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第17話:退屈な超絶記録と、蠢く影

国家のエリートである吉崎担当官を完全に雌へと堕とした夜も、結局のところ、俺(御堂司)にとっては大した暇つぶしにもならなかった。

 翌朝。一泊二日の『防衛予備隊』適性検査、二日目のカリキュラムが開始された。

 グラウンドに集められた俺たちに告げられたのは「持久力テスト」だった。

 ルールは極めて単純かつ退屈なものだ。巨大なトラックを最後の一人になるまで延々と走り続ける。ただし、最後尾から一定の速度で追走してくるペースカーに追いつかれた時点で失格となる。

(……アホくさ。歩いたって追いつかれないだろ、こんなの)

 俺は心の中で大きな欠伸をした。

 スタートの号砲が鳴り、試験生たちがいっせいに走り出す。

 俺は極力、自分の能力をセーブしたつもりだった。目立たないようにジョギング程度の感覚で足を前に出しただけだ。

 しかし、それでも俺のスピードは異常だった。タイムにして100メートルを7秒台という、人類の限界を軽くぶち破るペースで爆走してしまっていたのだ。

 あっという間に先頭に立ち、後続の連中が瞬く間に豆粒のように小さくなっていく。

 後ろを走る試験生たちは、俺の背中を見ながら「あんな全力疾走のペースが続くわけない」「すぐバテて自滅するぞ」と嘲笑っていた。しかし、神のステータスを持つ俺にとっては、息一つ乱れることのないただの散歩である。

 トラックの脇でタイムを計測している試験官たちの中に、吉崎の姿があった。

 彼女は、クリップボードを抱きしめながら、グラウンドを駆ける俺の姿をじっと見つめていた。昨夜、俺の楔を最奥まで受け入れ、狂ったように潮を吹いた記憶が蘇っているのだろう。その視線はもはや厳格な試験官のものではなく、圧倒的な神を見つめるような、そして熱く火照った「雌」の瞳そのものだった。

 やがて、俺の目の前に一台の車両が見えてきた。

 最後尾の遅れた連中を回収するためのペースカーだ。俺はトラックを一周し、最後尾の車に「後ろから」追いついてしまったのである。

(……これ、抜いていいのかな?)

 ルールには「車に追いつかれたら失格」とはあったが、「車を追い抜いてはいけない」とは言われていなかったはずだ。

 俺は首を傾げながら少しだけスピードを上げ、あっさりとペースカーを抜き去った。窓越しに見えた運転席の軍関係者たちは、幽霊でも見たかのように目を剥き、信じられないという表情で固まっていた。

 そこからは俺の独壇場だった。

 次々と試験生を周回遅れにし、ごぼう抜きにしていく。その息一つ乱れない圧倒的なスピードと持久力は、瑞穂の防衛予備隊の歴史において誰も起こしたことのない奇跡の光景だった。

 そんな俺の姿を、特別監視テントの中からじっと見つめる男がいた。

 軍の制服を着た関係者たちの中に混じる、やせ細った白衣の男。分厚い眼鏡の奥の瞳には、冷徹な研究者のような光が宿っている。

 男の傍らに立つ部下らしき軍人が、信じられないものを見る目で震えながら口を開いた。

「所長……あの少年は、まさか……」

 部下が言いかけた瞬間、やせ細った男は無言で手を上げ、その言葉を制止した。ただ、じっと俺の走る姿をデータ端末と照らし合わせながら凝視している。

 やがて、トラック上から次々と試験生が脱落していった。

 体力の限界を迎えて倒れる者、あるいはペースカーに飲み込まれて失格となる者。

 最後の一人もついにスピード違反による失格となり、結果として、俺は一滴の汗もかかないまま圧倒的なトップでこのテストを終えた。

 最後にすべての健康状態をチェックする身体検査が行われ、長かった一泊二日のカリキュラムはすべて終了した。

 俺の心拍数や筋肉の疲労度などの異常な測定データに目を通したやせ細った男は、ポツリと呟いた。

「……違うな」

 男はそれだけ言うと、興味を失ったようにテントを去っていった。

 解散となり、施設を後にする俺の背中には、他の試験生や関係者たちの「バケモノを見るような目」が釘付けになっていた。

 だが、ただ一人。吉崎だけは、潤んだ女の瞳で、愛しい主人の帰還を見送るように俺を見つめ続けていた。

 ***

 数日後。

 自宅のポストに、防衛予備隊の検査結果表が届いた。

 封筒を開けた両親は、その紙切れを見て大歓声を上げた。学力、体力、精神力、すべての項目においてトップ――いや、「パーフェクト」の評価印が押されていたからだ。

「すごいわ司! これなら帝都学園も間違いなしよ!」

「ああ、我が家の誇りだ!」

 はしゃぐ両親を尻目に、俺はリビングのソファに深く沈み込み、大きく欠伸をした。

 国家中枢を揺るがすほどの異常な成績を残したというのに、俺の心にある感情はただ一つだけだった。

(……あーあ。本当に、退屈だったなぁ)

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