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第72話 大迷宮7 クランエフシー・サブダンジョンテスト 2

 もう限界だった私は、


穴掘ディギング


 と初級魔法の名称を叫び、真下に向けて大地崩壊ガイアコラプスの魔法を発動させた。


 ——地面に穴が開く。


 私たちはそのまま下の階層へと落下した。


 大きな魔力を感じ取ったのか、奴らは一斉に距離を取ったようで、追ってはこなかった。


 地面に激突しないよう、風魔法で減速してから着地する。上を見上げると、穴が速いスピードで塞がっていくのが見えた。


 ダンジョンの自動修復スピードって、かなり速いんだな。


「こんな方法で階層を移動できるなんて......」


 キュレネが驚きながらも感心している。


 そして、自分も試したくなったようで、地面に向かって魔法を放つ。


穴掘ディギング


 魔法は発動するが、地面に変化はほとんど見られない。


穴掘ディギング


 ——やはり、何の変化もない。


 キュレネがしばらく黙っていると、真剣な表情で再び魔法を放つ。


「グランドクラック」


 ディギングの上位魔法で、地面に深い亀裂を作ろうとするが、わずかな亀裂が現れだけで、すぐに地面は元通りに戻った。


「やっぱりダメね。まあ、簡単に穴が開くようなら、みんなやってるわよね……」


 そういえば、焦っていたからあまり考えずに魔法を使ったけど、今思うとかなりの魔力を使っていた。失敗したかな。でも、もうやっちゃったし、これを使えば迷宮探索は圧倒的に楽になるから、まあいいか。


「ねぇ、ティア、さっきの魔法、もう一回できる?」


「できるよ」


穴掘ディギング


 再び魔法を発動させ、地面に穴を開ける。


「あー、理解した。普通の穴掘ディギングとは全く別の魔法なのね」


 キュレネたちは私の魔法についてあまり詮索してこないけれど、ちょっと話をそらしたくて、少しかぶせ気味に発言した。



「ねえ、せっかくだから下の階層に降りない? このショートカットを使えば、最短記録も更新できると思うわよ」


「そうね、そうしましょう」


 そう言って、私たちは一度下を確認した後、私が空けた穴に次々と飛び込んだ。これであっという間に地下4階層だ。この方法での移動はダンジョン探索に非常に有効だけど、この魔法が使えるのは私だけだろう。もしクランに知られてしまったら、今後の攻略で私にとって非常に面倒なことになるだろうことが簡単に想像できる。そのため、他の人には秘密にすることにした。もちろん、何かあったときの切り札として使えるのも理由の一つだ。


 地下5階層のキャンプ近くで天井から落ちていくと、目撃される危険がある。だから少し離れた場所、かつ、来る方向もおかしくないようポイント選び、そこの真上を目指し地下4階層を移動した。


 途中で何度か魔物と遭遇したけれど、問題なく倒して進み、予定のポイントに到着。そこで再び魔法で穴を開け、下を確認した後、地下5階層へと移動した。


 この時点で約5時間が経過していた。面倒な敵に遭遇しなければ、記録更新は可能だろう。しかし、そんな心配も無駄に、地下5階層では魔物に遭遇することなく、キャンプに無事到着することができた。


 キャンプ内に入ると、クランキャンプのメンバーが、すぐに受験者と気づき対応してくれた。


「ピエールさん、サブダンテストの受験者が到着しましたよ!」


 と声をかけてくれる。


 すると、奥から


「はぁ?、こんな時間に来るわけないだろ」


 という声が聞こえてきた。


「いや、実際にもう来てるんで、早く来てください」


「おう、わかった」


 そう言って、奥からピエールさんが出てきた。



「おお、よく来た。無事に到着して何よりだ」


 受験票を出すと、


「すまんな、俺がさっき呼ばれた時間でいいよな」


 と言って、受験票に日付と時間を書き入れ、サインをしてくれた。


 そこで、ピタリと動きが止まる。


「ん? 俺、なんか計算ができなくなったぞ……」


 先ほどのクランメンバーがどうしたのかと声をかける。


「お前、これ何時間で到着したか計算してみろ」


「えーと、1、2、3、4、5時間と5分ですかね? ん??? ちょっと待ってください、もう一度……やっぱり5時間5分ですね……」


「まじか……俺たちの渾身のタイムアタックが破られた。こんなダンジョン初心者の小娘に……」


 うわ、思っても口に出しちゃいけないやつ言っちゃったよ、この人。


「ずいぶん失礼なこと言ってくれるわね」


 ここで、キュレネが鋭い目つきでピエールさんを見つめる。「女帝のにらみ」だ。


「いや、これは……」


 失言をしたことに気づき、思いもよらない迫力で文句を言われ、ピエールさんは完全に混乱している。


「これ、記録更新よね。特別待遇、期待しているわ」


「わかりました」


 うわ、返事が敬語になってる。


「失言からの女帝の睨みでの切り返し、効果絶大だな」

 隣にいたムートがつぶやいた。


 新記録の話を聞いた他のクランメンバーも集まってきた。褒めてくれる人もいたが、多くの人は微妙な顔をしている。


 まあ、いきなり初心者の小娘が新記録を出したら、微妙な顔をするよね。むしろ、これを喜んで褒めてくれる人がすごい。


 そんなことを考えていると、正気に戻ったピエールさんが口を開いた。


「すまなかったな。今後のことなんだが、今日はここに泊まってくれ。女性用の区画があるから、後で案内させる。それで、元気なら明日、俺たちの先導で地上へ向かうが、どうだ? 疲れているなら、もう1日休んでもいい」


「明日で問題ありません」


「じゃあ、決まりだな。今日、明日ここでの食事は、このキャンプにあるものを支給する。と言っても、大したものはないが、我慢してくれ」


「ラウラ、すまんが、こいつらの面倒を見てくれないか?」


「分かったわ、任せて」


 そう言って前に出てきたのは、茶髪で髪を後ろにまとめた30代くらいの女性。


 後で知ったのだが、ラウラさんはクランエフシーの幹部だった。私たちが新記録を出してしまったので、他のメンバーにあれこれ言われないように、上位者をつけてくれたのだとか。


 そんなこともあってか、女性用区画の奥にある、あまり人が来ない部屋、というか、ちょっと厚い布で仕切られた区画が私たちの居場所となった。


 ラウラさんとは色々話したが、結局、その他の人とは軽い挨拶程度しか交わさなかった。


 次の朝、とは言ってもダンジョン内だから朝の感覚がわかりにくいが、ピエールさんを含む4人の冒険者と一緒に、地上を目指した。魔物の少ないルートを選んでいるのか、あまり魔物と遭遇することなく進んだ。途中1回の休憩を挟み、おおよそ9時間で地上に到達した。


 とりあえず、冒険者ギルドに戻ると、アイザックさんが出迎えてくれた。


「無事だったか、良かった。監視していた者から地下2階でリブキゴに囲まれた後、見失ったと聞いて心配していたんだ。ピエールと一緒ということは、キャンプまで行けたんだな?」


「はい」


「それはよかった。疲れているところ悪いが、試験結果の確認をさせてくれ」


「ちょっと場所借りるぞ」


 と言って、ギルド内の会議室へ案内される。


 そこで、受験票カードを渡した。するとピエールさんがアイザックさんに耳打ちをした。


 普通の人には聞こえないだろうが、私は聞こうと思えば聞こえてしまう。


「おい、そのカードの開始日や時間、間違ってないだろうな?」


「ん? 間違いないぞ」


「そうか、そうだよな」


 そんな会話を交わした後、アイザックさんがカードを確認した。


 そこで固まる。


「ん、俺なんか計算ができなくなったぞ…… 5時間5分のわけないよな?」


「そうだよな、俺もそれを見た時、混乱したよ」


「おい、なんだよこれ、到着日1日ずれてねーか?」


「ずれてたら、今ここに戻って来れてねーだろ」


「おかしいぞ、途中経過の報告で、こいつら地下1階ではアーマーアントの巣に突っ込み、地下2階ではリブキゴの巣に突っ込んだと聞いている。それだけでも相当なタイムロスだろ、こんな記録出るわけない、どうなってるんだ?」


 とピエールさんに八つ当たり気味に言い放ち、こちらを見た。


「試験開始時にはアイザックさん、あなたが立ち会い、到着時にはピエールさんが立ち会い時間の確認をしていますよね。それに加えて、出発時も到着時も他の人も見ていましたよね。間違いなくそのカードに書いてある時刻に出発し、到着しています。それに対して何か不審な点でもありますか?」


「うっ」


 キュレネの何とも言い難い雰囲気に飲まれ、アイザックさんは直ぐには何も言い返せない。


 ——しばらく沈黙が続いたあと。


「どうしても納得いかねぇ」


「納得がいかなくても、その時間でクリアしているのですから、何の問題もありませんよね。早く合格を出してクランに引き入れたほうがよろしいのではありませんか?」


 とキュレネが優しく言うが、なぜかめちゃ怖い。


「わ、わかった、合格としよう。ただ、普通にやってそのタイムが出るはずがない。どんな方法を使ったのか教えてくれないか?」


「そこは、秘密です。あなた方も自分たちで編み出した技の極意や魔法を簡単に人に教えたりはしませんよね。それなりの信頼関係や対価があって教えるものです。ダンジョンの攻略法も同じと考えています。少なくともまだ数度しかあっていない相手に伝えるようなものではないと思うのですが、違いますか?」


「うっ、すまん、確かにその通りだ」


 なんかずっとキュレネのペースだ。


「ご理解いただけて助かります。ところで、テストで記録を更新したので、特別待遇の件ですが……」


 アイザックさんたちはちょっと渋い顔をした。


「特別待遇の件は後でこちらから伝える」


 これは、記録を更新するなんて思ってなかったから、特別待遇の内容は考えていなかったという感じかな? キュレネもそう読み取ったらしく。


「特別待遇の内容が決まっていないのなら、こちらからお願いがあるのですが、聞いてもらえますか?」


「ああ、とりあえず聞くだけ聞いてやる」


 何を言われるかかなり身構えているというか、怖がっているようにさえ見える。


「私たちは、Aランク昇格の要件である4つの国でBランク以上の仕事をクリアすべく各国を回っていて、ここが3か国目なのです。ですので、ここである程度の結果を出したら次の国に移動する予定です。申し訳ありませんが、その時、問題なくクランを離れられるようにお願いします」


「ん? なんだ、そんなことでいいのか? まあ、俺たちも通った道だ、若者の将来をつぶすような真似はしねーよ。でもな、ここのメインダンジョンに入れば、Bランクの魔物はそれなりに遭遇するから、お前らが強ければBランク以上の仕事はすぐクリアできちゃうぞ」


 アイザックさんの硬い顔つきが解消され、勢いよくしゃべりだした。


「そうですね。ここに来たのは強くなるという理由もあるので、できれば1年以内にAランクの魔物を倒せればと思っています」


「おおー、やっぱり若いやつはいいねぇ。Aランクの魔物ときたか。まあ、Aランクの魔物を倒せたらクランとしての成果もかなり大きい。それができたら喜んで送り出してやるよ。でもな、Aランクの魔物をなめるなよ。まず初見じゃ勝てないから、無謀に戦いを挑むんじゃないぞ。一度引いて、十分な対策をしてから挑むように心がけてくれ」


 キュレネとムートが微妙な顔をしてこちらを見て、小声で


「わかった? 初見でAランクの魔物を瞬殺しちゃダメよ。私たちにも戦わせてね」


「うん、わかった」


「なにこそこそ言ってんだ?」


「いえいえ、すぐ戦っちゃいそうな人に念を押しただけです」


 えーと思ったが、言われてみれば、これまで出会ったAランクの魔物はすべて瞬殺してるかも。


「ほう、そっちの嬢ちゃんは見かけによらず好戦的なのか?」


「いえ、そんなことありません」


 微妙な感じで始まった話し合いも、最後は和やかに終わり、無事、メインダンジョンを攻略できるクランメンバーとして迎え入れてもらうことができた。

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