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第93話 ウィステリア神国大神殿2 病状の確認

「ようこそ、おいでくださいました」


 そう声をかけてきた人物に案内され、私たちは応接室へと通された。


 部屋の中で待っていたのは、黒に白の線が入った神官服を着た上級神官の男性と、紫神官服をまとった女性の二人だった。


 まず、ベルナルド神官長が「無事に例の三人組を連れてきたぞ」と、どこか誇らしげに語る。


 その後、自己紹介が始まった。


 上級神官の男性はヴィクトルさん。

 見た目は30代くらい。細身で高身長、金色の短髪にメガネという出で立ちで、どこか堅物そうな雰囲気がある。グレゴリオ大神官の補佐を務めており、私たちの監督者のような立場らしい。基本的には、この人の指示に従って行動することになるという。


 一方、紫神官の女性はミアさん。

 年齢は20代くらいで、緑の髪をすっきりとまとめている。穏やかで人当たりの良さそうな雰囲気の人だ。彼女は、グレゴリオ大神官邸での私たちのお世話係を担当するとのことだった。


 本当はすぐにでもグレゴリオ大神官の様子を見に行きたかったが、今は寝ているらしい。

 それに、私たちも長旅で疲れているだろうということで、今日は休むように言い渡された。


 ミアさんに案内された客室は、まるで貴族のために用意されたかのような豪華な造りだった。


 さらに、食事も後で部屋まで運んでくれるらしく、かなりの好待遇を受けていることがわかる。


 最後に、ヴィクトルさんから「外出の際は護衛をつけるので、事前に予定を知らせるように」と念押しされた。



 三人になり、ひと息ついたところで、キュレネが口を開く。


「ちょっと面倒なことになったわね。この様子だと、グレゴリオ大神官の治療を終えたらすぐに解放される、なんて都合のいい展開にはならなそう。気づけば勝手にグレゴリオ大神官の陣営に組み込まれているけど、それが吉と出るか凶と出るかもわからないのが厄介だわ」


「じゃあ、私たちはここで情報を集めるとして、外部の動きも探らないとね。この前のゴーレムを使って調べてみるよ。それと、ついでにメディオ=アルマセン爺さんも巻き込んでおくね」


 そう言いながら、私はゴーレムのムシュマッヘに連絡を取った。


 急ぎなら手が足りないとのことだったので、まだ起動していなかった諜報用ゴーレム9体をすべて起動し、計11体で情報収集にあたることにする。


 ちなみに、これらのゴーレムに上下関係はなく、すべてが連携しながら情報を共有し、最適な役割分担で動く仕組みになっている。


 少しキュレネが困ったような顔で話始める。


「それから、もう一つ重要なことがあるの。『エクストラヒール』のことなんだけど……あの魔法書を受け取ったときの言葉、覚えてる?」


「うん。このエクストラヒールは闇魔法も組み合わされているから、使用を禁止されているって話でしょ?」


「そう。下手に使えば異端者として処分される可能性がある――。今は権力争いに巻き込まれている最中だから、余計に危険よ。グレゴリオ大神官の治療には必要になると思うけど、使うとまずいかもしれないわ……」


「あー、それなら、とりあえずキュレネは使わないほうがいいね。気づいているかもしれないけど、私が使っているエクストラヒールは“大聖女”が使っていたオリジナルそのものだから、問題ないはずよ」


 というか、管理者になるときにインストールされた魔法の中に同じものがあったので神様仕様なのだ。さすがに禁止されることはないと思う。


「やっぱりそうなの? なんかおかしいとは思っていたけど、そういうことだったんだ。ティアのエクストラヒールのほうが効果が高いし、ずっと何かが違うと感じていたのよ。

 そういえば、大聖女サルースも“ハイヒューマン”だったのでは、って噂があったわよね。そう考えると納得がいくわ。じゃあ、難しい治療はティアに任せるわね」


 その後、食事を済ませて落ち着いた頃、お世話係のミア神官が訪ねてきた。


 明日の朝食についての確認と、その後の予定調整のためだ。


 話し合いの結果、朝食後に先ほどの応接室へ集合することになった。



 翌朝、応接室を訪れるとすでにミア神官が待っており、少ししてヴィクトル上級神官も入室。軽く世間話を交わした後、五人でグレゴリオ大神官の部屋へ向かった。


 部屋に入ると、グレゴリオ大神官はベッドに横たわったまま、こちらに顔を向けた。


 以前会ったときは恰幅のいい体型だったが、今はすっかりやつれ、血色も悪い。


 それでも、私たちの姿を見るなり、静かに口を開いた。


「おお、来てくれたか。いろいろと活躍しているようで何よりだ」


 私は一番に近づき、問いかける。


「病状を確認させていただいてもよろしいですか?」


「ああ、頼む」


 私は軽く頷き、魔法を発動する。


「ヒール」


 エクストラヒールの効果で、病状を解析する。


 ――毒による障害発生中。毒の種類はマギトキシン系……消去可能。


 マギトキシン系の毒……魔力障害を引き起こすタイプか。


 この知識は、管理者サーバーにあったものだけど、こっちの世界ではどこまで知られているのだろう?

 考えつつも、そのまま解毒を施す。


 あまりやりすぎるのもよくないので、解毒だけにとどめておくことにした。


「魔力障害を引き起こす毒にやられていました。解毒はしましたので、あとは毒の影響で損傷した部分が回復すれば大丈夫でしょう」


「君のヒールは、解毒の効果もあるのか?」


「はい。秘伝のヒールですので。ところで、いつ毒を受けたのか、心当たりはありますか?」


「いや……毒を盛られた実感はまったくない。それに、これまでも毒の可能性を疑い、何度か解毒魔法をかけてもらったのだが、一向に良くならなかった……」


「そうですか。私の見立てでは、毒が消えましたので今の状態であれば普通のヒールでも、回復するでしょう」


「なるほど。では、私の担当の光神官にヒールをかけてもらおう。君は他の者の診察を頼む」


 そう言われ、私たちは一度部屋を出て、次の診察へ向かうことになった。



 同じ病状の患者は、いずれも地位の高い人物ばかりだった。


 そのため、彼らは皆個室におり、それぞれの部屋を訪問して診療する必要があった。


 途中で、私はキュレネと相談した。


「解毒魔法が効くのか、効かないのか、試してみない?」


「そうね。もし普通の解毒魔法が有効なら、わざわざエクストラヒールを使う必要ないものね」


 次の患者は、ヴァルキュリア聖騎士団長のブリュンヒルデさんだった。


 ここへ来るとき、ペガサスに乗っていたエイルさんやカーラさんの上司にあたる人物だ。


 ミア神官がブリュンヒルデさんとその従者に説明をし、治療の許可を得る。


「では、診せてください」


 私は魔法を発動した。


「ヒール」


 ――エクストラヒールによる解析開始。


 ――毒による障害発生中……


 一度、魔法を中断し、キュレネに声をかける。


「グレゴリオ大神官と同じ毒みたい。試しに解毒魔法を使ってみてくれる?」


「分かった」


 キュレネが魔法を発動する。


解毒アンチドート


 しかし、彼女はすぐに首をかしげた。


「うーん……手ごたえがないわね」


「確認するね」


 私は再びエクストラヒールを発動し、解析を行う。


「……やっぱり、毒はそのまま残ってるわね。キュレネ、解毒魔法の魔法陣を教えてもらってもいい?」


「いいけど……っていうか、あなたに渡した基本の魔法書に載ってるわよ?」


「ええっ、そうなの……?」


 そういえば、あの頃は魔法がうまく使えなくて、解毒魔法の習得まで進めなかったんだ。

 その後、インストールされた魔法は練習しなくても使えたから、魔法書を見ることもなく、鞄の奥にしまったままだった……。


 鞄の奥から魔法書を取り出し、解毒魔法のページを開いて確認する。


 そして、私は自分の中の人に問いかけた。

「なんでエクストラヒールで解毒できて、この解毒魔法ではダメなの?」


 すぐに答えが返ってくる。


「この解毒魔法は光属性の魔法で構成されています。しかし、この毒は光属性だけでは無毒化できません。無毒化には闇属性が必要です。エクストラヒールは複合魔法なので、この毒にも対処できるのです」


 なるほど、そういうことか……。


 でも、この話をそのまま皆に説明していいんだろうか?


 闇魔法のことも絡んでくるし、ここで下手に話すのはやめておこう。


 私は顔色を変えずに答える。


「原因はすぐには特定できませんが、とりあえず私の魔法をかけておきますね」


 そう言って、再び魔法を発動する。


「ヒール」


 ――エクストラヒールによる解毒処理、完了。


「これで、あとは普通のヒールでも回復すると思います」


 ブリュンヒルデさんが、少し怪訝そうな表情を浮かべながら口を開いた。


「あなたのヒールは、普通のヒールとは違うのですか?」


「ええ、秘伝のヒールなので、少し特殊なんです」


「……そうですか。分かりました」


 納得してもらえたようだが、毎回こうやってごまかすのも心苦しい……。


 その後、私たちは残りの患者の部屋を順番に回り、あと10人分の解毒を終えた。

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