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第8話 剣と魔法の実力

 次の日、私がどの程度戦えるのかを確認するため、朝から町の外へ出てムートと剣で模擬戦をすることになった。


 ムートの武器は、全長150cmにも及ぶ大剣。それを軽々と振り回している時点で、すでにただ者ではないことがわかる。


 一方の私も、まったくの素人というわけではない。

 剣術の継承者だった祖父に、中学までの間、一通りの技を教わっていた。年数にすれば約10年。ただ、本気で打ち込んでいたわけではなく、小さい頃からなんとなく続けていただけで、特別強いわけではない。祖父の知り合いと立ち会ったこともあったが、一度も勝ったためしがなかった。


 そんな私だけど、今の「身体強化」された状態ならどこまで動けるのか。

 そして、この世界の人たちと比べてどのくらいの実力があるのか。それを確かめておくのは私にとっても好都合だった。


 町を出て、街道から離れた広々とした草原に到着すると、すぐにムートと対峙する。


「俺は強いから、そちらから打ち込んできていいぞ」


 ムートが余裕たっぷりに言う。


 私から攻撃かぁ……。ムートの実力も、自分の実力もよく分からない状態で仕掛けるのは、なかなかやりにくい。


 そう思いつつも、剣を構える。まずは様子見。正面から軽く一振り――が、あっさりとかわされた。すかさず、左右から一回ずつ連続で打ち込む。左の一撃は避けられ、右の一撃は剣で受け止められた。


 ムートは軽く対応しているだけのようだ。もう少し本気を出した方がよさそうだ。


 ふと、ムートの表情が目に入る。なぜか少し怪訝そうな顔をしていた。


「見たことのない剣技だな。……今度はこちらからいくぞ」


 次の瞬間、ムートの大剣が正面から叩き込まれる。


 重そうな剣なので、正面からは受けずに、私は剣を滑らせるように受け流した。だが、ムートはまったく体勢を崩さない。すかさず、下から切り上げがくる。それを軽くかわし、すぐにカウンターを狙う。


 このタイミングなら決まるか――そう思った瞬間。


 ムートの動きが、一気に速くなる。


 軽くかわされ、寸止めの必要はなくなった。


「強いな、面白い」


 やっぱり、向こうも様子見なのね。


 お互いに身体強化されている。この状況、私ははじめてだ。力加減が分からないせいで、やりにくさを感じる。


 ――そう思っていた矢先だった。


 ムートの動きが一変する。先ほどより数段速い速度で切り込んできた。


神速剣デウスヴェロックス


 高速の連撃が襲いかかる。


 受け流すだけで精一杯だった。何とかしのいではいるが、ムートの大剣の長さが優位に働き、間合いを詰めることすらできない。このままでは、一方的に攻められるだけだ。


「降参か?」


「いや、まだよ」


 攻撃が一瞬止んだ隙を突いて、前へ踏み込む。だが、すかさず再び神速剣が繰り出される。


 ――昔は、いまひとつ理解できなかった技。

 だが、身体能力が向上した今なら、祖父に教えられた技が感覚として理解できる。


 見切りの技。

炯眼けいがん


 ムートの刃が迫る。私は最小限の動きでそれをギリギリでかわし、そのまま懐へ飛び込む。


 ――そして、高速の剣 。

「真刀流奥義、またたき」


「なっ!!」


 ムートの目がわずかに見開かれる。


 だが――


 私の剣は、ムートの大剣によって受け止められていた。


 今の一撃も防ぐの!?


 互いの刃が交差したまま、一瞬だけ沈黙が落ちる。


 そして、ムートがにやりと笑った。


「やるな」


 身体強化されているし、かなり強くなったはずなのに――


 同じぐらいの年の子に、あっさりと防がれてしまった。


 この世界では、これが普通なの……?


 そんな疑問が頭をよぎる中――


「そこまで!!」


 キュレネの声が響き、戦いが制止される。


「実力把握は十分でしょう。これ以上熱くなると怪我しそうだし、これならオーガ狩りも問題なさそうね」


 オーガ。Cランクの魔物。ベテランパーティのターゲットだ。


 ちなみに――


 森で戦ったゴブリンやコボルドはEランク。私が最初に倒したエルダーコボルドでもDランクだった。


「それにしても、ずいぶんきれいな動きね」


 キュレネが感心したように言う。


「バランスが良いというか、すごく洗練された感じだったわ」


 400年の歴史があると言われる真刀流だから……?


 まあ、それは置いておくとして。


 少なくとも、剣の実力はCランクの魔物相手にも通用する――それが分かっただけでも、良しとしよう。



「次は魔法の確認だけど、使えないって言ってたわよね?」


「魔法について、どのくらい知ってるの?」


「この前聞いた『魔法陣をイメージして使う』ってこと以外、何も知らないけど」


 正直、知識はほぼゼロに等しい。


「そうなのね。じゃあ、何から教えようかしら?」


「洗浄魔法を使いたい」


 この世界じゃ、あまりお風呂に入れそうもないし。ぜひとも習得しておきたいのよね。


「そうね、実用的だし、練習にはちょうどいいかも。じゃあ、まずは水魔法の水生成からね。魔法陣はこれ。普通は、手のひらに魔法陣を発現させるイメージで魔力を込めるの」


「魔力を込めるって?」


「魔法陣に意識を集中する感じかしら。魔法の効果を口に出すと、魔力を込めやすくなるわよ。ちょっとやってみて。まあ、そんなにすぐ魔法が使える人なんていないけどね」


 えーっと、この魔法陣を頭の中に描いて魔力を込めるのか……

 キュレネがくれた魔法陣が描かれた紙を見ながら、その魔法陣を掌の上にイメージして集中する。


「水よ」


 ちょろちょろ。


「出た!」


「へー、はじめからできるなんてすごいじゃない。まあ、無意識に魔法を使っているみたいだから、能力はあるのよね。あとは自由自在に使えるようになるまで、繰り返し練習する感じよ。私、ちょっと用があるから、一人で練習してて」


 そう言い残して、キュレネはどこかへ行ってしまった。



 何度も練習し、出せる水の量もだいぶ多くなってきた。魔法を使うときの掛け声はなんでもいいみたい。本当は呪文みたいなのを唱えてみたい気がしなくもない。でも、呪文の必要がないのにわざわざ唱えるのも恥ずかしい。


 でもやってみるか、誰もいないし……


「大いなる水の精霊よ、わが願いを聞き届け、多くの水をもたらしたまえ」


 こんな感じかな。あれ、水が出ない。呪文を考えるのに集中して、うまく魔法が使えなかった……


「ティア、もうお昼よ。まだやってるの? よく魔力切れにならないわね」


「うわっ!」


 夢中になって気が付かなかった。さっきの呪文、聞かれてないよね?


「うん、もっと練習したい」


「じゃあ、お昼を食べてから、また練習ね。ところで、さっき水の精霊とか言ってなかった? なにそれ?」


「なんでもないよ」


 うー、聞かれてた……


「はい、ティア、基本の魔法書。これ、魔法学校の学生が写本したものの中でも低級なものらしいから、結構不備があると思うけど、そのつもりで使って。魔法を使いたいのなら、毎日少しずつでも練習したほうがいいわよ」


「ありがとう」


 一旦、休憩してお昼を食べる。


「ある程度水を出せるようになったら、次は水を保持する魔法ね。洗浄魔法は渡した魔法書に載ってるから、その通りにやってみて」


 そう言うと、キュレネは町へ戻っていった。


 私は魔法書を開き、洗浄魔法のやり方を確認する。


 水の保持魔法の次は、水を温める魔法。これは火の系統魔法だから、水系統の魔法陣とはだいぶ形が違う。さらに次が水を手の動きに追従させる魔法で、これが水をかき混ぜる魔法か。これを連続で処理するのか。


 うーん、これだけあるとすぐにできるようになる気はしないけど、今は魔法が使えるようになっていく過程だけでも十分楽しい。結局、町の門が閉まる直前まで練習してから宿に帰った。


「あー疲れた。結局、マスターできなかったなぁ」


「いくらなんでも、そんな速くできないわよ」


「魔法って、決まった魔法陣があって、それを覚えていけばいいって感じなの?」


「魔法は、基本を学べば自分で魔法陣を作ってオリジナル魔法を作ることもできるのよ。でもね、魔法陣の最適化は難しいから、公開されている洗練されたものを覚えて使うのが普通。そういった意味で、決まった魔法陣を覚えていけば、ある程度の魔法使いにはなれるわ。

 ただ、魔法の力って国や貴族の力関係に大きく影響するので、独自に研究された魔法も多いのよ。そのほとんどが秘匿されていて、一般には出回ってないの。だから、一流の魔法使いになるためには、そういう魔法を研究したり、継承している人に弟子入りしたり養子になったりすることも多いわ」


 なるほど、そういう感じなのか。魔法使いになるのも大変だ。まあとりあえずは、洗浄魔法を使えるように頑張ろう。

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