デイ施設(母は学校と呼んでいる)へ通う日々
「わたし、どうしたらえ~のん?なんとかいいーんかいな!」母の日常、その(11)
2005/8/31(水) 午後 0:43
某月某日 認知症は不安の「病」である、と私は思っている。本人も、介護する者も、人には言えない辛さがある。このため、その「不安」を出来る限り、共有することを心がけなければならない。共有して辛さを分かち合うことができれば、、、。明け方の3時過ぎ頃。
「どうしたん?」何時のまにか、母が私の枕元に来ていた。
「あんた、だれや?なんでこんなとこに、おるん?」私の顔を覗き込んで母が言う。
「どうしたん?、00やんか~」
「わたしな~、わかれへんねん、なんでこんなとこに、いてんのん?」泣きそうな母の顔。
「う~ん、、、、、、、、、」徘徊の時、母は何とも表現出来ない表情を見せるのだ。
「どうしたらえ~かな?アホになってしもたんかな~」と、暗い表情をしてうろつき始める母。
「う~ん、、、、、、、、、」言葉が出ない私。うろうろする母を呆然と。
「どうしようかな~、どうしようかな~」と、母が急に、涙声で徘徊し始めた。
「お袋ちゃ~ん!、、、」と、私は、絶句した。何度も見ている光景なのだが。
「わたしを、ほったらかしやろー、し(死)んでもえーと、おもてんねんやろー!」と母は涙声で玄関の方へ向かって、声を挙げながら徘徊する。
「お袋ちゃん!」と、私は、布団を跳ね除け、追いかける。
「わたし、どうしたらえ~のん?なんとかいいんかいな!」私は、母を抱きとめ、母の両手を包み込む。母の「気」が静まる、母が落ち着く、まで、ただ、そうするしかないのだ。掛ける言葉がみつからない。(大丈夫や、大丈夫や、お袋ちゃん心配ないで~)と私は念仏を唱えるように心の中で、、、。
「どこいくのー!、アホかーッ、ほったらかしにしてーっ!!」母の日常、その(12)
2005/9/1(木) 午前 7:28
某月某日 こんな、社会だ、普通の人でも、イライラや不満が溜る。が、酒やタバコ、趣味、レジャー、等、気晴らしは出来る。しかし、認知症になった方は、どうか?。朝食の時に、母がいつもと様子が違うことに気付いた。
「よ~け残ってんで、もうちょっと食べな!」と、母の様子を窺いながら。
「おいしないわ~」
「どうしたんや?どっか具合わるいんか?」
「しんどいねん」
「今日はな~、木曜日やから、学校(デイ施設)休みやから、家でゆっくりしたらえ~ねんで!」
「がっこう!なんでやすみやのん!うそやろー?!」
「お袋ちゃんが、しんどいからな~、僕が電話して、休みます、言うてあんねん」(はい、母の言う通り嘘です)。
「ほんまかー?うそちゃうかー、うそゆーてんねんやろー!」母の目がとんがっている。(もう看破されている。たまたま今日は本当に休みだったのだ)。
「さっき、ちゃ~んと、学校に電話したから、嘘ちゃうでぇ」(兎に角誤魔化す)。
「しんどいねん、どないしょう?」
「休むから、代わりに、ヘルパーさんが、来てくれはるからな~、お袋ちゃんは、今日は家でゆっくり休んだらえ~ねん、心配せんと、ヨーグルト、もうちょっと食べぇ」その時。ピンポーン、ピンポーン、、。
「ほ~ら、来はったよ~」正直ホットする私。
「だれやっ!、わて、しらん、あんた、どこいくん!!」母の感覚は鋭い。私が何処かへ出かけることを見透かしている。
「お早うございます、00さん、お早うさん」笑顔で入ってきたヘルパーさん。
「うん、なにやのー?」警戒を緩めない母。
「00さん、ヘルパーの00です、お早うございます」その点を十分に心得た百戦錬磨のヘルパーさん。
「おはようございます」と母も、ペコリと頭を下げた。その隙に私は急いでカバンを取りに玄関へ、(何時もながら、すーっと母の心の中に入り込む、プロは違うと私は感心するばかりだ)。
「はい、お兄ちゃん、いってらっしゃ~い」とヘルパーさんが母に寄り添う。
「どこいくのー、アホかーッ、ほったらかしにしてーっ!!、」と、母の鬱憤が爆発。しかし、私は何の心配もなく出かけられる。母はこの一言を発することで、気分を一転させ、ヘルパーさんと二人で笑顔になるのだ。
「あんた、うんだおぼえないっ!!」母の日常、その(13)
某月某日 その時の感情をストレートに言葉にする。認知症の「病」の典型だ。対処に困るのは、その「病」を知らないからであると同時に生身で反応してしまうからだ。流れるままに受け止め、優しく声をかけることが肝要だ。もちろん、人により千差万別であるが、私はそうしている。
「しんどいから、イエ、かえろう~?」
「お袋ちゃん、今日は、学校(デイ施設)行く日やでぇ、カラオケ大会やから、歌だけ唄って帰って来たらえ~やん!」
「どんな、うたや?うとうてみぃ」母の好きな童謡を、私が、一節、口ずさむ。
「しってるぅ、そんなんかー?」
「そうやで~、お袋ちゃんの、知ってる歌ばっかりや!」
「しんどいねん、あんた、いきっ!」と、キッパリ。表情を見る。気だるそうな母。
「お年寄りの行く学校やからな~、僕は行かれへんねん」
「だれがっ!、としよりやーっ!」(しまったーっ、と、失言に気付いたが)。
「う~ん、お袋ちゃんやんか~」逃げてはならない、母の目を覗き込むようにして言う。
「わて、としよりか~、なんぼになった?」
「もう、90うん歳やんか~」
「アホかいなっ、そんななってないわー!あんたわ?」母の目が笑っている。
「僕は、お袋ちゃんの子供やから、50うん歳や!」
「へぇ、あんた、そんな、としか~?」
「そうやで~、なあ、学校行く用意するわな~」
「いけへん、イエかえりたいねん!」
「息子が頼んでんねんから、今日、学校行こ~な」
「むすこやて?、わて、あんた、うんだおぼえないっ!!」
「ん、、、、、、、、」(う~んまだまだやなー、と私)。学校の送迎車が来るまで、あと10数分、ヘルパーさんと協力して、説得しなければならない。
「はよしんかいな、ばかにしてんのんかっ!」母の日常、その(14)
2005/9/5(月) 午後 3:56
某月某日 認知症の介護で油断は禁物。徘徊や普段と違った行動がある場合は特に注意が必要だ。私はこれで、何度も失敗した。一人の「人間」として母とどう、向き合うか。
「おかぁさ~ん、おか~さん」母の声。時計を見ると、午前3時過ぎだ。
「どうしたん?、おトイレか?」母が四つん這いで私の寝ているリビングへやって来た。
「うん」頷くが、眠そうな顔をしている母。
「はい、行こうか!」母を便座に座らせようとした時。
「あーっ、お袋ちゃん、ちょっと待ってなっ、ウンチ出てるから、ほら、な~っ」
「ほんまやー!」と、母が。
「パンツ履き替えよ~な」この時私は、気づくべきであった。昨日の母の便がゆるかったことを、だ。
「もうえ~のん?」素早くオムツを履き替え終えた。
「は~い、履き替えたら、気持ちえ~やろぅ」
「うん、おなかな~、いたかってん!」やはり、母は下痢気味だった。
「そうか~、もう痛いことないか~?」
「いたない!」母を自室に寝かせ、5分も経たないうちに。
「にいちゃん、にいちゃん」と、母がリビングで寝ている私の足元を叩く。
「うん、おトイレ?」ようやく、私はしまった、と思った。母は、完全に下痢をしていたのだ。昨日、便がゆるかった時に何故すぐに気付かなかったのか。風邪薬、胃腸薬、頭痛薬、下痢止め、等は常備薬なのに。5回、6回、いや、7~8回、朝の7時頃まで。おトイレとの往復が続いた。全て出てしまったのか、母は、イライラも募り、疲れ果て、何度目かのおトイレで。
「はよしんかいな、ばかにしてんのんかーっ?おしりいたいわーっ!!」オムツ(母には、決して、オムツと言ってはならない。普通のパンツである)が一袋、無くなった。ズボンも3枚、便が付いて汚れてしまった。私が、洗濯機を回し始めた頃、よ~やく、母は、眠りについた。(お袋ちゃん、ご免な~、ゆっくり寝~や)。
「むつかしいねん、わかれへん?どうしよう~」母の日常、その(15)
2005/9/6(火) 午後 0:26
某月某日 認知症につきまとう「不安感」は「忘れてしまう」不安感だと、私は思っている。本人には、辛い、辛い「病」である。
「お薬飲もか?」
「なんの、くすりや?」
「うん、お袋ちゃん、咳するやろ~、咳止めや!」
「セキ、でてへん、いらん、あんたのみ!」
「どうしたん?毎日、飲んでるのに~」
「くすり、いらん、ゆうてるねん!」
「飲んどかな~、風邪引いたらあかんやろう」
「かぜー?、ひいてないわー!」
「う~ん、あのな~、引かんように、飲んどくねんで」
「あんた、のみっ!」
「僕は、もう飲んだよ~」
「いつ、のんだ、みせてみー」
「朝、ご飯食べて、さっき飲んだよ~」
「うそやろー、みしてみー!」(嘘は直ぐに見破られるのだ)。
「うん、、、、、ほら、こんな、小さいやつやで、飲んだら、風邪も引かへんし、腰の痛みもとれるで」
「コシィ?、いたないわー」
「ん、、、、あんな、お袋ちゃん、この薬な~、いつも、ちゃんと、飲んでる薬やで、そやから、飲んどこな~」
「いらん、あんたのいうてること、むつかしいねん?わかれへん?どうしょう~」
今日は、デイ施設でお昼の食後に飲ませてもらうよう、ヘルパーさんにお願いするしかないだろう。
「はよ、かえらしてゆーてんねん!!」母の日常、その(16)
某月某日 デイでの母の様子は連絡帳である程度わかる。が、詳細までは、ヘルパーさんに「今日はご機嫌でしたよー」、「今日は、ちょっと、おかんむりでした」等、の声を聞かなければ分からない。しかし、この一声が,私には有難い。送迎バスから降りてきた母、ちょっと、何時もと様子が違う。
「お帰り、お袋ちゃん、さあ、帰ろうか?」
「あの~、00さん、今日ちょっと便がね、何か、変わったことなかったですか、食事や水分は取っておられますか?」と、ヘルパーさんに聞かれた。
「なにしてんのん、はよかえるぅ」このやり取りを聞きつけて、母はおかんむり。
「ちょっと、下痢してまして、夕べ薬飲みましたから、もう大丈夫やと思います、朝も完食しましたし」
「そうですか、睡眠はどうですか?」
「はい、昨晩は徘徊も少なかったし、寝てるほうです」
「分かりました、変わったことがありましたら、教えてください、失礼します、00さん、バイバーイまた明日ね!」
「なにゆーてんのん、しらん!」
「どうしたんや、お袋ちゃん、何んか、あったんか?」
「はよ、つれていって、かえるから!」
「うん、帰ろ~な!」
「なにや、ぶつぶつぶつぶつ、、、」と、母は不機嫌そうだ。
何か可笑しい、機嫌が悪い。あれこれ、声をかけても、殆ど聞いていない。何時もの座椅子に座らせ、おやつを出そうと、声をかけると。
「そんなもん、いらん、はよ、うちかえらしてゆーてんねん!!」
母の気が静まるまで、少し時間を置いた方が良い。私は、母に一声かけて、洗濯物を取り入れにベランダへ逃げた。
「にいちゃん、で~へん、なんでかな~」母の日常、その(17)
2005/9/12(月) 午後 1:14
某月某日 どのような事が起こっても、決して慌てない。言動、行動、を否定しないで、とにかくまず、そのまま受け入れることである。デイ施設から送迎の電話が鳴った。
「りり~ん、りり~ん」
「はい、00です」
「00です、お早うございます、もう00分で参りますから」
「はい、分かりました、今日もよろしくお願いします」何時ものやり取りである。
「だれやー!」と、母。これも何時ものことだ。物音には敏感なのだ。
「学校(デイ施設を母はこう呼ぶ)から電話やでぇ、行く用意しよな~」
「きょう、がっこうかー?」
「そうやで、今日はカラオケ大会やで~」
「うたうたうんか~?」
「うん、お袋ちゃんの好きな歌だけ、唄ってきたらえ~ねん」
「それやったら、いくわー!」
「ほんだら、はい、行こうか~」準備は出来ている。母を玄関へ。エレベーターへ急ぎ、1階に降りるボタンを押しにダッシュする。
「どこいってんのん?」
「エレベーターのボタン押しに行ってたんやん」
「へぇ、こんなんのんのん?」
「そうやで、何時もこれに乗って、下へ降りて、学校のバスに乗るねんやん」
「しらんかった、にいちゃん、トイレいきたいねん?」
「うん、、、、、、、」10分ほど前に、おトイレに行ったばかりだ。急いで玄関の鍵を開けとりあえず、母をおトイレへ。こんなことは、しょっちゅうで当たり前の事だが。便座に座った母が。
「にいちゃん、で~へん、なんでかな~?」
「そうか、ほな、また出そうな時に、こうか~?」
「うん」と頷く母。流れる侭に、その流れには逆らわず。母はこうして、私を教育してくれるのだ。