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認知症の介護は毎日が真剣勝負、が、力を抜いて「流れるままに」

     

    《2005年6月》


 「そうやねん、これもせなあかんから、いそがしいねん」


2005/6/1(水) 午後 0:33

某月某日 嬉しそうに、デイ施設から母が帰ってきた。一服したら、夕食だ。この、夕食を出すタイミングが、最近は、非常に微妙で、難しくなってきた。食べさせるまでが、その呼吸が未だ読めない。まだまだ、未熟。


「お袋ちゃん、夕飯出来たよ、食べよか~?」


「うん、、、、、、、」余り、乗り気でない、ご返事だ。


「僕も食べるから、冷めんうちに、はよ、食べよ~な」


「まだ、ちょっとな~」ポケットから、折り畳んだティシュを取り出し、一枚一枚、丁寧にテーブルに広げている。


「お腹すいたやろう、早よ、食べよ~」と、ゆっくり母を促す。


「あのひとだれ?」とテレビを指差す母。


「00さんや!」(まずい、母がテレビを見ると食事を嫌がるのだ)。


「そうか?しらんかったーっ、どこにすんでんのん?」(ま~あ、ゆっくり待つしかないか、と私)。


「00と違うかな~」(こう言う時に、適当な生返事をしてはならない)。


「ここどこやのん?」移り変わる、テレビ画面を見だした。


「00やろ~、この風景、見たことあるからな」(母と一緒にテレビを見てやる事の方が大切なのだ)。


「そうか、にいちゃんいったことあるのん?」


「うん、昔、行ったわ」


「はは~ん、こけてるわー、おもしろいひとやな~、だれや?」


「最近よ~出てる、漫才の人ちゃうかな~」話題を変えるタイミングは、母が笑顔を見せた時である。


「ご飯食べてから、ゆっくり見たらえ~やん」


「うん、、、、、、、、、」母がテレビから眼を離した。さきほど、広げたティシュを今度は、一枚一枚、折り畳み始めた。(しまった。ティシュの箱を隠すのを、、、)。


「お袋ちゃん、今日学校行ったから、もう、疲れたやろ?根詰めたら、しんどいで~」


「そうやねん、これもせなあかんから、いそがしいねん、どうしたら、え~とおもう?」


「うん、ご飯食べてから、したらえ~んちがうかな~」納得したのか、母は、ようやく、箸を手に取った。無理強いは、この病に一番悪いのだ。母と根気良く会話することで対処する。後は流れるままに任せれば良い。




 「あーびっくりした、し(死)ぬかとおも~た、あんたがわるいねんっ!」油断、その(1)


2005/6/2(木) 午後 0:39

某月某日 朝と夕食後には、母にお薬を飲ませなければならない。少し前までは、飲むのを嫌がっていたが、最近は、私もコツをつかんで、飲ませ上手になった。だが、これが油断であった。


「もうすぐ、学校(デイ施設)やから、薬飲んどこか?」


「はい、のまして」と、機嫌良く返事をしてくれた。


「はい、この小さいやつ、これは、00の薬やで」一粒ずつ、薬の効能を説明しながらだ。


「そ~うか、ちぃさいなっ」


「うん、簡単に飲めるよ」


「ほんまや!」と、母は私に口を大きく開けて見せる。


「はい、これも小さいやろぅ」


「なんのクスリや?」


「00の薬やで」


「のまなあかんかな~?」


「そら、飲んどいたら、楽やんか」


「そうかな~?」


「そうやで~、僕もさっき飲んだんやで」母は仕方なさそうに、口をあける。


「んん、、、」と頭をふりふりしながら、飲み込もうと一生懸命になる。その時。


「ごっふおー、ごっふおーっ」と母が顔赤らめ苦しそうに咳き込んだ。気管支にお湯が入ったのだ。咳き込んで母は苦しみの余り、嘔吐した。私は内心「しまった」と思いながら、慌てて、母の背中をさすったり、叩いたりして。


「お袋ちゃん、ご免な~、心配せんでも、もう、大丈夫やからな~」言いながら、ティシュで母の口を拭ってやる。


「ヒーぃヒーぃ、こっふーおん、ごっふおん!!」と母は何回か嘔吐した。しばらくして、ようやく、治まり。


「にいちゃん、クチがなぁ~ニガいねん~」涙目になる母。


「苦しかったか~御免な~、もう、飲まんで、え~からな」


「あーびっくりした、し(死)ぬかとおもう~たっ!、あんたがわるいねん!」涙をこぼしながら母が言う。


「そ~や、そ~や、僕が悪かった、もう、飲まんでえ~からな」言い訳は通用しない。一つ間違うと「死」につながる。「失敗学」と言う学問があるそうだ。1の事故には、29の要素が内在し、300の不注意がさらに内在しているそうだ(私の記憶違いであればお許しを)。母のケアに「油断」は許されないのだ。




  「あんたが、したん?」油断、その(2)


2005/6/3(金) 午後 0:33

某月某日 夕食後、母の顔が何時もと違う。はっと、した私。


「お袋ちゃん、下の入れ歯は?」


「あ~ん、あるやろー!」と、母が口を大きく開けて私に見せる。


「無いで~、何処やったん?」(しまった)と思い乍、聞く私。


「あったで~」と主張する母。


「して無いやんか~」(私の声はト~ンダウンする)。


「そのへんに、あるんとちゃうか?」と母。そう言えば、最近、下の入れ歯を、また、よくハズすようになっていた。デイでも、ヘルパーさんが、そのことを指摘していた。デイ用のカバンに「00さんの下の入れ歯」と書かれた紙包みが、別にして入れてあった。急いでカバンを探したが、見つからない。


「お袋ちゃん、今日な~、学校(デイ施設)から帰ってきたとき、入れ歯してたか?」


「ないのんか?わかれへん」かすかな望みは、デイで保管していてくれている、と思うことだ。


「そうか~、明日学校の人に聞いてみるわ」


「そうしたらえ~ねん」翌日、デイの迎えのヘルパーさんに、藁をも掴む思いで。


「すいません、母の下の入れ歯、施設で預かってませんか?」(駄目もとで聞いてみた)。


「えっ!、ありませんか、カバンに入ってませんでしたか?」と、ヘルパーさん。


「ありませんねん、何時もは、連絡帳のケースの中に一緒に入れて頂いていたんですが」


「そうです、00さん、最近、しょっちゅう、はずされますので。デイにはなかったです」


「お袋ちゃん、無いんやて」


「あんたが、したん?」と、悠然と母が言う。この1,2年、安心していたが、私の油断である。また、訪問歯医者に連絡しなければならない。下の入れ歯、4個目である。私は同じ失敗を何度も繰り返す、凡人であることを母から教わった。



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