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第5話:絶対支配の毒と、堕ちた新任教師

昨夜の「ヒーローごっこ」の余韻は、俺(御堂司)の退屈な日常に、ほんの僅かながら心地よい疲労感をもたらしていた。

(……やっぱり、正体を隠して圧倒的な力でねじ伏せるのは、悪くない暇つぶしだ)

 前世の鈴木誠だった頃には考えもしなかった、おっさん丸出しの中二病的な発想。そんなことをぼんやりと考えながら廊下を歩いていた俺は、曲がり角で誰かと軽くぶつかってしまった。

「あ、きゃっ……!」

 落ちたプリントの束。微かに香る、フローラル系の甘い香水。

 ぶつかったのは、今年この東都秀英中学校に赴任してきたばかりの新任教師、吉川よしかわだった。前世の記憶にある、吉◯という名の某美人女優によく似た、清楚で透明感のある顔立ち。年齢は二十代半ばといったところか。

「先生、ごめんなさい。ちょっと考え事をしていて」

 俺は、優等生らしい爽やかな笑みを浮かべてプリントを拾い集めながら、無意識のうちに――あるいは、昨夜の昂りが抜けきっていなかったせいで――カンストした【魅了・フェロモン】のスイッチを全開にしてしまっていた。

 ――ゾワッ。

 廊下の空気が、一瞬にして重く、甘い毒を孕んだものに変わった。

「あ……えっと……」

 プリントを受け取ろうとした吉川の手が、空中でピタリと止まる。

 彼女の透明感のある瞳が、突如として焦点を失い、トロンとした熱を帯びたものへと急変した。俺から放たれた『絶対的な雄の匂い』が、彼女の脳髄の理性というストッパーを瞬時に焼き切ったのだ。

「……大丈夫だよ、司くん」

 先ほどまでの新任教師らしい初々しい声は消え失せ、吐息混じりの、ひどく艶めいた女の声が変わっていた。

 吉川は、俺の手からプリントを受け取るついでに、俺の指先にねっとりと自らの指を絡ませてきた。妙に生々しいボディタッチ。

「……考え事って、なに? 困っていることがあるなら、先生が……ううん、私が聞いてあげる。放課後、誰もいない教室で、ゆっくり聞かせて……?」

 彼女は、俺の制服の胸元にそっと触れ、上目遣いで甘えるように微笑むと、フラフラとおぼつかない足取りで職員室へと歩き去っていった。

(……おいおい。ちょっとフェロモンを漏らしただけで、これかよ)

 今までで一番若く、極上の女ではある。だが、あまりにも呆気ない陥落に、俺はすでに少しの落胆と飽きを感じ始めていた。

 ***

 放課後。

 夕日が差し込む、誰もいない教室。

 俺が後ろのドアから静かに入ると、吉川は教壇の脇で俺を待っていた。

 いや、「待っていた」という表現は正確ではない。

「はぁっ……あぁっ……司、くんっ……遅い、よぉ……っ」

 彼女は、すでに自分の理性と闘うことを放棄していた。

 端正なブラウスのボタンは弾け飛び、タイトスカートは不自然に乱れている。夕日に照らされた彼女の顔は異常なほど紅潮し、その瞳には知性のかけらもなく、ただ俺という絶対的な熱源を渇望する「雌」の狂気だけが宿っていた。

 俺が来るまでの数時間、俺のフェロモンの残香だけで、彼女がどれほどの妄想に取り憑かれ、一人でその身を焦がしていたのかは想像に難くない。

「……先生。そんなに俺のことが待ち遠しかったんですか?」

 俺はゆっくりと歩み寄り、崩れ落ちそうになっている彼女の腰を、背後から強く抱きしめた。

「ひぐっ!? ああっ、司くんの匂いっ……司くんの、熱っ……!!」

「……我慢できなかったんですか、雌豚め」

 俺は、彼女の耳元でわざと残酷な言葉を囁いた。

 教育者としての尊厳を完全に粉砕する、その圧倒的な支配の言葉。

 だが、吉川にとって、俺から与えられる屈辱は、もはや極上のご褒美でしかなかった。

「あああっ! もっと……もっと私を、めちゃくちゃにしてっ……先生なんかじゃ、ないのっ……私は、司くんの、ただの……っ!!」

 カンストした【支配欲・カリスマ】の力が、吉川の精神を根底から書き換えていく。

 俺は彼女を教卓の上に押し倒し、その柔らかな首筋に深く歯を立てた。

「痛っ……! でも、もっと……司くんの印、いっぱいつけてぇっ……!!」

 俺は彼女の肌を愛撫しながら、その精神を底の底まで支配していく。

 彼女のこれまでの人生、努力して教師になった誇り、倫理観。それらすべてが、俺の圧倒的なフェロモンと暴力的なまでのカリスマの前に、薄紙のように燃え尽き、跡形もなく消え去っていく。

 俺の指先が彼女の柔らかな肌をなぞるたび、彼女の体はビクビクと跳ね、呼吸は浅く、狂おしいものに変わっていく。俺に直接触れられているという絶対的な事実が、彼女の脳内で致死量の快楽物質を分泌させていた。

「司くんっ、司くんっ……私、もう、頭がおかしくなっちゃうぅっ……!!」

 彼女は、俺の制服にすがりつき、涙と涎で顔をぐしゃぐしゃにしながら、ただひたすらに俺への絶対的な服従と忠誠を誓う言葉を叫び続けた。

 直接的な行為など必要なかった。俺の存在そのものが、彼女にとっての究極の劇薬であり、抗うことのできない絶対の快楽なのだ。

 ――小一時間が過ぎた頃。

 夕闇が完全に降りた教室の床には、ビクビクと痙攣を繰り返す、完全に精神を破壊リライトされた吉川の姿があった。

 焦点の合わない瞳で虚空を見つめ、口からはだらしなく熱い吐息を漏らし、その体は俺への絶対的な服従の証として、歓喜に打ち震え続けている。

 俺の言葉一つ、視線一つで、彼女はこれから先、どんな命令にも喜んで従う完璧な操り人形となった。

「……はぁ」

 俺は、教卓に寄りかかり、大きくため息を吐いた。

 乱れた制服のネクタイを締め直し、足元でヒクヒクと痙攣している美しい雌豚を一瞥する。

(……結局、今回も『ゲーム』にすらならなかったな)

 すべてが思い通りになりすぎる。どんな高嶺の花も、どんな厳格な女も、俺の前では数十分で自我を失う肉人形に成り下がる。

 カンストしたステータスがもたらすのは、絶対的な勝利と――果てしない、死ぬほどの退屈だけだった。

 俺は、床に転がる彼女に一瞥もくれず、薄暗い教室から静かに出て行った。

 この狂った軍事国家のすべてを壊し尽くすまで、俺の虚無感が満たされることはないのだろう。

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