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第77話 大迷宮12 第3チームの捜索2

 地下7階層に降りる。


 なんと、私が魔方位針を持って先頭を歩くことになってしまった。


 とりあえず魔方位針の指す方向を確認し——その方向()()()()通路へ歩き出す。


 すぐにムートが突っ込んできた。


「そっち、方向違わないか?」


「とりあえずこっちに行けば、どこに魔方位針の片割れがあるか分かるのよ」


 それを聞いていたラウラさんも疑問を口にする。


「どういうこと?」


 うーん、どう説明しようか……とりあえず図を描くか。


「魔方位針は、魔力の流し方次第で信号が届く距離が変わります。本来なら、ちょうど反応が出るギリギリの魔力量を探れば、相手の位置をおおよそ特定できるんですが——」

 

「残念ながら、このダンジョンは遮蔽物が多く、ノイズも強いので、その方法は使えません。だから、別の方法で魔方位針の片割れがある位置を割り出します」


 壁面ににA地点とB地点を書き込みながら説明する。


「まず、さっき私たちがいた場所をA地点とします。魔方位針が示した方向に線を引くと、この直線上のどこかに片割れがあることになります」


 私はA地点から長い線を描いた。


「次に、直線上ではない別の位置——B地点へ移動します。ここからも魔方位針の指す方向へ線を引く。すると、A地点からの線とB地点からの線が交わる場所が、魔方位針の片割れのある地点になります」


「なるほど、ティア、頭いいな!」


 ムートはすぐに理解したようだ。


「でも、片割れが動いていたらどうするんだ?」


「その場合は、この手順を繰り返しながら近づいていけばいいわ」


 そこでラウラさんが質問する。


「理屈は分かったけど、実際にその線がこのダンジョン内のどこで交わるのか、ちゃんと分かるの?」


 ラウラさんの疑問はもっともだ。私は自分の位置や移動距離を正確に把握できるし、完全な地図が頭にあるから問題ない。でも、普通は簡単にできることじゃない。ここは適当に誤魔化そう。


「えーと、私の一族に伝わる方法なので、詳細は明かせませんが……このやり方で正確に場所を特定できます。任せてください」


 まあ、「一族」と言うのは少し違うかもしれないけど、遠い祖先から受け継いだ技術なのは確かだし、嘘じゃないよね。


「分かった、じゃあ任せるわ」


 そうして、私は再び魔方位針の指す方向()()()()通路へ歩き出した。


 ある程度の距離を移動したあと、魔方位針を確認する。


 ——場所は特定できた。


 さらにもう一度別の地点へ移動し、再び魔方位針の方向を確認する。


 結果は同じ。つまり、片割れは移動していない。


「もう一つの魔方位針の位置を特定しました。今は動いていないので、その場所へ向かいましょう。ここから1時間ほどの距離です」



 とりあえず最短距離を進む。途中、ケイヴサーペントなる大型のヘビの魔物に遭遇したが、ラウラさんたちが倒した。私たちがそれなりに強いと聞いてはいるものの、まだ戦わせるのは心配なようだった。


 ともあれ、魔物はそれなりに強いが、数はそれほど多くないのか、目的地付近までほかの魔物には遭遇しなかった。


 目的の場所は、同じ大きさの部屋が三つ並んでいるうちの真ん中の部屋。しかし、その部屋に入るには、両端のどちらかの部屋を通らなければならない。三つの部屋の周囲はすべて通路になっているため、とりあえず外から様子を伺うことにした。


 一周回ってみたが、両端の部屋にそれぞれ扉が一つあるだけで、あとはすべて壁になっている。扉も閉まっているため、中の様子は確認できなかった。


 私はマップを持っているので、三部屋が並んでいると認識できている。しかし、マップの存在は公表していないため、ストロングツリーのメンバーにどう説明するか迷っていた。


 そのとき、エルフのエルヴィンさんが、私が「魔方位針がある」と言った場所の近くの壁に手を当て、魔力を込めるような素振りを見せた。


しばらくすると——、


「この中は壁に囲まれた空間になっていて、複数の人がいるのは間違いない」



 試しに、私も壁に手を当て、意識を集中してみる。すると、中の様子が大雑把に把握できた。


 ——私にもできるんだ。


 と感心しているうちに、皆は右隣の部屋へと移動していた。


 再びエルヴィンさんが壁に手を当て、様子を探る。


 すると、途端に怪訝な顔をした。どうやら、かなりの人数がいるらしい。さらに、中の会話まで聞こえたようだ。


 彼らの言葉をそのまま伝えてもらうと——


「あいつら、まだリュカオンに戦いを挑まないのか?こっちには出てこられねぇんだから、元気なうちに向こうの扉から出ていかないと、どうにもなんねぇだろ?」


「でも、まぁ、明日ぐらいには動くんじゃないか?それにしても、親分もえげつねぇこと考えるよな。リュカオンの巣の方にしか出られない、一方通行の部屋に誘導して、リュカオンと戦うよう仕向けるとはな……。まぁ勝てねぇだろうが、せいぜい頑張って弱らせてほしいもんだ。そしたら、俺たちが弱ったリュカオンを楽に討伐できるからな」


 ——とのことだった。


 つまり、真ん中の部屋にいる人たちは、向こう端の部屋を通らないと外に出られない。

 そして、その部屋はリュカオンなるものの巣になっている、ということか……。


 リュカオンって魔物だよね?どんな魔物か聞いてみるか。


「リュカオンってなんですか?」


「ああ、最近はあまり話題に出なかったから、知らなくても無理ないわね。狼男ワーウルフの上位種で、Aランクの魔物よ。基本的にワーウルフの群れを率いていて、統率の取れた動きをするから、逃げるのにも苦労する。かなり危険な相手よ」


 するとムートが、


「リュカオンと戦いたい」


 と言い出した。


「そうね、それがいいわ」


 キュレネも賛成のようだ。


 驚いたラウラさんが止めに入る。


「あなたたち、何言ってるの!? 相手はAランクなのよ。それに、地下7階層の魔物は同じ種でも上層より強いのよ!」


 そこへエルフのエルヴィンさんが来て、


「まずは本当にリュカオンがいるのか確認してから考えましょう」

 と言った。


 皆うなずき、逆側の部屋の前に移動する。エルヴィンさんが壁に手を当てて様子を探る。


 私もこっそり手をかざして中の様子を伺う。


 ——あれがリュカオンかな?まあ、大したことなさそう。


 そんなことを考えていたら、キュレネが声をかけてきた。


「ティアも部屋の中を探れるみたいね。どう、リュカオンは倒せそう?」


「まあ、特に問題はないかな」


「じゃあ、リュカオンを討伐しちゃいましょう。でも、リュカオンの相手は私とムートにやらせてほしいの。もちろん、手に負えないと感じたらすぐ交代してもらうけどね」


「わかった。でも、ずいぶん乗り気みたいだけど、何か理由があるの?」


「このダンジョンには、強くなるために来たからね。それに、あなたという保険があるんだし、全力を出せる相手と戦いたいじゃない?」


 なるほど、今までの戦いじゃ物足りなかったってことか。


 確かに、ミノタウロスやフリゲートたちと戦っていた時も、まだまだ余裕がありそうだった。


 そんな話をしている間に、エルヴィンさんが探りを終え、真剣な表情で報告してきた。


「かなりヤバい魔物がいるのは間違いないな。他に、ワーウルフらしきやつも20体くらいいる」


 さらに彼は、この区画の構造について説明してくれた。


「このエリアには、三つの部屋が並んでいる。今いる場所に近い方から、リュカオンのいる部屋、その隣が魔方位針があり、複数の人がいる部屋、さらにその隣が、第3チームではない別の集団がいる部屋だ」



 キュレネが状況を整理しながら、提案をする。


「真ん中の部屋にいるのは、おそらく第3チームのメンバーでしょう。先ほどの話から推測すると、彼らが部屋に留まるのも限界が近いはず。もしかすると、もう食料や水が尽きているのかもしれません。

 リュカオンのいる部屋にしか出られない以上、彼らが自ら出て戦うかどうかはわかりませんが……いずれにしろ、早急に助けないとまずい状況ではありませんか?」


「確かに……」


 ラウラさんは言葉に詰まる。すると、キュレネが続けた。


「リュカオンは私たちで何とかします。だから、助けに行きましょう」


「何とかしますって……簡単に言わないで。あれはそんな甘い相手じゃないのよ!」


 この展開は予想済みだった。だからこそ、私は事前にキュレネと話し、Aランクの魔物を討伐したことを明かす準備をしていた。


「大丈夫です。ティア、勲章を出してもらえるかしら?」


「はい」


 私は頷きながら、勲章を二つ取り出す。


「デーモンスレイヤーに、ビーストスレイヤー……!?」


「はい。どちらも単独で倒しました」


「まさか……そこまで強かったの? 神槍のフリゲートと互角だと聞いても、正直、半信半疑だったわ。ごめんなさい」


「だから、リュカオンの討伐は私たちに任せてください」


 キュレネがわざと少し言葉を省いたせいで、私たちのパーティーが単独で討伐したと勘違いされたようだ。キュレネとムートがリュカオンと戦うことに異論を出させないためだろうけど、私ばかり注目されないのは正直ありがたい。


「リュカオンはあなたたちに任せるとして……でも、ワーウルフ20匹だけでも、この人数では厳しいと思うわ」


「ワーウルフは、一番弱い獲物に集団で襲いかかる習性があります。その習性を利用するつもりです。おそらく、最初に狙われるのはティアでしょう」


「え? さっき、この子が一番強いって言ってなかった?」


「はい、一番強いです。でも——」


 キュレネが周囲を見回しながら、ゆっくりと言葉を続ける。


「この中で、ティアより自分の方が弱いと感じる人はいますか?」


 ……誰も手を挙げない。つまり、誰も私が自分より弱いとは思っていないってことね。それはそれで複雑な気分だけど……。


「というわけで、ティアの偽装は完璧です。なので、ティアに囮になってもらいます。その間にラウラさんたちは、ワーウルフに注意しながら第3チームのいる部屋の扉を開け、救出してください。そして、第3チームにもワーウルフ討伐に加わってもらいましょう」


「……それでも、かなり厳しい戦いになると思うわ」


「では、第3チームを救出した時点で、戦うのが無理だと感じたら撤退しましょう。その場合、殿(しんがり)は私たちが務めます」


 キュレネの目は揺るがない。


 その覚悟に、ラウラさんはしばらく黙っていたが——やがて、静かに頷いた。


「その目……相当自信があるって感じね。わかった。あなたたちを信じるわ。ここまで来て、第3チームを見捨てるわけにはいかないしね」


 そう言ったあと、彼女は小さく呟いた。


「……あの子には逆らわない方がいい気がするのは、なぜかしら……」


 キュレネの特殊スキル 『女帝の睨み』 が発動していたようだった。


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