち良く分かってないのだが)。
「保険料が上がったらな~、00さんやら、00さんなんか施設に残れるかな~」
「どうしたん?」と、母が心配そうに聞いてくれる。
「うん、お袋ちゃん等の保険料金が来月から上がんねん、ほんで、00さんや00さんなんか困るやろな~、言うてんねん」
「なんで、こまるん?」
「お金、足らんやんか~」
「そういうこと~」
「00さん、学校(デイ施設)来る日、減るんちがうかな~」
「なんでやの~?」
「お金ないやんか~、00さん一人暮らしやからあ」
「ひとりかーっ!だれもおらんのん?」
「お金な~、なかったら学校も行かれへんねんで~、保険料上がるからな~」
「あがるぅー、だれがしたん?!」母に、来月から介護保険料金や制度が変わることを、かみくだいて、話した。私は、以前このブログで「この国は我が母を見捨てた」と書いた。9月11日の衆議院選挙の結果で、多くの国民が「Kブームに踊り」、「高齢者を見捨てた」ことを、知らされたのだ。
「うんっ、さっぱり、かっぱりしてるわー!」母の日常、その(19)
2005/9/14(水) 午後 0:25
某月某日 残暑厳しく連日30度を越える真夏日が続く。90うん歳の母には、やはり、堪える。下痢をしたり、食欲が落ちたり、で、しばらく診療所へ。点滴のためだ。そのかいあってか、ようやく回復ムードに。
「ヘルパーさん、すいません、母の頭の髪、散髪お願いしますわ」母の髪の毛が、だいぶ伸びてきた。以前から気になっていたのだ。
「ああ、そうですね!、00さんだいぶ髪の毛伸びましたねぇ、解りました、予約取っておきます」
「じゃ~、よろしくお願いします」朝、母をデイの送迎バスに乗せる時に、私はこう頼んだ。デイ施設では、髪のカットもしてくれる。つい3~4年前までは、いきつけの床屋でカットしてもらっていたが、母が、腰を圧迫骨折してからは、行けなくなり、施設でお願いしているのだ。
「わ~、お袋ちゃん、さっぱりしたやんかー!」散髪した母を見て。
「う~ん、、、、、、なんやのん?」
「頭の髪の毛、散髪して、さっぱりしたやんか~、若こう見えるでぇ」
「そうか~」と、母は両手を頭に。
「うん、ほんまや、さっぱり、かっぱりしてるわー!」デイの送迎バスに乗車していた、施設のお仲間が。
「00さん、五つは若う見えるわなー!」との誰かの声に、車内で笑いが起こった。
(お袋ちゃん、皆さんと仲良うしてんねんな~、良かったな~)。
「はい、ねんねしますから、しんぱいせんといて~」母の日常、その(20)
2005/9/15(木) 午後 0:41
某月某日 母が認知症になり、私が、一番参ったのは、夜中の徘徊である。精神科、心療内科、心身、など、様々な、医者に相談したが、今日まで、治療法は無論、対処方法すら見つからなかった。今宵も。
「うん、どうしたんや?」
「ね~ちゃん、もう、ねたかな~、おもうてな~?」私は今日は姉になった。先ほど床についたばかりの母が、四つん這いで私の寝床へやってきた。
「お袋ちゃん、もう遅いから、寝よな~」
「はいはい、おやすみなさい」と母は、自室の寝床へ戻って行くのだが、しばらくすると。
「にいちゃん、トイレどこやったかな~?」と言いながら、母が四つん這いでウロウロするのが見えた。
「うん、さっき行ったでぇ、どうしたん?」
「いってないわっ!おしっこやねん!」母を、トイレへ。しばらくすると、はたまた、この繰り返し。何度目かの、時に。私は。
「お袋ちゃん、冷えたんか?何回もおトイレして、おなか痛ないか~?」
「なんかいも、いってないっ!、はじめてやわーっ!」母も眠気でイライラしているのだ。
「いや~、寝られへんのんかな~、思うて、心配してんねん」母は、落ち着がきなく、自室と私の寝床とを行ったり来たり。これを何度も繰り返す。
「にいちゃん、しんぱいさせてごめんな~、もうねんね、するから~、わたし、ひとりでいけるから」と母は、暗闇の廊下をトイレへ向かって四つん這いになって行くのである。母はちゃんと分かっているのだ。
「ちょっと、待って、お袋ちゃん、、、」私は布団を跳ね上げ母を追いかけた。
「ひとりで、いけるぅー!、あんた、ねときー!」と、母は、ちゃんと解っていて私を気遣ってくれているのだ。母の感情も昂ぶっている、徘徊が始まって1時間以上だ。そして。
「え~かな、にいちゃんとこで、ねるわ~」と、母が私の寝床へもぐりこんできた。
「そうしい」それも、つかの間、母が。
「にいちゃん、おしっこ、、、わてひとりでいけるから~」またも、気遣ってくれている。
「お袋ちゃん、どないしたんや?僕、心配や、具合悪いんか?寝られへんのんか~?」
「わるないー!、わるないっ!」と、怒りかける、母をトイレへ連れて行き、そのまま、母の自室の寝床へ。
「大丈夫か?、寝れるか?」母の顔を覗き込んで。
「はい、ねんねしますから、しんぱいせんといて~」と、母がニッコリしながら笑みを返してくれるのだ。(お袋ちゃん、認知症なんかに負けたらあかんでー)私は心の中でそう叫ぶ。
翌朝、母は何時の間にか私の横で寝ていた。何時私の寝床へ来たのか、記憶がない。(寝込みを襲われていたら私は確実に仕留められている。不覚、もう遅いが良かったー)。
「あ~ん、あ~ん、なんでこんななったんやろ~!」母の日常、その(21)
2005/9/20(火) 午後 0:25
某月某日 武道大会や稽古で忙しく、しばらくぶりに、その大会の当日は前日から泊まりがけで姉が来てくれた。母の面倒を姉に見てもらうことになった。私は、一段落した、大会会場から、自宅へ電話を入れた。電話でいきなり姉が。
「もうー、薬飲まそうとしたらな、ぷ~って、吐き出すねんでー!」と。
「そんなん、何時ものことや~」と私。
「それでなー、粉にして飲まそうとしたら、プッフアーと吐き飛ばされてん、な~んか機嫌悪いねんわっ!」と、姉。
「学校ちゃんと行ったんか~?」
「うん、もう~、大変やったわ~、怒るしぃ、昨日の夜も、何回も起きてくるしぃ、お婆ちゃんウロウロせんと、早寝~や、言うても、ぜ~んぜーん!」と、姉。(女の人はえーなー、言いたいことを我慢せんと言いはる。長生きするはずや、電話の姉の声を聞きながら私はそう思った)。
「それで、姉貴、お袋ちゃんの横で寝てたんかいな~?」
「そうやんかー、そうせんと、寝~へんねんもん、前よりひどなったん、ちゃうん?」
「何時も、そんなもんやで~、この前なんかな、僕も疲れてたから、寝てたら、足叩かれるわ、顔叩かれるわ、さんざん、やったわ!」
「私も、昨日の夜は、あんたは、わてが死んでもえ~思うてんのやろー!、って言われたわーっ!」
「姉貴ぃ、何か、言い返したんやろう」と、そちらの方が気になる私。
「うん、ちょっとだけなー、そうしたら、お婆ちゃん、あ~ん、あ~ん、て泣いて、何でこんななったんやろ~、言うてな~、ビックリしたわー、あんた、よ~続くなー!」
「僕、お袋ちゃん、好きやからな~、本気で言うてないのん解ってるからや~」
「へぇ、そんなもんかな~」と姉。(その後姉は「もうよー泊まらんわー」と言っておりました)。(そりゃそうだ、お互い生身の人間だし、母の病気を理解出来るまでには時間もかかるのだ)。
「それほんまのこと、うそゆ~てんのんちゃう?」母の日常、その(22)
2005/9/21(水) 午後 0:20
某月某日 その時の母の状態にもよるが、少しでもコミュニケーションのバランスが崩れると、とんでもない方向に会話は向かうのだ。
「嘘ちゃうよー、ほんまやでー!」と、母との会話中に。
「わたし、わからんねん?」と、困惑したような表情をする母。
「お袋ちゃんは、四人の子供ちゃ~んと、育てたやんか~」
「しらん、わたし、こどもうんだおぼえない、あんた、うそついてんねんやろー!」
「そんなことないで、嘘ちゃうでー!」
「わからんねん、ほんまのことか~?」口を尖らせ聞いてくる母。(納得出来るかー、このバカ息子、てな顔をしているように、私には見えた)。
「当たり前やんか、お袋ちゃん、苦労してきたやん!」
「なんで、あんたが、そんなこと、しってるん、うそやろー?」そりゃそうである。戦前のことは、私には分からないのだから。
「なんで、僕が嘘つかなあかんのん、ほんまのことやで~」
「わてなぁ、わからんねん、ほんまのことー!」
「そうやでえ、ほんまやで~、もう、そんなこと、考えんでえ~から、ご飯食べ~学校(デイ施設)行かなあかん時間やからなっ!」と、話題を変えてみた。
「がっこう!、しらんでー、いったことないっ!」
「うん、、、、、、、、」二の句が出ない私。
「あんた、うそゆ~てんねんやろー?」そんな私を追い詰める母。
「嘘ちゃうよ、もうすぐ、迎えのバス(デイ施設の送迎車)来るよ~」兎に角話題を学校の方へ。
「それほんまのこと、うそゆ~てんのんちゃう?」今朝は、この繰り返し、私は、何度か言葉に詰まる。母は矛盾を的確に突いてくるのだ。変に誤魔化すとこちらが、墓穴を掘るハメになる。
「かえりたないわっ!!」母の日常、その(23)
2005/9/22(木) 午後 0:37
某月某日 認知症の生活リズムを保のは、容易ではない。生活環境の変化(精神的、経済的なものから社会的なもの迄。理由は様々だが)に少しでも狂いが生じると、リズムも簡単に崩れてしまうからだ。(その結果、「介護疲れで虐待や自殺、果ては殺人にまで及ぶのだ」マスコミに流れるのは、氷山の一角だ)。
「今日はね~、00さん帰りたくない言うて、ちょっとねぇ!」と、デイ施設からの送迎バスのドアを開けながら、ヘルパーさんが、私に話かけてきた。
「そうですか、珍しいな~、そんなこと言うなんて」送迎バスのドアが開き、ドア近くに座っていた母に。
「お帰りぃ、お袋ちゃん、帰ろ~か~」と手をさしのべたら。
「いやや~、どこえいくの!」と母。
「どこってぇ、もう、家に帰るんやんか、さあ、降りよか!」
「イエ!かえるぅ?、どこのイエや~、なんで、おりんのんなーっ!」と母は、怪訝そうな顔をして、私を見上げる。
「お袋ちゃんの家に帰るねんやんかあ、みんな帰りはんねんでぇ」
「いややっ!、てぇ、はなしんかいなー!」差し出した、私の手を振りほどこうとする。
「もう今日は、学校終わったんやでぇ、また、明日行こ~なっ、降りよう、なっ」
「いやや、ゆーてんねん!かえりたないわっ!」運転手、ヘルパーさん、私、と、三人がかりで、母をなだめすかしの押し問答。ようやく、母は車から降りてきたが、、、。その不服そうな顔。(お袋ちゃん学校で何かあったんやな~、が私の感、だが)。
「かえりたないわっ!!」いったい、今日は、母に何が起こったのか、私には、知るすべもないが、こういう時は、私は柳の木になれば良いのだ。