最愛
最愛の人が死んだ。ずっと、生まれたときから大好きだった。もっと長生きするものだと、何の根拠もなく勝手に思っていた。
死因は痴情のもつれ。まるでそれが心臓発作と同じ類みたいだけれど、突然背後から刺されたかのだからこう言っても間違いではないだろう。親戚がそうコソコソ馬鹿にしていた。私の最愛であることは知っていたはずで、聞かせる気はなかったのだと思う。私はショックで微動だにしていなかったから、聞いていないと勘違いしたのだろう。最愛を愚弄したあいつらは最愛を殺した奴と一緒に、私が責任を持って呪ってやると心に誓った。
葬儀はつつがなく進行していった。眠るように瞳を閉じているその顔は死してなお美しく、妖精のようなその肢体は死してこそ儚さを増していた。死こそが最愛の魅力を完成させた、それに私は気がついた。最愛を殺した奴は、最愛を完成させた奴だった。呪うのは親戚だけにしてやろう。
最愛の死体は火葬場に運ばれた。可能な限り一緒にいたかったから、私は移動中もずっとその尊顔を眺めていた。もう数時間でこの肉体が消えてしまうと思うと、悲しくも高揚する。最愛が火葬炉に運ばれ、私もついていく。扉が閉められた。
毎日何度も鏡で見た最愛なる顔が炎に包まれていくのを、私は上から恍惚と、見下ろしていた。




