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認知症の介護の「イ、ロ、ハ」は「排泄介助」から


「どうするん?」おトイレ、その(1)


2005/6/6(月) 午前 11:15

某月某日 介護の基本は、排泄をいかに気持ちよく、そして「人」として、扱うかである。認知症の場合は、会話と楽しく排泄させてやることが特に大切だと、私は思う。(ヘルパーさんから教わったのだ。私は自分で出来ることと出来ない事がある事を母から教わった。ケアマネさんやヘルパーさんは、私の教師である。教材は母が毎日提供してくれる)。


「お袋ちゃん、おしっこ、無いか~」粗相をさせて、母に恥じを欠かせない為に、この声掛けは大事なことだと私は思っている。


「ん~、ないよ」


「しといたほうが、え~んちゃうか?」母を傷つけないように、、、。この辺が難しい。


「ない、ゆうーてるやろーっ!」と、母が私を睨む。


「そうか~」母が目覚めてから、そろそろ3時間ほどになる。いつもなら、おトイレの時間だ。と、そのとき。


「おしっこ、したいな~」と、母がぽつりと言う。


「やっぱり、おしっこやろう、はい、行こ~うか」


「いま、したなったんやでー、やっぱりてなんやっ!」(しまったー、余計な、ひと言、返す言葉を間違えた)。


「うん、いま、僕がな~、行こか~てっ、言うたんやがな」(言い訳は禁物、正直に)。


「きいてない!はよ、しんかいな!」(ちゃんと見抜かれているのだ)。おトイレへ、母を便座に座らせ、私は対面して、その場でしゃがみこむ。


「ちょろちょろちょろ~、ゆ~てる、でたわー、にいちゃん!」と、ニッコリ。


「良かったな~、元気な証拠やで!」


「そうか、ふふ~ん、げんきなんかな!」と、嬉しそうに。


「そらそうや、うんち、も、おしっこ、も出てるんやから、元気やねん!」


「にいちゃん、かしこいなーよ~しってるなー」


「お袋ちゃんのことやったら何でも、知ってるで~」トイレットペーパーを取りながら、母にさまざま語りかける。


「そんな、よ~けいらん」


「お尻、洗うたら、このぐらい、いるで」


「おゆがな~、きもちえーわ!」


「綺麗にしてくれてるんやで」


「へぇー、そんなことできるんかいな~、もう、え~ねんけどな~、これから、どうするん?」はい、もちろん、私が、お尻を拭かしてもらうのだ。



 「はよしんかいな、ばかにしてっ!」おトイレ、その(2)


2005/6/7(火) 午後 0:26

某月某日 寝る少し前は、母の機嫌を細心の注意を払って、損なわないようにしなければならない。おトイレ、洗顔、歯磨き、そして、気持ちよく「お休みなさい」を迎えさせてあげるのだ。気分良くおトイレを済ませてだ。


「お尻洗うたら、気持ちえ~やろ、綺麗になるしな~」私が笑顔で言う。


「うん、ぬくいわ、キレイになるなっ!」母も笑顔で答えてくれる。


「拭いたら、もっと綺麗になるで」


「そうや、キレイにしとかなあかんねん!」用を足し、母のパンツを上げる時、パンツが汚れているのに気付いた私。


「お袋ちゃん、ちょっと待ってやー」


「なんやのん?はよして~な」


「パンツ履き替えとこか、ちょっとな~、汚れてんねんやんか」小声で言う。


「なんでやのんっ!」少しの異変も見逃さない母。


「うん、ちょっと、待っててや、そのまま、座っといてや~」私は、急いで、履くパンツを取りに行く。


「にいちゃん、にいちゃん、もうでるでぇー!」


「直ぐ行くから、ちょっと、そのまま、待っててや~!」


「さあー、これに履き替えよか、気持ちえ~で、綺麗なパンツやからな」母は、履くパンツ(いわゆる、オムツ、だが、この言葉は絶対に言ってはならない、母のプライドを深く傷つけることになる)と下着、そしてスラックス、の三枚重ね着している。


「みな、ぬぐのん?」


「すぐ終わるから、あーあ、触ったらあかん、汚れるやろ~」小声で。母が足をバタバタさせる。


「はよしんかいな、こんなんで、ばかにしてーっ!」(御免なー、僕が、もっと早よ気付いてたら)と、思うのである。


PS 今朝の新聞、TVニュースで70代から80代の兄妹が、8年前から寝たきりのお姉さんを「介護に疲れた」として殺害した「老老介護」の果て、と言う。



 「しめたら、あかんやんかー」おトイレ、その(3)


2005/6/8(水) 午後 0:42

某月某日 デイ施設での母の状況を、ヘルパーさんが「今日は、笑顔でご機嫌でしたよ」、「今日はちょっと、入浴を嫌がられましてね」など、出来事を知らせて頂く。私には、これが、非常に有難い。排泄の状況も私の方から「今日はどうでした?」と極力聞くようにしている。


「つれていってくれるのん、ありがとう、とおいのん?」おトイレの時間だ。


「うん、直ぐそこやで、もうちょっと、我慢してな~」


「あいよー、よ~しってるな、かしこいな」と、母の口癖。


「はい、此処やでぇ、ほ~ら、近いやろう」


「こんなとこにあったん、せまいな~」


「ここの手摺もって、ゆっくり座るんやで」便座に座る母。


「どうや、お尻ぬくいやろう?」


「うん、なんでやろ~な、ぬくいわ!」


「ちゃ~んと、座るとこな、温くまるようになってんねんで」


「へぇ~、にいちゃんがしたんか?」


「ちゃうよ、そういう風に、出来てんねんやんか」(いい加減な返事をしてはならない)。


「ふ~うん、あっー、でてきたわ!」


「ちゃ~んと出たな!」


「うんちも、したいけどな~、どうおもう?」


「してもえ~よ、我慢したら、あかんで」


「そうかな~」


「そらそうや、我慢したら、体に、悪いねんで」


「う~ん、う~ん、まだ、で~へんねん」しばらく、かかるかと、思った私は、手洗い用にお湯が出るようにスイッチを入れに行こうとして。


「しめたら、あかんやんかー、なにしてんのんっ!」私は、うっかり、トイレのドアを閉めようとしたのだ。母は、誰かがいないと、不安になるのだ。


PS 昨日に続き、心に澱が溜るニュース。石川県の「グループホーム(認知症の介護施設)で起こった事件の地裁公判で84歳の入居者を虐待死させた介護士」の弁が報じられた。現在、こうした「グループホーム」は全国に6000以上あるという。弱者が、さらに、弱者を、、、。その裏側に「国の福祉切り捨て」や福祉を食い物にする「金の亡者」の影がチラチラ映る。



 「ぽいっ!、、、」おトイレ、その(4)


2005/6/9(木) 午後 1:45

某月某日 認知症には、自然体で対応するのが一番である。何をしようと、何を言われようと、ありのままを受け入れることが、大切だと、私は思っている。便座に、ち~ん、と座った母。


「どうや、もう出ましたか?」出たか、出ないかは、関係ない。声を掛けることに意味があるのだ。


「うん、まだ、でるような、きがするねん」


「慌てんで、え~よ、ゆっくりしたらえ~ねんからな!」


「そうかな~、でーへんかったらどうしょう?」


「出る時は、出るんやから、何~も心配せんで、え~やん」


「わかれへんねん?どうしょう、アホになってんねん!」


「阿呆になんか、なるかいな、ちゃんと、トイレに来てるやんか、そうやろう!」


「そうかな~アホみたいやねん、あーっ、でそうやわ!」


「ほら~見てみぃ、阿呆と、ちゃうやんか、ちゃんと、出るよ!」


「でたわー、にいちゃん!」と、笑顔で声をあげる母。


「良かったな~、はい、ほな、拭こか!」と、私。


「だれがー?」と、母が。


「うん、拭いたるやんか?」と、私。


「きもちわるいっ!、じぶんで、ふくわいなっ!」と母。(母はプライドもちゃ~んと持っているのだ)。


「そうか~、ほな、この紙で拭きや!」母は、九の字の九の字になって、顔が床にくっつきそうになるくらい腰を折り、ティシュを自分のお尻あたりに、当てて一生懸命拭き始めた。


「えらいな~、拭けるやん、そのまま、ぽいっと、捨ててや!」


「ぽいっ、としたらえ~のん?」


「そうや」


「ぽいっ!」と、母は拭ったティシュを、私に投げた。


「あーっ!」私の顔面にティシュが当たった。(お袋ちゃん)便器の中へ、、、。


「ぽっい、、、やんか」とは、後の祭りである。母の前では隙だらけだ。(これが手裏剣やったら死んでるなー)。



 「こうして、おくらなあかんやんかっ!」おトイレ、その(5)


2005/6/10(金) 午後 0:54

某月某日 どのような、行動を取ろうとも、それを、決して否定してはならない。認知症と言う病にかかってしまったら余計に、そこには、人間としての、自立した世界があるのだ。その時、どのように、接するか、だ。


「にいちゃん、おしっこ!」早朝、母の声がした。私は急いで。


「はいはい、行こか!」と答え、母をおトイレへ。


「ゆっくりな~、慌てんでもえ~から」母を抱き上げ立ち上がらせる。


「はよー、どこやのん?」


「もう直ぐやからな!」


「はよしてー!」


「怒ったら、あかんやん、直ぐそこやからな~」トイレは一晩中開け放してある。母が夜中に徘徊して、自分で行くかも知れないからだ。常夜灯も一晩中燈してある。眠そうな顔をしながら、母は便座に一息ついて座った。


「ゆっくりしぃや」眠そうな母に声をかける。


「、、、、、、、、」眼を閉じてしまった。


「どうしたん?出~へんの?」と声をかける。


「でるぅ!」と、母。


「そんな、怒らんと、な~」


「わかれへん、ゆーてんねん!」眠気で、ご機嫌は余り宜しくない。


「自然に、出るから、心配せんでもえ~よ」


「あー、でたわ!」


「良かったな~、気持ちえ~やろ!」


「まだ、でそうやねん」


「うんちかな~」と、言ってみた。


「かもわからん?」と、母。


「ちょっと、電気つけてくるから、出るまで、ゆっくりしぃや」廊下の電気を点けに私は急いだ。トイレに戻ると。


「うん、お袋ちゃん、何してんのん?」


「、、、、、、、、、」母が、腰を折るような姿勢で。


「あーっ、それっ、あかん!、汚いやんかー」と、思わず私は声を挙げた。母は、ティシュで拭き取った便を両手で一生懸命包んでいたのだ。


「それ、うんち、やでぇー!」母を抱き起こしながら。


「なんやのん?こうして、おくらなあかんやんかっ!」便だらけで、くるまったティシュを持って、母が言う。


「分かった、わかった、手ぇー汚れるから、僕がするから、借してみぃ」慌てず、ゆっくりしてやるのが肝心だ。母の手にも、私の手にも同じものがつきました。



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