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第95話 ウィステリア神国大神殿4 精霊教典 謝罪

 ともあれ、部屋で待機することになったため、大神殿や神都チェフーボ全体の見取り図、人事情報など、さまざまな資料を受け取った。


 これらの情報をゴーレムと共有すれば、諜報活動の効率が飛躍的に向上するはずだ。もちろん、それだけでなく、今後の行動を判断する材料にもなる。


 受け取った書類の中には「精霊教典」も含まれていた。


 そういえば、散々精霊教会に世話になっておきながら、どんな教えなのかまったく知らなかったな……。そう思い、教典を開いてみると、


 歴史、魔法、哲学、科学、神への戒律、人間に関する規律――といった分類で書かれていた。


 あれ、これ、私のサーバーにも同じものがある。……そうか、教典の内容は神様が管理することになっていて、人間が勝手に改変するのは禁止されているんだ。改定には神の許可が必要、と……。


 でも、神様は勝手に内容を変えていいのか。不平等じゃない? まあ、人間に関する規律については、他の教えと矛盾しない限り自由に設定できるみたいだけど。


 ……あれ? 後ろの方の条項、サーバーにはないよ?


 《第104条(仮)》

「教典への追加条項について、神様からの返事が1年経ってもない場合、仮の条項として運用する。ただし、その後、神様から返答があれば、それに従うものとする」


 ――なるほど。神様がいなくなって許可が下りなくなったから、こういう規則を追加したんだ。


 あっ……例の決まりも仮条項なのか。


 《第106条(仮)》

「回復に関わる魔法に闇魔法の使用を禁じる」


 ……それにしても、もっと自然にサーバーから情報を引き出せないものかしら? 微妙に不便なのだけど……。


 そう思った瞬間、頭の中の人が答えを返してきた。


「通常は、生まれた時から精霊システムのサポートを受けて育つため、脳の神経細胞が自然と適応します。しかし、あなた様はまだサポートを受け始めたばかりなので、脳との連携が十分ではありません。時間が経てば解消されますので、気長にお付き合いください」


 ……うーん。なら、しょうがないか。



 そんな日々を過ごすうちに、魔物に襲われた負傷者が続々と運び込まれ、私たちにも治療の要請が入った。


 私たちは身分が高い扱いのため、騎士や士官の治療を優先的に担当することになった。しかし、それだけでなく、他では治療が難しい重傷者の処置も任されることになり、ここしばらくは毎日回復魔法をかけ続ける日々が続いた。


 そして二週間ほど経った頃、ようやく状況が落ち着きを見せ始めた。どうやら、神都チェフーボに迫っていた魔物の群れは撃退されたようだ。


 そんな折、ゴーレムのムシュマッヘから連絡が入った。


「オキサーリス王国シティシペの冒険者ギルドから輸送を請け負いました。現在、神都チェフーボの冒険者ギルドにドラゴンスレイヤーの勲章と申し送りの書類を届けたので、報酬を受け取れるはずです」


 ――ムシュマッヘが運んできたの? そういえば、精霊教会に対する他国の動きを探るため、オキサーリス王国に戻っていたんだった。とはいえ、ウィステリア神国に入ってからは陸路のはず。魔物騒動の最中、よく無事にたどり着いたな……。


「それともう一つ、アルマセン爺さんがキュレネ様に謝罪をしたいと申し出ています。いかがいたしましょうか?」


 ――なるほど、それは重要かも。


 さっそくキュレネたちに伝えると、彼女たちもアルマセン爺さんとは一度話をしたいと思っていたらしく、会うことに異論はなかった。


 ちょうど冒険者ギルドからも、ムシュマッヘが届けたドラゴンの件について連絡が入ったため、神殿の外へ出ることを決めた。


 私たちのお世話係であるミア神官に外出の調整を頼んだものの、すぐには許可が下りず、結局、明日になってしまった。その旨をムシュマッヘに伝え、昼に宿屋の一室を借りて会うことになった。



 翌日、前回護衛を務めてくれたヴァルキュリア聖騎士団のエイルさんとカーラさんが、今回も同行してくれることになった。


 アルマセン爺さんとの面会は、大きな宿屋のミーティングルームで行われた。申し訳ないが、護衛の二人には部屋の外で待機してもらう。


 まず、アルマセン爺さんから丁寧な謝罪があった。


「これまで、私の勝手な願望により、キュレネ様たちの行動を妨げてしまったこと、誠に申し訳ございません。今後は、キュレネ様の意向に沿って活動することをお許しください」


 それに対し、キュレネは冷静に答える。


「本当に勝手なことをしてくれたわね。私たちがどれだけ苦労させられたか……。それに、仲間のティアにも手を出したそうじゃない。とても許せるものではないわね。


 少なくとも、これまでのマイナスを打ち消すだけの償いをしてもらってから考えるわ」


 ――あれ? 言ってることは厳しいのに、実質的にはアルマセン爺さんの申し出を受け入れてる……?


「ありがとうございます。では、償いの一環として、いくつか情報をお伝えします。その前に、昼食をご用意しましたので、どうぞ召し上がりながらお聞きください」


 合図とともに、豪華な食事が運ばれてくる。


「どうぞ、召し上がってください」


 そう促しながら、アルマセン爺さんは話し始めた。


「今回、神都チェフーボへ侵攻した魔物の件ですが、どうやら南のシドニオ帝国が関与している可能性が高いようです」


 そこから、彼は細かい情報まで詳しく語った。そして最後に、こう締めくくる。


「この件には、魔人も暗躍しているという噂があります。どうか十分お気をつけください」


 キュレネは静かに頷いた。


「そう……ありがとう。気をつけるわ」


 キュレネは、微妙に厳しい対応をしているわね。まあ、それはそれとして……シドニオ帝国か。あのマーナガルム事件のときに関与していた国よね。あのときは、クヴァーロン王国とバンパセーロ王国にちょっかいを出していた。それに、魔人といえば――ネコ探しのときのアンデッド事件の犯人。あのとき、トゥリスカーロ王国で多数のアンデッドを使って何か企んでいたけど、あれもシドニオ帝国の関与なのかしら?


 そんなことを考えていると、アルマセン爺さんが話を続けた。


「それからもう一つ、精霊教会本部……つまり大神殿内の権力争いについてですが、どこまでご存じですか?」


 キュレネが答える。


「デジーロ大神官長が引退するので、その座を狙ってグレゴリオ派とフロイス派が争っている、というくらいね」


「各国の上層部では、グレゴリオ大神官とフロイス大神官のどちらが大神官長になっても、たいして変わらないだろうという見解です。ですので、下手に宗教的な争いに巻き込まれないよう、介入には消極的なスタンスを取っているように見受けられます。今のところは、ウィステリア神国内部の問題として、大神殿内の力関係で決着するのではないかと考えられています」


 なるほど、つまり他の国にとっては、どちらの派閥が勝とうが関係ないってことね。


「ウィステリア神国の国民は、どう思っているのかしら?」


「成り行きを気にしている人は多いですが、現時点では明確にどちらかを推す勢力は少ないように感じます。おそらく国民も、どちらが勝っても大差ないと考えているのではないでしょうか」


 つまり、国民にとっても大した影響はないと。そうなると、今いるグレゴリオ派に肩入れしても問題はなさそうね。


 ……とはいえ、しばらくは静観しておこう。


「なるほどね。情報ありがとう。引き続きお願いするわ」

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