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第88話 大迷宮23

 まずは、どうすれば攻撃が通るのかを見極める必要がある。

 思考を巡らせ、戦闘の記録を頭の中で再生する。


 ――攻撃が当たった箇所の魔力壁が薄くなり、修復には約1分かかっている。


 つまり、一度の攻撃で突破できなくても、修復前に同じ場所を連続攻撃すれば魔力壁を突破できる可能性が高い。


 さらに、今のところドラゴンは攻撃を避ける素振りを見せていない。ならば、確実に当て続ければダメージを与えられるはずだ。


 私はこの考えをキュレネとムートに伝えた。


「エクストラブースト!」


 2人が身体強化魔法を重ね掛けし、戦闘態勢を強化する。


 最初に動いたのはキュレネだった。


「アイスジャベリン!」


 鋭い氷の槍が放たれ、ドラゴンの左足首に命中する。


 その直後、ムートが踏み込む。


「パワーストライク!」


 渾身の突きが、同じ場所へと突き刺さる。


 さらに、キュレネがハルバードを振りかぶり、魔力を込めた必殺技を叩き込む。


「インパクトクラッシュ!」


「ぐああああ!!!」


 ドラゴンが初めて苦痛の叫びを上げた。


 ダメージが通った――作戦は成功したようだ。


 だが、すぐさまドラゴンは飛び上がり、空中へと舞い上がる。


「驚いたぞ……まさか我がダメージを受けるとはな。だが、ここまでだ」


 空中からこちらを睨み下ろす。


「同じ手が通じると思うなよ」


 次の瞬間、ドラゴンの口元に膨大な魔力が集まる――ブレス攻撃だ!



 キュレネとムートは別々の方向へ走り出す。


 ドラゴンはキュレネをターゲットに定め、強烈なブレスを放った。


「グランドシールド!」


 キュレネが咄嗟に土魔法で壁を生成する。


 ――ドォン!!


 凄まじい衝撃が走り、土壁が一瞬で崩れ落ちる。かろうじて直撃は防いだものの、防御魔法の限界を感じさせる威力だ。


 その隙を突き、ムートが横からブレスを放つ。


 しかし――


 ドラゴンは軽々と身を翻し、ブレスを回避する。


「くそっ……! 当たらない……!」


 空中で自在に動き回るドラゴンに攻撃を命中させるのは至難の業。

 ましてや、同じ箇所に連続で攻撃を叩き込むなど、ほぼ不可能に近い。


 逆に、ドラゴンはムートに狙いを定め、連続でブレスを吐き始めた。


 ムートもブレスで迎撃するが――


「ぐっ……!」


 威力差で押し負け、後退を余儀なくされる。


 ドラゴンが空に飛び上がったことで、戦況は一変した。


 圧倒的な機動力を活かしたブレス攻撃をかわすだけで精一杯。徐々に回避が追いつかなくなり、キュレネもムートもダメージを受け始めている。


 一方で、こちらの攻撃は命中率が低いうえ、仮に当たっても魔力壁に阻まれダメージを与えられない。


「……うーん、どうしたもんかな」


 そろそろ私も参戦した方がいいか?


 そう考えていると、ムシュマッヘから通信が入った。


『ブリガンティンを確保しました』


「了解。船で待機しておいて」


 とりあえず裏の問題は片付いた――。


 だが、戦況はあまりよくない。


 どうする……?



 突然、ドラゴンの視線が私に向く。


 今までまるで関心がなかったかのようだったのに――


「ゴォォォッ!!」


 突如、強烈なブレスが私に向かって放たれた。


 だが――


「アンチマジック」


 発動した瞬間、ブレスは霧散し、まるで存在しなかったかのように消え去る。


 ――頭の中の人の言う通り。ブレスと魔法は同じなんだ。


 ドラゴンの目がわずかに見開かれる。


「……なんだ今のは?」

「貴様、戦えるのか?」

「ならばなぜ参戦しない?」


 ……おっ、まさかの3連続質問。


 まぁ、答えは一つでいい。


「では、参戦させてもらうわ」


「……ほう」


 ドラゴンを倒す方法はいくらでもある

 でも、周りへの被害は避けたい。


 この前、ここでインストールされた光の魔法――あれが良さそうね。


 私は右腕を前に突き出し、ドラゴンを指さす。


「ゴッドレイ」


 私の指先から、鋭い光線が一直線に放たれた。


 光線がドラゴンの右翼の少し下を通る。わずかに指を持ち上げると――


 光線がその動きに追従して動き、そのまま右翼の下から上に移動する。


 直後――


「グォォォォッ!?」


 ドラゴンの右翼が胴体から切り離され、宙を舞った。


「ギャアアアアア!!」


 片翼を失ったドラゴンは、切られた側を下にして落下する。


 ――ドォンッッ!!


 大地が揺れるほどの衝撃音と共に、ドラゴンが地面へ叩きつけられた。


 光線は背後の壁面を貫通していたが――


 "ダンジョンの自動修復が発動"


 穴が空いた場所から海水が流れ込んだものの、数秒もしないうちに修復が完了。


 被害、ほぼゼロ。


 ……よし、成功だ。



 ドラゴンは無事なようだが、もう飛ぶことはできないだろう。


 ならば、またキュレネたちに任せて静観しよう――そう思った矢先、



 ドラゴンがゆっくりと起き上がり、鋭い眼光をこちらに向けてきた。


「おまえはいったい何者だ?」


 でも、返事を待つ気はないらしい。


「グォォォォ……!!!」


 大きく口を開き、ブレスを放とうとする――が、


「マッハテンペスト(弱)」


 私が手加減した風魔法を放つと、それがちょうどブレスを吐く直前の口内に突っ込む形となった。


「――ッ!? ゴブッ!! グォオォォ!!?」


 ドラゴンの咆哮が苦悶のうめき声へと変わる。


 口内で暴風が暴れまわり、ブレスを押し戻されるようにして暴発。


 苦しげにもがく。


 私の戦いぶりを見ていたキュレネが問いかけてきた。


「ねえティア、もしかして……ドラゴンも瞬殺できる?」


「どうやらそうみたいね」


「そうみたいって……それがどれだけおかしいことかわかってる?」


 キュレネは呆れたように言うが、私は肩をすくめるだけだった。


「よくわからないけど、今はドラゴンを何とかする方が先でしょ?

 極力私は手を出さないようにするから、2人で戦ってみて」


 ドラゴンを倒すのは簡単だ。


 けれど、それではキュレネたちは「自分の力でドラゴンを討伐した」という経験を得られない。

 実績があっても、それに見合う自信が伴わなければ意味がない。


 少し手助けはしてしまったけど、それでもこの戦いは2人の成長の場であってほしい。


 キュレネは一瞬、不満そうに目を細めたものの――


「……わかった」


 すぐに覚悟を決め、再びドラゴンへ向かっていった。


 心の中で、「頑張って」と願う。


 ――その瞬間だった。


 何かの魔法が発動してしまった。


 なにこれ?


『神の祝福』が発動しました。

 頭の中の人が教えてくれた


 ……えっ?


 同時に、キュレネとムートの体から淡い光が立ち上る。


 見る間に息が整い、表情が引き締まっていく。


 どうやら体力や魔力が回復し、自分にとってのベストコンディションを引き出す効果のようだ。


 ……これはいい。


 単なるチート能力ではなく、「自分の実力を最大限に発揮できる」というのが肝心なところ。


 この状態なら、2人は"自分の力で戦った"という実感を得られるはず。


 魔法が発動してしまったので、2人に声をかける。


「ベストコンディションになる魔法をかけたわ! 頑張って!!」


 キュレネとムートは一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに決意を固めたように頷く。


「……行くわよ、ムート!」


「ああ!!」


 2人は全力を尽くすべく、ドラゴンへと駆け出した――。



「これはありがたい。これならアレができそうだ。エクストラブースト」


 ムートは切れていたエクストラブーストをかけ直すと、


「ドラゴンウイング」


 と唱え、背中からドラゴンの翼を生やして空へと舞い上がった。


 ――あれ? チート能力が付与されてない???


 なんでベストコンディションになると翼が生えて飛べるの? おかしくない?


 そう思った瞬間、あることに気づく。


 そういえば、さっき「これならアレができそう」って言ってた。 ってことは、コンディションさえ良ければ前からできた……?


 チート付与魔法じゃなくて、元々の能力ってこと?


「プラチナムブレス」


 ムートが、今までとは違う銀色のブレスを吐いた。


「ファイヤーウォール!」


 ドラゴンが防御魔法を展開する。直撃するとマズいと判断したらしい。


 だが、ムートのブレスは炎の壁を突き破り、ドラゴンに直撃した。


 ――しかし、ダメージは浅い。


 ドラゴンは怯むことなく、無数のブレスを吐き、空中のムートに猛反撃を仕掛ける。


 ムートの動きをかすめた瞬間、ドラゴンは自分の優位を誇示するように叫んだ。


「貴様、そのブレスを使えるとは……まさか上位のドラゴンか? 人化したまま戦っていたのか? なぜ完全な竜化をしない? そんな中途半端な部分竜化で、我に勝てると思うなよ!!」


 ――ドラゴン? 人化? 竜化?


 ムートって、竜人族じゃなくて……ドラゴンなの!?



 キュレネも、小さく呟いた。


「これなら……アレができるかも」


 ――もしかして、キュレネも空を飛ぶの!?


 彼女はハルバードをしまい、代わりにレイピアを手に取る。


「エクストラブースト」


「ハイデンシティ・マジックエンチャント!! プラズマソード!!」


 次の瞬間、キュレネのレイピアが眩い光を放った。

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