第16話 勇者の意地
反対側が気になるが、今は自分のやることに集中するしかない!!
やることはずっと同じだ。オリバーさんが集め、俺が切る。
違うのは一点。あっちは疲弊しきってない新しいゴブリンが来続けるに対し、俺達はずっと魔力と体力を消費し続ける。
こいつらを倒しきればもう居なくなるなんて保証はない。
だがそれしか手段がなかった。
「まだか!? ミサリザァァ!!」
返答はない。詠唱に集中しているのだ。
詠唱は約5000字。
「少なくとも後5分か……」
「キルラさん! コイツラもお願いします!!」
それからは死に物狂いで耐え続け、ついに待ち望んだ時間になった。
「煉獄の果に沈みし静かな炎よ、我が魂、我が血肉を介し顕現せよ! ルイメスドワン!!」
優雅な翼を持った白鳥型の灯火が、勢いよく滑空し、一体のゴブリンに衝突する。
勢いよく燃え上がり、骨も残さずに死体になった。
死体の灰から2羽、そしてまた衝突し8羽とネズミ算式に増えていき、気づけば視野範囲のゴブリンたちは消滅していた。
それと同時にミサリザは足から崩れ落ちた。
俺達も、中央の空き地に倒れ込むように座り込んだ。
「やりましたかキルラさん!!」
「ああ、ちょっと休憩してから戻ろう。今のミサリザを運ぶのは危険だ」
ルイメスドワン。彼女の奥義であり、諸刃の剣だ。
ネズミ算式に増える炎の鳥を顕現させ、視野にいる範囲の物を燃やし尽くす魔法。
強力だが、使用者への負担と魔力消費の影響により使える場面は限られる。
大物魔物に対してはあまり効かないかもしれないが、多数の敵にはめっぽう強い。
「ほんとにバケモンだよお前は」
「でももっと派手で強力な魔法もあったはずなのに何でこんなに地味で最高火力が物足りない魔法を覚えたんでしょうか?」
「カマガラ、白鳥が好きなんだよミサリザは……」
幼い頃、俺らは良く親と一緒に壁外に遊びに行った。
たくさんの野原で追いかけっこなどでたくさん遊んだ。
そんな中、毎回欠かさずミサリザが向かう場所があった。それは、湿地にある池だ。
池の中、数時間ずっと彼女は白鳥を見続けるのが好きだった。
池の水が反射する光に照らされた彼女の横顔は天使のように綺麗だった。
「なんですか? 惚気か?」
「ちげ、いや、惚気だ。付き合ってはないが俺の一方的な好意を持ってるのは事実だからな」
「認めるなんて珍しいですぅ。でも一つ弱みを握れた」
「あはは、そうだな」
空元気を返した俺は再び地面の冷気を全身で感じ取れるよう倒れ込み、ただただぼーっと空を眺めた。
夜は夕焼けに染まった頃、俺は鉛のように重い体を起こし、全員を叩き起こし回った。
「もう? まだ早いよぉ〜」
「ミサリザ、甘えたことを言うな。日が沈んだら魔素がより充満するし強力なモンスターも出てくる。早めに帰らないと命に関わるんだ」
伸ばしてくる彼女の手を引きながら俺は説明した。
「ほら、皆馬車に乗ってるぞ。お前も早く乗れ」
「わかってるよぉ〜」
全員が中央に持ってきた馬車に乗り込み、馬を走らせた。
俺はそのまま安全に帰り、昇進する。そう思っていた。
「あれゴブリンじゃないかですか?」
来た道を戻ろうとしている馬車の前に一体のゴブリンが立ちふさがっていた。
嫌な予感がした俺は、周囲の状況を汲まなく把握するため、目を凝らす。
「予感は的中か……」
俺等の作戦を模倣したかのように、ゴブリン箱の村の周りを等間隔で囲っている。それもかなりの数なので八方塞がりだ。
ゴブリンの輪は、見える範囲でも8重になっていた。
「これどうするんですか……」
顔色がみるみる青澄んでいく中、さらなる悪夢が襲いかかる。
「グオォォォォォォォォ!!」
キガル炭鉱山がある方向の森から大きな地響きと共に、空気を裂きながらこっちに向かう化物が居た。
声が近づくたびに、俺の心拍数も上がっていく。
ドスンという地響きと衝撃波を再びお越し、眼の前に現れたのはミノタウロス。今の俺達じゃ勝ち目のない存在だ。
周囲の人を見ると、狂って笑う騎士団と、ただ無言に鳴りながら体を震わす二人がそこにはいた。
俺は自分が狂っているとその時思った。
こんな状況なのに、昇進のチャンスと思い、何故か俺には勝利のビジョンを持ってしまった。
後に思うと、昇進のために俺の脳が勝手に勝てると俺に刷り込ませたのかもしれない。
行動は早かった。
「聖なる力は勇者の根源、今ここに力を与えたまえ! ギルザエガン!!」
空気ではない魔素が大地を割りながら突き進み砂埃を起こす。
ギルザエガンは歴代勇者に伝わる最終奥義である。
自分のマナを剣に圧縮し放つ。圧縮されたマナは斬撃となり相手を切り、その傷口からマナが入り込み、相手を魔素症候群まそシンドロームへ追い込み死に至らせる魔法だ。
「どうだ……」




