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第16話:灼熱の虚無と、国家の雌犬

夏休み中盤。ついに、ひどく鬱陶しい日がやってきた。

 俺(御堂司)の、十五歳の誕生日だ。

 だが、この国――瑞穂において、十五歳の誕生日はケーキのロウソクを吹き消して祝うような日ではない。『防衛予備隊』の適性検査試験が行われる日である。

 一泊二日で軍の施設に収容され、知力や体力を極限まで計測される。これに合格しなければ、第一帝都学園のようなエリート校への進学はおろか、まともな企業への就職すら絶望的になるという、事実上の「人生の足切りイベント」だ。数年前までは志願制だったらしいが、今では完全な国民の義務となっている。

「気をつけてね、司。あなたなら絶対に大丈夫よ」

「父さんも期待しているぞ」

 両親に見送られて家を出た俺は、大きく欠伸をした。

 緊張など微塵もない。ただ、果てしなく面倒くさい。神崎あたりを脅して「特例でパスさせろ」と命令しておけばよかったかと今更ながらに思ったが、その連絡をするのすら面倒だった。

 施設までは送迎バスが出ていたが、他のガキ共と詰め込まれるのは御免だ。俺は能力【敏捷】を軽く使い、誰の目にも留まらない速度で走ることにした。結果、あっという間に軍の試験施設に到着してしまった。

 正門前には、俺と同じように今日十五歳を迎えた同年代の少年少女たちが集まっていたが、皆一様に顔を青ざめさせ、吐き気すら催している者もいた。

(……くだらない。たかが底辺の兵隊ごっ子のテストで、何をそんなにビビる必要があるんだ)

 開門と同時に、スーツ姿の屈強な職員たちによって、俺たちは各教室へと振り分けられた。

 俺が案内されたのは「25号室」。

 教壇に立ったのは、二十代前半と思われる、黒いパンツスーツを隙なく着こなした女性担当官だった。前世の記憶にある「吉高なんとか」という小悪魔的な魅力を持つ女優によく似た、整った顔立ちをしている。

「私は25号室の担当官、吉崎よしざきです。これより検査を開始します」

 凛とした声で名乗った吉崎は、そこから延々と「瑞穂国民としての誇り」だの「国を愛する心」だの「世界を守るのは若い君たちだ」という、吐き気のするような精神論を語り始めた。

 俺は席に浅く腰掛け、ついウトウトと船を漕ぎそうになった。つい先日、この国の最高軍事機密すらあっさりハッキングして遊んでいた俺に対して、どの口が「世界を守れ」などとほざいているのか。滑稽すぎて笑いすら起きない。

 最初の検査は「学力」だった。

 配られたのは、分厚い問題用紙とマークシート。この超IT社会において、いまだに紙と鉛筆のテストとは笑わせてくれる。

「問題数は五百問。制限時間は六十分。……始め!」

 吉崎の号令と共に、教室中に鉛筆の走る音が響き渡る。パラパラと問題をめくった周囲の生徒たちが、「こんなの十五歳で解けるわけない……!」とさらに顔面を蒼白にさせていた。大学の専門課程レベルの難問が大量に混ざっているのだ。

(……なるほど、少しは骨がありそうだな)

 俺はカンストした【知能】と【器用さ】を解放した。

 視界がコマ送りのようにスローモーションになり、問題文を見た瞬間に脳内に正解が弾き出される。俺の右手は残像を残すほどの速度でマークシートを真っ黒に塗りつぶしていった。

 ――開始から、わずか五分。

 全五百問を完璧に解き終えた俺は、鉛筆を置いた。

(……しまった。ミスった)

 早く終わりすぎた。残り五十五分、この何もない教室でどうやって暇を潰せばいいのか、全く考えていなかったのだ。

 仕方なく、俺は頬杖をつき、教壇に立つ吉崎の顔をじっと見つめ続けることにした。もちろん、ただ見るだけではない。カンストした【魅了・フェロモン】の蛇口を、ほんの少しだけ開いて。

 鋭い視線を教室全体に配っていた吉崎だったが、やがて俺からの「熱線」に気づいた。

 最初は「不真面目な生徒がいる」と眉をひそめていた彼女の目が、十秒、二十秒と俺と視線を交わすうちに、急速に熱を帯びていくのが分かった。厳しい国家の試験官の顔が崩れ、気になる男子を意識してしまう思春期の少女のような――そう、つい先日デートした紀伊国屋優子のような、甘く潤んだ瞳へと変わっていく。

(……優子には、少し可哀想なことをしたな。確かに退屈だったが、二学期になったら付き合ってやってもいいか。彼女のいる中学生活も、少しは暇つぶしになるかもしれないし)

 国家の命運を分ける試験の最中に、俺はそんな底抜けにどうでもいい日常の予定を考えていた。

 やがて終了の合図が鳴り、解答用紙が回収された。

「次は、精神力と忍耐の検査に移行します」

 吉崎が教室から退出した瞬間、ガシャン! と重い音を立てて、すべての窓のシャッターが降りた。教室は完全に外部から遮断された密室と化した。

(……おっ? なんだ、バトルロワイヤルみたいに殺し合いでもさせるのか?)

 俺が少しだけワクワクしたのも束の間、スピーカーから無機質なアナウンスが流れた。

『これより、室内の温度を段階的に上昇させます。限界だと感じた者は、机の赤いボタンを押してください。速やかに別室へと退避させます』

 シューッという音と共に、エアコンの吹き出し口から熱風が吹き込み始めた。

(……はぁ? 暑さに耐えるだけ? なにそれ、死ぬほどつまらないんだけど)

 俺は深いため息をついた。暑苦しいのはごめんなので、俺は能力を使って自身の身体の周囲だけを『常に快適な常温』に保つよう設定した。

 瑞穂の「男女平等法」は異常だ。体力差を一切考慮しないため、この過酷な検査も男女混合で行われる。

 室温が四十度を突破した頃、教室は地獄絵図と化していた。限界を迎えた生徒がボタンを押すと、床の一部がエレベーターのように沈み込み、彼らを地下へと隔離していく。

 残った生徒たちは、たまらず制服を脱ぎ捨てていた。男子も女子も関係なく、汗まみれの下着姿でハァハァと荒い息を吐きながら机に突っ伏している。さながら変態的なサウナ教室だ。

 そんな中、俺だけが学ランのボタン一つ外さず、一滴の汗もかかずに涼しい顔で座っている。周囲の連中が「なんだあいつ……バケモノか……」と絶望的な目を向けてきたが、俺にとってはただの退屈な時間でしかなかった。

 次々と床が沈み、ついに教室に残ったのは俺と、根性だけで耐えていた坊主頭の男子の二人だけになった。だが、そいつもついに白目を剥いてボタンを叩き、地下へと消えていった。

(あーあ、これで終わりか)

 そう思ったが、一向にシャッターは開かない。どうやら「最後まで残った者」ではなく「どこまで耐えられるか」の絶対値の測定らしい。

 室温はさらに上がり続けているが、俺には全く関係ない。あまりにも暇すぎて、俺は腕組みをしたまま、ウトウトと本当に昼寝を始めてしまった。

 ***

 一方その頃、監視ルームでは。

「吉崎担当官! 室温がすでに百度を突破しました! サウナの限界値を超えています! しかし、25号室の『御堂司』の生体反応は……極めて安定しています! 心拍数にも乱れがありません!」

 計器を見つめるオペレーターが悲鳴を上げた。

「百度!? あり得ないわ、人間ならとっくに血液が沸騰して死んでいるはずよ! 即刻中止! 冷却装置を最大稼働させなさい!」

 吉崎は血の気を引かせて叫んだ。

 ガシャァァン!

 シャッターが開く音で、俺は目を覚ました。強烈な冷気が室内に流れ込んでくる。

 バンッ! とドアが開き、吉崎が血相を変えて飛び込んできた。

「御堂くん!? だ、大丈夫ですかっ!?」

 俺はわざとおどけたように笑い、涼しい顔で立ち上がった。

「ええ、全く問題ないですよ。俺、暑さには滅法強いんです。瑞穂のためなら、火の中だろうがどこへでも行く覚悟ですから」

 吉崎は、汗一滴かいていない俺の姿を見て、信じられないものを見るように目を見開いた。彼女は、生徒を焼き殺す寸前だった自身の落ち度への恐怖と、目の前の少年の底知れぬ異常性に圧倒されていた。

「……吉崎担当官」

 俺は、彼女の耳元に顔を近づけ、【魅了・フェロモン】を全開にして囁いた。

「今日、すべてのカリキュラムが終わった後……夜、二人きりで会えませんか? 瑞穂の輝かしい将来について、俺と『深く』語り合いたいんです」

 その瞬間。

 国家のエリートであるはずの吉崎の瞳から、一切の理性が消し飛んだ。彼女の膝がガクンと震え、タイトスカートの下で、どうしようもないほどの熱い蜜が溢れ出すのが分かった。

「あ……っ。……ええ、いいわ。夜、私の担当官室に……来てちょうだい。私も、あなたと……お話が、したいわ……っ」

 わなわなと震える声で、彼女は完全に「雌」の顔になってそう答えた。

 その後の反射神経テストや持久力テストなども、俺はすべてにおいて「測定不能」の数値を叩き出し、試験官たちを絶望させた。俺の心の中にあるのは「全く疲れないし、ただひたすらに退屈だ」という冷めきった感情だけだった。

 ***

 夜。就寝時間。

 俺はあてがわれた相部屋を抜け出し、吉崎の担当官室へと向かっていた。

「おい、そこの訓練生! 就寝時間は過ぎているぞ、部屋に戻りなさい!」

 廊下を巡回していた屈強な警備員に呼び止められたが、俺は立ち止まることもなく、彼を睨みつけた。

「……俺は吉崎に呼ばれて行くところだ。今、俺を見たことを忘れろ。いいな?」

 カンストした【支配の威圧】を叩きつけると、警備員は糸が切れた人形のように虚ろな目になり、「……はい」と力なく答えて回れ右をして歩き去っていった。

 吉崎の担当官室。

 鍵のかかっていないドアを開けると、そこはすでに、むせ返るような甘い匂いに満たされていた。

「……待ってたわ、司くんっ……!」

 昼間のキッチリとした姿はどこへやら。上着を脱ぎ捨て、ブラウスのボタンをはだけさせた吉崎が、俺がドアを閉めるが早いか、獣のように飛びついてきた。

 彼女は俺の首に腕を絡ませ、自ら貪るように激しい口付けを求めてきた。俺はそれを受け入れ、彼女の熟れた唇をこじ開け、舌と舌を絡め合わせて互いの唾液を交換する。

「んちゅ……っ、ぁあっ、司くんの匂い……っ、おかしくなりそうっ……」

 理性を完全に手放した吉崎は、俺をベッドに押し倒すと、自ら俺のズボンに手をかけ、絶対的な支配の象徴を外へと引きずり出した。彼女は美しい顔を股間にうずめ、まるで神に祈りを捧げるかのように、愛おしそうに、そして一心不乱に熱い口腔で奉仕を始めた。

「……ふん。国家の犬も、夜になればただの欲情した牝犬だな」

 俺は冷たい眼差しで見下ろしながら、カンストした【器用さ】を宿した指先を、彼女のタイトスカートの奥、すでに大雨が降ったかのように濡れそぼっている秘密の花園へと潜り込ませた。

「ひぎぃっ!? あ、ああっ、だめぇっ、そこ、そんなに早く弄られたらぁっ!」

 俺の魔法のような指使いが、彼女の最も敏感な真珠を執拗に転がし、同時に蜜の溢れる柔らかな襞を容赦なくかき回す。快感の許容量をあっ細く超えさせられた吉崎は、ガクンと腰を抜かして床に崩れ落ちた。

「あがっ! 司くんっ、司くぅんっ! 行くっ、私、おかしくなるぅっ!」

 白目を剥き、全身を痙攣させた彼女は、己の最奥から間欠泉のような透明な潮を激しく噴き上げ、床の絨毯に大きな染みを作った。

 だが、休ませるつもりはない。

 俺は、潮を吹いてビクビクと震える吉崎を抱き起こし、彼女の両脚を大きく広げさせた。そして、限界まで熱を帯びた己の楔を、彼女のドロドロに溶けた柔らかな深淵へと、一気に根元まで沈み込ませた。

「ああああぁぁぁぁっ!! 入ったぁっ、司くんの熱いのが、奥までぇっ!!」

 パンッ、パンッ!!

 静かな軍事施設の一室に、肉と肉が激しくぶつかり合う卑猥な音が響き渡る。

 俺のカンストした【絶倫】の腰使いが、吉崎の未だかつて知らなかった魂の奥底までを容赦なく抉り抜く。彼女はもはや言葉にならない甘い悲鳴を上げながら、俺の背中に爪を立て、狂ったように腰を絡みつけてきた。

「すごいっ、司くん、もっとっ、もっと私を壊してぇっ!! 瑞穂なんかどうでもいいっ、私を司くんの奴隷にしてぇぇっ!!」

 国家への忠誠など、俺が与える快楽の前に一瞬で消し飛んだ。

 長い、長いストロークの果て。互いの熱が限界点を超えた瞬間、俺は彼女の決して許されない最も奥深く、命の揺り籠のど真ん中へと、沸騰するほどの熱い白濁の奔流を余すところなく解き放った。

「あぁぁっ……! 熱いっ、司くんの、いっぱぃっ……入ってきゅぅぅっ……!!」

 吉崎は全身を弓なりに反らせ、この世のすべての幸福を味わい尽くしたような、だらしない極上の笑顔を浮かべたまま、完全に意識を手放して失神した。

 ***

 事後。

 精根尽き果て、俺の白濁で股間を汚したままベッドで眠りこける担当官を一瞥し、俺は淡々とズボンを穿き直した。

 窓の外には、静まり返った軍事施設の敷地が広がっている。

 国家の命運を懸けた試験。エリート担当官との情事。

 普通の十五歳であれば、心臓が破裂するほどの非日常なのだろう。

「……はぁ。いつもの、つまらない展開だなぁ」

 俺は大きな欠伸を一つして、吉崎の部屋を後にした。

 どれだけ無双しようが、どれだけ女を狂わせようが、行き着く先はいつも同じだ。俺の心の底にぽっかりと開いた虚無の穴は、今日もまた、一ミリも埋まることはなかった。

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