第1話 僕は引きこもりになった
深夜3時、ある普通の一軒家の子供部屋から、淡い光が漏れ出ている。
夜は魔物が狂暴化しているため、みんなが寝静まっている時間帯なのにだ。
「スキンチェンジ!」
スイリア・クラーク18歳。
忌子で有名な黒髪の短髪に、透き通った琥珀色の瞳、男としては少し低い168㎝の身長をしている。
「スキンチェンジ、今までは髪の色も同時に変えようとしていたからだめだったのかな? とりあえず分けて考えてやってみよう」
「ヘアチェンジ、スキンチェンジ!」
そう唱えると髪の色が毛根から緑色に変色し、顔の形も老けたおじいちゃんになっていく。
「よし! 成功だ! せっかくならイメチェンするか?」
そう決めると鏡の前まで今までの自分の髪や顔に戻しながら歩いて行く。
「さぁ~て、どうしようかなぁ~」
考えながら鏡を見ると自分の顔が映し出されるのと同時に、古い記憶が蘇る。
それと同時に胸が急に締め付けられ、息の仕方がわからなくなった。
───2年前───
「おいクラーク、俺と決闘しようぜ」
「でもこんな闘技場の隅じゃ先生も見てないし始められないよ?」
「そんなの後でどうにでもなろ、じゃあ開始な!!」
一筋の太刀が顔面に振り下ろされ、ギリギリのところで体をそらす。
「ちょっと急すぎるって! 待ってよキルラ!」
それからも止まる様子はなく、ただひたすら防御に回る。
「こんなんじゃ埒が明かねぇな、お前ら来い!」
「やっとかぁ~。どんな手段で良い悲鳴出すかシミュレーションも飽きるとこだったぜ」
「え?」
キルラの後方から続々人がやってくる。3人くらいなはずなのに、僕の目には数十人規模に見えた。
「じゃあ続きだなぁ!!」
これがセルゾア国立学院での地獄の始まりだった。
それからもキルラたちからの罵詈雑言や暴力は耐えなく続いた。
きっと、僕がすべての成績でトップだったのが気にくわなかったんだと思う。
人というのは簡単な感情で動いてしまう醜さに僕はこの時気づいた。
それから僕は、引きこもりになった。
最初は魔法や剣術以外の科目に意味を見出せず辞めたという強がりな理由をつけて慰めていたが、それは言い訳で、いじめや成績維持をしなければならないプレッシャーが原因だということも薄々気づいていた。
引きこもり生活では、好きな魔法をとことん調べた。
家にある魔導書は読み漁り、疑問に思ったことはすぐ検証し試し続けるというシンプルな生活。
もちろん親には見損なわれたと思う。
最初は説得を試みてきて、喧嘩になったこともある。
だから僕は親の起きてる時間に起きなくなり、夜の住人になったのだ。
───現在───
「イメチェンはまた明日にしよう。それがいい」
「今日は魔物図鑑をちょっと読みながら寝るか」
魔物図鑑、基本学院に入学したらみんなもらえる代物だ。
名の通り魔物の生態について書かれているが、メインは殺し方についてだ。
どこが弱点か、何の魔法が有効か、物理は利くかなど。
「ミノタウロス、接近戦では相当な技量、もしくは1体に対し5人以上いない場合は勝てないと思え。基本魔法で攻撃すべしか」
まあ確かに筋肉量すごいもんな。
「たまに言語を話す個体あり、情を移さず殺せ。魔物は魔物だ? 言葉をしゃべる個体かぁ~。いつか遭遇してみたいなぁ~。何考えてるんだろ?」
「スライム、初心者でもおすすめ。初期魔法を打ち返すが、中級魔法なら半分の可能性で打ち返す。上級魔法ならほぼ確実に仕留めきれる」
「一番のおすすめは核を鋭い刃物で貫く」
一番のおすすめを一番大きく表示しろよ!
てかちょとまて? 核ってあるけど核って何でできてんだ? 魔晶石? それともその他? 気になりすぎる。とりあえず今日は書き出して寝よう。
魔法図鑑を埃が少し被った本棚へしまい、机に向かい使わなくなった剣術ノートに書きだしてから布団に入る。
「寝るの嫌だな……」
僕にとって寝る時間は苦悩でしかない。たくさんの思考が頭をよぎりなかなか眠りにつけない。
それに過去の記憶や負の感情がたくさん出てくるからだ。
今日はみんなの卒業式か。誰が勇者になったんだろ? 僕もあの時は……考えるのはやめよう。
そうやって思考が止まるわけではないけど。
セルゾア学院卒業という名のレールから外れたんだもんな、僕は。
未来が見えない。だからと言ってこのままじゃダメなのも分かる。
考えながら母の顔、父の顔、そして幼いころの親友の顔が頭をよぎる。
そのたびに罪悪感という大岩が僕の心に負荷をかける。
「アヤネ、僕はどうしたら……」
そう何かにすがるようにして僕は眠りについた。
──────あとがき──────
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