プロローグ
目の前にはーーー死体があった。
乾き切った皮膚。閉じた瞳。動かない胸。
風の音が壁の隙間から唸るように吹き込んでいた。
床には薄く霜が張り、踏みしめるたびに微かな音を立てて砕ける。空気は重く、冷たさが毛皮の防寒具を通り越し、皮膚の内側まで染み込んでくる。
壁の一部が剥がれ、断熱材のような物が飛び出している。端には錆びた機材が並び、配線は垂れ下がり、コードの先は断ち切られている。
棚は破壊され、大事な書類だったのだろうファイルは砕けた物、欠けているものが散乱。室内ガラスが無造作に割れ、破片が点々と光を反射し、床の一部には黒ずんだ液体の染みが広がっていた。
天井の梁はひび割れ、今にも崩れそうに影を落としている。
部屋の奥には、使われなくなった寝台があり、その上には冷たく微動だにしない布がかけられている。
誰かがここにいた痕跡はあるが、それがいつのものかはわからない。時間だけが、静かに積もっていた。
先ほどまでの吹雪が嘘のように静寂に包まれ、崩落しかけた天井の裂け目からスポットライトのように光が差し込んだ。それが主役だと言わんばかりに。
こんなところにいたのかと、頭では冷静に見つめる自分がいた。だが心が追いつかない。標高が高く、酸素が薄い事が原因ではないだろう。色々な感情が心の中で沸いては消え、言葉にならない産声を上げた。その声は誰にも届かず、ただ胸の奥で静かに揺れていた。




