第19話:気まぐれな呪縛と、極上の悪趣味
北の果ての港を後にした俺(御堂司)は、RZ-7のハンドルを切り、佳奈の住む秋嵩へと車を進めていた。
どうせこの車のGPS情報から、東都にいる神崎と村上には俺の動きなど筒抜けだろうが、知ったことではない。
(……あー、つまんねぇ。マジでつまんねぇ)
村上の最高傑作とやらが少しはマシな玩具になるかと期待して、わざわざこんな雪深い田舎まで足を運んだというのに。あの暗殺者は、俺の素振りの風圧だけで弾け飛ぶただの脆い肉風船だった。
最初はロマンを感じて楽しかったこのオーバーテクノロジーの車も、数時間運転すれば完全に飽きた。
この退屈を通り越した眠気をどうにかしないと、とてもじゃないが東都へ帰る気になれない。
(……そうだ。神崎のおっさんに、ちょっとした『お土産』でも持っていってやるか)
俺の脳裏に、極めて悪趣味で、残酷な遊びのアイデアが閃いた。
無意識のうちに口角が吊り上がり、悪意に満ちた笑みがこぼれる。それは、顔を覆う仮面の上からでもはっきりと分かるほど、邪悪な主の表情だった。
しばらく車を走らせ、秋嵩の寂れた住宅街にある佳奈の家に到着した。
玄関のチャイムを鳴らすと、「どなたですか?」と、年齢に似合わない透き通った女性の声が響いた。
ガチャリとドアが開く。
そこには、部屋着姿の佳奈が立っていた。彼女の視線が、俺の仮面と、そして全身から発せられる圧倒的な『支配者の気配』を捉えた瞬間。
「あ……っ。ご、ご主人様っ……! 来て、くださったのですね……っ!」
佳奈の瞳が一気に潤み、弾かれたように俺の足元にすがりついてきた。
俺が来るまでの間も、ずっと俺に与えられた快楽の記憶に囚われていたのだろう。すでに彼女の身体は、触れる前から熱く火照っているのが分かった。
俺は冷たい眼差しで見下ろしながら、カンストした【魅了・フェロモン】の蛇口をさらに大きく開いた。
俺を部屋に招き入れ、玄関の鍵が締まったその刹那。
佳奈は完全に理性を手放した『雌』となった。俺の首に腕を絡ませ、自ら縋り付くように唇を重ねてくる。俺はそれを受け入れ、彼女の口内を蹂躙するように深く、激しく舌を絡め合わせた。
「んちゅ……ぁっ、ご主人様ぁっ……」
甘い吐息と涎をこぼしながら、佳奈の震える手が俺の衣服の上から、熱を帯びた中心へと這い寄ってくる。
立ったままの状態で、俺たちは互いの衣服を乱雑に剥ぎ取っていった。
あらわになった彼女の雪のような肌は、すでに情欲で桜色に染まりきっている。俺は魔法を宿した指先で、彼女の最も熱く、そして濡れそぼった秘められた花弁を、薄布の上から優しく、時に残酷なほど激しく撫で上げた。
「ひぎぃっ! あ、ああっ、だめぇっ、ご主人様ぁっ、もっと……っ、直接、私を壊してぇっ……!」
自ら下着を脱ぎ捨てた佳奈の柔らかな深淵に、俺は指を滑り込ませた。すでにそこは、愛する主を受け入れるための蜜で溺れるほどに溢れかえっている。俺の意地悪な愛撫に、彼女は背中を反らせ、ついに絶頂の波に呑み込まれて甘い悲鳴と共に崩れ落ちた。
俺は、熱に浮かされ床に這いつくばる佳奈の頭を乱暴に掴み、俺の熱の塊を彼女の唇へと押し付けた。
「ほら、咥えろ。我慢しろよ」
俺の絶対的な命令に、佳奈はむせ返りながらも、愛おしそうに、そして必死に舌を這わせ、己の喉の奥深くまで俺を受け入れて奉仕を続ける。
やがて限界まで熱が高まったところで、俺は彼女の頭から手を離した。
そのまま彼女の身体を立たせ、狭い廊下の壁に手をつかせた背後から、俺の絶対的な楔を一気に彼女の最奥へと沈み込ませた。
「ああああぁぁっ!! 来たぁっ、ご主人様の、熱いのがぁっ!!」
激しく打ち付けられる腰。佳奈は白目を剥き、よだれを垂らしながら、壁にすがりついて自らも狂ったように腰を振り、これまでにない極上の快楽に悶え狂った。
廊下の床に寝そべらせ、さらに幾度となく体勢を変えて彼女の魂を抉り抜く。
そして最後。彼女がこれ以上ないほどの絶頂の叫びを上げた瞬間、俺は彼女の決して許されない最も深い揺り籠の中へ、沸騰するほどの熱い烙印を余すところなく注ぎ込んだ。
***
事後。
完全に精根尽き果て、床に転がって荒い息を吐く佳奈。俺はズボンを穿き直しながら、彼女の耳元に身をかがめ、絶対的な『神』として低く囁いた。
「――…………」
その残酷すぎる洗脳の呪縛。
言葉を聞いた瞬間、佳奈の瞳からスッと「人間としての光」が消え失せた。
「……かしこまりました。ご主人様」
虚ろな、だがどこか狂信的な微笑みを浮かべた佳奈は、ロボットのように立ち上がり、急いで外出の準備を始めた。彼女の下着の奥には、未だに俺が注ぎ込んだ絶対的な主の熱と匂いが、消えない証として深く刻み込まれたままである。
一方その頃。東都の国家情報省ビルでは。
「……あのクソガキ、青津からまっすぐ秋嵩の佳奈の家に向かいやがったな」
車のGPS信号を見ていた神崎は、怒りでデスクを叩き割らんばかりに苛立っていた。とはいえ、最強の刺客を一瞬で粉微塵にするようなバケモノに、今さら追手を差し向けたところで全滅は確定している。
「あの野郎……いつか必ず、どうにかしてやる……!」
神崎の瞳には、かつてないほどの濃い殺意が宿っていた。
それから数時間後。
東都の地下駐車場に、漆黒のRZ-7が滑り込んできた。
待ち構えていた神崎と村上の前に車が停まり、運転席から俺が降り立つ。
「よぉ、神崎さん。お土産っすよ」
俺がニヤリと笑った次の瞬間、助手席のドアが開き、佳奈が降りてきた。
「なっ……佳奈!?」
神崎が驚愕に目を見開く。佳奈は、まるで愛しい恋人を見つけた少女のように、迷いなく神崎のもとへ走り寄った。
「待て、神崎! 彼女の様子がおかしい!」
歴戦の勘で佳奈の異変を見抜いた村上が止めに入ろうとしたが、俺は一瞬で村上の前に立ち塞がった。
「まぁまぁ、ご老体は黙って見ててくださいよ。俺、神崎さんのことそんなに嫌いじゃないんすよ。だから、幸せになってもらおうと思ってね」
「貴様……一体何を……」
村上が戦慄する前で、佳奈は神崎の胸に飛び込み、すがりついて泣き崩れた。
「あなた……っ、愛しています……! どうか、私ともう一度再婚してください……っ、一生、あなたに尽くしますから……!」
涙を流し、狂ったような愛を囁く元妻。神崎は激しく戸惑いながらも、かつて愛した女の温もりを前に、震える腕で彼女を受け入れるしかなかった。
「……佳奈さんに、何をした」
村上が低い声で俺を睨みつける。
「別に? 『俺だと思って、神崎さんを一生愛して再婚しろ』って命令しただけっすよ」
俺があっけらかんと言うと、村上は怒りで顔を朱に染め、俺の顔面めがけて強烈な拳を振り下ろしてきた。
しかし。
「――ご老体、無理しちゃ駄目っすよ」
俺は欠伸をしながら、村上の腕を指一本でピタリと制止した。村上は顔を真っ赤にして力を込めるが、まるで巨大な岩山を押し退けようとしているかのように、一ミリも動かすことができない。
「あー、そういえば、車の鍵と銃は返しときましたんで。一発も撃たなかったから、今度どっかで試し撃ちさせてくださいねぇ」
俺がニヤニヤと笑いながら言うと、村上はハッとして自分の懐を探った。
いつの間にか、内ポケットのホルスターには『ライノケロス』が、そしてズボンのポケットにはRZ-7の鍵が、寸分の狂いもなく戻されていたのだ。気づくことすらできなかった圧倒的な速度差に、老将の顔からスッと血の気が引いていく。
「じゃ、俺はこれで」
神崎と佳奈の狂った抱擁と、村上の絶望的な表情を背に、俺は地下駐車場を歩き出した。
暗がりの中で仮面を外し、『クロノス』からただの退屈な中学生『御堂司』へと戻る。
「……ふふっ。今日は、エンディングがちょっとだけ楽しかったわ」
足取り軽く帰路につく俺の口からは、心の底から他人の不幸を楽しむ、悪魔のような呟きがこぼれ落ちていた。




