第9話 経験不足
さて、素材採取なのだが材料はいたってシンプル。
というかあっち側が求めてくるのはたった一つ。
魔晶石だ。
きっとそれ以外は揃っているのだろう。
魔晶石とは、魔素が集まり固形化した物質で、普通魔素は気体状でこの世に存在しているのだが、魔素濃度が非常に高い場所では魔素が圧縮され個体として存在する。
魔晶石の場所は大体絞り込めている。
それは洞窟だ。
洞窟は、中身が複雑で魔素が一度は良いたら出にくくなるし、大物魔獣の住処になっていることが多いから魔晶石ができやすい。
洞窟内では地球全土で行われる魔素循環が一か所で完結するしね。
まあとはいえ、大物魔獣が住んでいない環境を極力探さないといけないのは少々骨が折れそうだが、最近は魔王の影響もあっていろんな魔物が近くに住みつくようになったから大丈夫だろ。
「とりあえず一番の近場に行こう」
「クラ坊今日はどこ行くんだ? 依頼でもなさそうだし?」
「まあ、一種の依頼ですね」
2度目にもなる暗闇の通路を通り、城壁を超えた。
「一番近くとなると、サミドリ―洞窟だな」
サミドリ―洞窟は、湿地帯にある洞窟で、普通の冒険者は洞窟自体ほぼ近づかないから情報は限られる。
唯一あるのはリザードマンの目撃情報が何件か。
「もしかしたらリザードキングがいるかもね」
未知の出会いに心躍らせ暗闇だと思われた洞窟にもぐっていく。
洞窟内には川が流れており、その川の中をたくさんの小さな光が泳いでいく。
その様子はまるで、洞窟を照らすミルキーウェイのようだった。
「これでしばらく松明を使わなくて済むね」
「とりあえずこの水は回収しておこう。なんで光るか気になるしね」
その神秘的な光景を楽しみながら深く深く洞窟内をもぐっていった。
♢♢♢
もう十分くらいもぐっただろう。
ここまで来ても魔晶石が見当たらないということは、さらに深いか、そもそも見当違いのどちらかだろう。
考え、足を止めているときだった。
後方から三体の魔物の魔力を全身の触角が感じ取った。
「ついにお出ましですか……」
きっとこちらの動きを観察しているのだろう。すぐには飛びついてこないはずだ。
突然だった。
天井から弓で放たれた矢のように、三叉の槍を持った奴が勢いよく突進し、僕の右腕の皮をえぐり取りっていく。
地面に着地すると振り返り、僕の腹部に向かって思い切り振りかざす。
とっさに僕はその動きを読み、ウィンドジェットで凶器を押し返した。
僕に向かって向ける目は、ただ殺すことしか考えない凶暴な目だった。
リザードマン。
リザードマンは、基本集団行動をとり、リザードキングが形成する社会の中生活をする。
何をするにあたっても4人一組。
ハイリザードマン一体にその他だ。
知識を知っていたはずなのに防げなかった。
「これが経験不足か……」
赤い鱗に緑がかった目。
何よりすさまじいほどの身体能力。
間違いなくハイリザードマンだ。
「でもどうしてあんなに魔力を感じ取れなかったんだ?」
ハイリザードマンは一度他のリザードマンの所へ戻り、体勢を立て直す。
「一度場所を見破れられたんだ。さあどう攻めてくるか」
リザードマンたちが取った行動はシンプルだった。
次は真正面からハイリザードマンが突撃してくる。
後方を覗くと何か魔法を唱えているようだ。
その陣営はまるで、人間たちが取るパーティそのものだった。
タンクが前衛で時間を稼ぎ、魔法などで攻撃する。
「震えるねぇ~!!」
全身に、震えが走る。
人間のようなことをする彼らに怖さを覚えた? いや違う。
これはきっと──
「可能性を感じての興奮なんだ!」
相手の攻撃をウィンドジェットでいなしながら考えていると、リザードマンたちの魔法詠唱が終わり、一束の水塊がねじれ、地面をえぐりながら進んでくる。
その様子は、話に聞く竜そのものだった。
ギリギリまで、ハイリザードンは、僕を逃さんと攻撃を繰り返し続ける。
「ウィンドジェット!」
大きく後ろへ僕は遠ざかるが、ハイリザードンも追いついてくる。
「残念だが、僕がしたいのはよけることじゃない。ただ距離を作ることだ。逃がさないと大きく突進してきたお前の負けだ。ウィンドカッター!」
発動した時の距離は約0.5mだった。
文字通りハイリザードマンの体を盾形の三日月状をした大きな空気の刃が、左右に真っ二つにし、続いて水の塊も割いていった。
その先にいたリザードマンたちは、ただただ驚き、地面に腰が落ちる。
「やっぱり知性がある分人間みたいな反応をするんだねぇ~。いやぁ~面白い戦いだったけど、これで終わりだね」
彼らに近づき、首に風をまとわせた右手を当て、思い切り左に振り切った。
「さて、魔晶石探しに戻ろう!」




