Prolog2 大地の魔法使いの奥方
この世界の魔法使いは、光の神の末裔であると考えられていた。
特に、神と同じ銀髪と銀色の瞳の人々は、確実に神と交わって出来た者たちであり、特別な存在とされてきた。
光の神は、しばしば人界に時には勇者として、時には、荒廃した王国の国王として現れていた。
神の直系だという、エル・ロイル家に嫁いだカタリナ奥方は、ビルラード王国の第二王女で、東方の美姫として名前を馳せた人物で、同時に大地の魔法に長けた人物であった。
その力は、砂漠にオアシスを作ってしまうほどで、その魔力に手を焼いていた兄王、ラルフォンにエル・ロイル家に10代で預けられるというものだった。
そのカタリナの父王こそ、イリアス・ロイルだったことは誰も知らないことだ。
美しく成長したカタリナは、やがて二人の子を生んだ。
しかし長男が病弱だったため、その子に付きっきりになることが多く、カタリナの力は彼女の息子に多く注がれることになった。
ーーーー13年が過ぎて、長男、ティランの病状は安定してきた。
そうして、カタリナは念願だった夫、ミルドランと西域への旅に出た。
カタリナにとっては久しぶりの旅だった。
姉の駆け落ちについてきて以来の遠出だ。
「長、あれがゼナの花ですか?
こんなに遠くなのに、ここまで香りがしますわ。あの大輪の花びらは、闇夜には輝いて、旅人にオアシスの方向を教えてくれるそうですわ」
「はしゃいでいるな。カタリナ、でももとは我らの祖神のテリトリーではなかったのだ。いつの頃からかゼナの花もロイルの神の象徴のようになっているがな……」
「まあ……何があったのでしょう?」
それが、エル・ロイル家の当主、ミルドランが妻とかわした最後の会話だった。
その日の夜、カタリナは謎の失踪をした。