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第81話 大迷宮16 知りたくなかった情報1

 それから数日が経ち、ようやく交渉の日取りが決まった。その間、クランの上層部はあらゆる伝手を使って根回しをしたり、噂を流したりと、交渉の準備に奔走していた。


 一方、私たちはリュカオン討伐の功績を称えられ、「ビーストマンスレイヤー」の称号を授与された。しかし、その後は特にやることもなく、宿での休息にも飽き始めていた。そんな折、キュレネを訪ねてくる客があった。


 その客は、南の領地を治めるインゼル伯爵の使者だった。インゼル伯爵は、キュレネの実家であるマルヴァ家を支援している貴族の一人で、近くまで来ているならぜひ訪れてほしいとのこと。断りづらい相手だったうえに、暇を持て余していたこともあり、キュレネはムートとともに訪問することにした。


 ただし、招待されたのはキュレネとムートの二人だけ。私は留守番だ。まあ、貴族の作法なんて知らないし、行かなくて正解だ。


 本当はちょっとだけ行きたかったけど......。


 こうして、キュレネとムートは一週間ほど留守にすることになった。


 私はこの機会を利用して、アトマイダンジョン最下層にある旧人の居住区画へ向かうことにした。本来なら、そのうち休息日のどこかで単独行動を申し出て行くつもりだったのだが、余計な詮索をされずに済むこのタイミングが最適だろう。


 アトマイダンジョンにも、かつてソノリオダンジョンで見たエレベーターのような設備がある。ただ、マップによると、その出入口は海に浮かぶ小島にあるものの、現在は使用不可能と記されていた。仕方がないので、ダンジョンを通って最下層まで向かうことにする。本気を出せば、それほど時間はかからないはずだ。


 サブダンジョンへの立ち入りは禁止されていないものの、私が一人でダンジョンに入ったことを知られたくない。そこで、暗くなるのを待ち、以前ランツ村の祈年祭でやったように、布を口元に巻いて顔を隠し、ローブのフードを深くかぶってこっそりと宿の窓から抜け出した。


 ダンジョンの入り口には一日中見張りのような役割の人がいるが、常に監視しているわけではない。夜になれば人通りもほとんどなく、誰にも気づかれることなく簡単に中へ入ることができた。


 ダンジョン内に足を踏み入れると、通路を駆け抜ける。遠回りしなければならない場合は、大地崩壊ガイアコラプスで壁や床に穴を開けてショートカットをするが、基本的には極力使わず、最短ルートを調整しながら進んだ。


 人との接触は避けたいため、気配を察知すれば進路を変え、魔物に遭遇した場合は、進行を妨げるなら即座に排除し、そうでないなら無視して通り過ぎる。


 サブダンジョンの地下五階層にはメインダンジョンへの入り口があるが、ディスカバリー対策のために結界が張られ封鎖されている。そのため、入口近くの床に大地崩壊ガイアコラプスで穴をあけメインダンジョンに侵入した。


 メインダンジョンに入ってからも、やることは変わらない。目指すのは地下十階層にある居住区への入り口。居住区自体はさらにその下に位置するが、ダンジョンとは異なる構造のため、「地下十一階層」とは呼ばない。


 そして、特に問題もなく目的地へと到着した。目の前の壁には、偽装された扉がある。とはいえ、私たちの種族にはわかる仕組みになっている。取っ手も鍵穴もないが、扉に手を触れると、中央から左右にスライドして開いた。私はそのまま中へ入ると、扉が静かに閉まった。


 目の前にはまっすぐ伸びる通路。その両脇には、騎士のような姿をした像が五体ずつ並んでいた。……いや、これはただの像ではない。ゴーレムだ。


 通路の先には一枚の扉がある。それしかない以上、進むしかないのだが、どう見てもこの通路を通れば攻撃してきそうだ。足を踏み出しかけて、思わず躊躇する。


 そのとき、奥の扉が静かに開いた。現れたのは、人間と変わらぬ姿をした女性型ゴーレム。上品で、どこか冷ややかな雰囲気をまとっている。


「ようこそおいでくださいました。ソノリオの管理者、ティアマトー様」


 ……名前を知っているのか。


「あなたは何者?」


「失礼しました。私は管理者代理を務めております、ムシュマッヘと申します。ご案内いたしますので、どうぞこちらへ」


 彼女の言葉に促され、騎士型ゴーレムが並ぶ通路を抜けて扉をくぐる。中はエレベーターになっていた。


 エレベーターで降りた先に広がっていたのは、ソノリオとよく似た近未来的な空間だった。


 案内された部屋でソファに腰を下ろすと、別の人型ゴーレムが飲み物を運んできた。


 ……ここには複数の人型ゴーレムがいるのか。


 きょろきょろと周囲を見渡し、ようやく落ち着いたところで、ムシュマッヘが口を開きかける。


 ――が、嫌な予感がしたので、先手を打つことにした。


「私、元いた場所に帰りたいのだけど、帰る方法はわかるかしら?」


「元いた場所、でございますか? それはどこでしょう?」


「地球という場所の、日本という国よ」


「申し訳ありません。私にはわかりかねます。しかし、管理者を引き継げば、関連する情報が見つかるかもしれません」


「……私が、ここも引き継ぐの? すでにソノリオの管理者なのだけど」


「はい。現在、他に引き継げる者はおりませんので、あなた様にしか継承できません」


 やっぱり、ここも滅びてしまったのか……。


「あなたは管理者代理よね? それなら、情報にアクセスできるんじゃない?」


「いえ。管理者代理には権限の制限があり、基本的に決められたことしかできません。そもそも、管理者を継承できる者がいない場合の特例として、私が代理を務めているだけです。引き継げる方が現れた時点で、速やかに継承しなければなりません」


 ぐぬぬ……。

 つまり、ここも私が引き継がなきゃいけないってこと? 嫌な予感しかしない。でも、もう今さらか……。


 少し諦めかけた瞬間、意識が遠のくような感覚に襲われる。


「魔法追加インストール...完了。」

「管理者専用サーバー(アトマイ)接続完了。」

「管理者の登録完了しました。」


 声が響いたかと思うと、意識が戻った。


 どうやら、こちらの意思を確認する前に勝手に処理が進むシステムらしい。


「管理者の引継ぎ、ありがとうございます」


 ムシュマッヘが淡々と続ける。


「実は、代理権限では対処できない問題が発生しております。管理者室へご案内しますので、対応をお願いします」


 代理権限では解決できない問題? それを私がやるの? いやいや、何も知らないのに押し付けられても困るんだけど……。


 そんなことを考えつつも、何が起こっているのか気になり、管理者室へ向かうことにした。


 部屋の奥にある机へと案内され、椅子に腰を下ろす。机上の黒い部分に触れると、目の前にモニターのようなものが浮かび上がった。


 ──警告:精霊システム維持可能年数 約150年


 赤く点滅する警告が目に入る。私がそれを確認したのを見て、ムシュマッヘが静かに言った。


「これの対処を、お願いしたいのです」


「でも、あと150年もあるけど……今すぐ何かしなきゃいけないことってあるの?」


「それは、こちらの関連資料をご確認のうえ、ご判断ください」


 ムシュマッヘがそう言うと同時に、頭の中に情報が流れ込んできた。どうやらブレインエクスパンションシステムと連動しているらしい。


 ……えーと、何々?


 ──精霊システムが停止すると、生物の9割以上が絶滅の見込み。


 ……は?

 なんでよ……。


【主な理由】


  1. 現存する生物のほとんどが、精霊システムの生成する魔素を利用して生きるように進化してきたため、魔素がなくなると生命維持が困難になる種族が多数。


  2. 魔素が消滅すると、環境を整えているダンジョン=魔術回路が作動しなくなり、空気の組成や気温などが大きく変化。結果、その変化に適応できない種族が多数。


 ……なるほど。つまり、放っておけば150年後に大量絶滅が起こるってことか。


 そんなとんでもない問題の責任を、私が負うわけ?

 いやいや、ただの一般庶民だった私に、いきなりこれは無理でしょ……。

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