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第3話 幸せな夜

「さて、そろそろだな」


 深夜0時、計画開始。


 クローゼットにある、古びた黒のコートに身を包み、部屋の窓から静かに降りる。


「ごめん父さん、母さん。この知識欲のために僕は外に出るよ」


 伝わらないはずの言葉を静かに吐き捨て、周囲を見渡す。


「夜の街ってこんなに静かで気持ちいんだ……」


 夜空に光る星たち、人っ気のない静かな道が僕を迎え入れているようだった。


「さて、確か門は開いてないはずだけど、どうやって出るか……」


 この城壁国家セルゾアには門が二か所ある。


 東門と西門だ。


 だがこの二つは締まっている。


 基本的に夜は強い戦力を持った大勇者パーティや騎士団のトップクラスの層の人たちしか出れない仕組みになっている。


 それも昼のうちにだ。


 夜は住民に被害が出ないように完全閉鎖されている。


 まあそれほど夜の魔物が強いってことだから楽しみではあるんだけどね。


「仕方ない、もうあれしかないか……」


 この国家で最も治安が悪い地域、南セルゾアに移動する。


 無法地帯の影響なのか、さすがに家の近くよりは明かりが見える。


 まあ地域というより一つの施設が問題なだけなんだけど。


 そのおかげでこの周辺は監視が少ないからチャンスだな。


「壁の高さ7メートル。いけそうだな」


 高さを図ると足元と手のひらから大量の空気を発生させ、地面に向かい強い力で噴射し、壁を勢いよく飛び越える。


「おっとっと! 着地むずいな。まあ楽しいからよかったんだけど。この魔法にも呼び名つけたいな……」


「さて、スライム探しの時間だ! まずは一体でもいいから見つけないと。じめついてそうな近くの池を探すか」


 スライムは基本水辺の近く、湿地にいるため手あたり次第に探しに行く。


「ウィンドステップ!」


 さっきの魔法の基礎。


 地面を蹴った瞬間と同時に風圧で押し出し一歩一歩の歩幅と勢いを強くし相対的に走る速さを向上させる魔法。


「我ながらネーミングセンスありすぎるな! がはは!」


 時間は有限なのでそれからは黙々と探し始めた。


 ♢♢♢


 深夜3時。


「ついに見つけたぞ!!」


 見つけたのは青色の粘液の魔物スライム。


「どこの湿地探してもなかなかいなくて苦労したよぉ~。まさか池の中にもぐってるなんて。一回りしたのが馬鹿馬鹿しいよほんとに。まあ会えたからいいけど」


 スライムは明らかにこちらに警戒して戦闘態勢だ。


「まあそうだよね。いきなり人間来たら怯えるよね。まあちょうどいい。図鑑に書いてたこともちょうど試したかったし」


 スライム側はこちらを様子見するようにじっと動かずにいる。


「でも学校の魔法忘れちゃったんだよね。しばらく使ってないから。とりあえず覚えてる限り詠唱はなしで再現しますか……」


「ウィンドカッター!」


 鋭い空気の刃物がスライムの粘液に当たりえぐり取っていく。


「核に当たってないからよかったものの嘘じゃんあれ! いや、きっと無詠唱な分、僕の威力改良が少しでもかかったんだきっと。今思うともっと弱かったもん」


 一人でぶつぶつ呟いてるのが気に食わないのか、スライム全身全霊で顔面向かってタックルを仕掛けてくる。


 その光景が一瞬だけキルラに殴られた瞬間を彷彿とさせ僕は一瞬怯んでしまう。


「あんなに食らったはずなのになかなかトラウマは消えないものだね……そろそろ終わらせようか」


 あらかじめ細工してきた鉄籠をスライムが向かってくるタイミングに突き出し捕獲する。


「あらかじめ魔力を持ったものが一度はいると出られない魔法陣を張ってきたからもう逃げられないよ~スライム君やぁ」


 その知識欲むき出しの顔に怯えたのかそこからは魔物じゃないスライムのように反応がなくなった。


 捕まえた湿地は出てきたところのすぐ近くだったので、時間には余裕を持って帰れそうだ。


 それからは来た時と同じ足取りで戻っていく。


 まだ3時ということもあり静かだ。


「正直ずっとこの静かな空のもと、星空を眺めていたいたいけど、帰らないとね」


 次もまた絶対に来ると決め壁を飛び越えた。


 町中を見渡すと案の定静かだ。来た時よりもだいぶ。


 そんな誰もいない静かな道を一人で、いや一人と一匹で優越感に浸りながら歩いて行った。


 ♢♢♢


 家に戻るとまだ両親は寝ていた。まあいつも6時に起きるから当然ではあるけど。


 それからは、久しぶりに流した汗を流し、いつも通り机に向かい、今日の出来事などをメモしてから布団についた。


「なんか、一人だけど一人じゃないみたいでいいね。明日からは研究漬けだ!」


 その朝は、目標を達成した喜びと明日から待つ研究の楽しみを抱え、いつもより幸せな睡眠をとれた気がした。



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