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第71話 大迷宮6 クランエフシー・サブダンジョンテスト 1

 冒険者ギルドに向かうと、アイザックさんがダンジョンの入り口まで同行してくれた。そして、「これが受験者の証だ」と言って腕章を手渡してくる。


 腕章をつけ終わると、彼は私たち3人の名前が入ったカードを持ってきた。


「これが受験票だ。ここに日付と時間を書き込んだらスタート。そして、キャンプに着いたら到着時間を書いてもらえ。キャンプには、この前一緒にいたピエールがいるはずだ」


「わかりました」


「もうスタートしてもいいか?」


「はい」


 アイザックさんが日付と時間を書き込み、そこにサインをする。


「よし、スタートだ。頑張ってこい。とは言っても、無理だと思ったら戻ってこいよ。あまりに遅ければ捜索隊を出すからな」


「はい、ありがとうございます」


 こうして、テストが始まった。


 ダンジョンに入ると、以前トゥリスカーロ王国で見つけたダンジョンと同じような雰囲気だった。通路はそれなりに明るく、幅と高さは4mほど。岩でできた通路が奥へと続いている。


 少し進むと、すぐに下り階段が現れた。階段を15mほど下りた先がサブダンジョンの地下1階層。目指すのは地下5階層だ。


 入り口の幅は4m程度だったが、地下1階層に降りると6mほどに広がった。マップを見る限り、通路の幅は一定ではなく、広いところでは数十mもあるようだ。


 マップを完全に覚えている私が先頭を歩くことにした。


 しばらくまっすぐ進み、右に曲がった瞬間——


 フッと頭上から黒い影が落ちてきた。


「きゃーっ!」


 とっさに身をかわす。落ちてきたのは、体長1.5mほどの巨大なムカデだった。思わず悲鳴を上げてしまう。


 虫は昔から苦手だった。ストレス耐性が発動しているのでクモならまだ平気だったけど、ムカデはダメ。見ただけで全身がぞわぞわする。


 私が避けたとき、無意識に距離を大きく取ったせいで、キュレネとムートが間に入る形になっていた。


「どうした、ティア?」


「ごめん、ちょっとびっくりしただけ。もう大丈夫」


 本当は大丈夫か微妙だけど、苦手なんて言っていられない。


 落ちてきたムカデのほかに、天井にももう一匹いるのを確認した。


「この魔物、ガレアスコロペンドラ(兜ムカデ)よ。牙に毒があって、頭は硬いから気をつけて」


 ムートが剣を振るうが、ムカデは頭で受け止める。なるほど、相当丈夫らしい。


 ムートとムカデが力比べをしている隙をついて、キュレネが横から剣を突き刺し、そこから炎を流し込む。


「ピアスファイア!」


 ムカデの体が燃え、1匹目は沈黙した。


 次の瞬間、もう1匹が頭上から私に襲いかかる。


 ……落ち着いて対処すれば大丈夫!


 私は剣を振り払うように一閃——あっさりとムカデの頭を両断した。


 硬いと言っても、今の私には関係ないか。


 倒したことで一安心。とはいえ、死体を見ているだけで嫌悪感がこみ上げてくる。


 私はためらいなく炎の魔法を使い、ムカデの死体を灰にした。


「……何やってるんだ?」


「この魔物、見た目が苦手だから消えてもらった」


「……ああ、なるほど」


 ムートは私の行動を不思議そうに見ていたが、理由を聞いて納得したようだった。



 それはさておき、やはり初めてのダンジョン攻略は難易度が高い。


 さっきのムカデもそうだが、天井からの奇襲は想定外だった。ダンジョンでは何が起こるかわからない。


 ——慎重に進まなければいけないと、改めて痛感する。


 しばらくは最短ルートを問題なく進んでいった。


 この先は、約50m四方の区画が続くエリアだ。各区画の四方の中央に扉がある構造になっている。


 1つ目の扉をそっと開ける。


 ——中は何もない。ただの空間だった。


 そのまま中へ入ると、扉がゆっくりと自動的に閉まった。


 ……勝手に閉まるってことは、開けっ放しにはできないってことか。


 毎回警戒しながら開けるのは、正直面倒だ。


 とはいえ、この区画には何もないようなので、そのまま次の扉へ向かう。


 2つ目の扉も、開けてみると特に何もない。慎重に進み、さらに次の扉へ手をかける——


「この扉の向こうに何かいる。注意して」


 緊張しながら、そっと扉を開く。


 ——目に飛び込んできたのは、大量の巨大アリだった。


「……げっ。アリの巣だったよ」


 向こうもこちらに気がついたらしい。


「キキキ!」


 警戒音のような鳴き声が響く。大量のアリがざわめき、一斉に騒ぎ出した。


 次の瞬間——


 大きく、いかついアリたちがこちらへ突進してくる。それに続いて、普通のアリも次々と走り出してきた。


「やばい!」


 とっさに扉を閉め、元の区画に戻る。しかし、その瞬間——


 左右の扉が勢いよく開き、アリたちがなだれ込んできた。


 閉めた扉は私が怪力で固定しているため、ここからの侵入は防げる。


 ムートは左側の扉から侵入してくるアリにドラゴンブレスを放ち、キュレネは逆側の扉から侵入してくるアリにメガフレイムを放った。


 一掃したと思いきや、次々とアリが侵入してくる。侵入してきたアリを倒すと、また次が来る。繰り返しているうちに、正面の扉からもアリが侵入し始めた。


「もしかして、全滅させないと終わらないのか?」


 その言葉でピンときた。隣の部屋にも大量のアリがいて、そちらからこっちに来ているのだろう。今のペースでは、終わりが見えない。


「じゃあ、隣の部屋にいるやつを全部やっつけよう」押さえていた扉を無理やり押し返して開ける。


「ファイヤー!」と言いながら、火炎地獄ムスペルスヘイムを放つ。


 威力は区画の大きさに合わせて調整したが、少しやり過ぎたかもしれないがアリは一掃できた。しかし、正面にある向こう側の扉からまたアリが侵入し始めた。


「うげ、まだいるの?」


「多分、ティアのやり方が正解よ。あっちの区画にも巣があるんじゃないかしら。一気に殲滅しましょう」


 キュレネはアリを蹴散らしながら、向こうの扉に向かって走り、魔法を発動する。


「メガフレイム!」


 先ほど使った魔法と同じだが、今回はその規模が段違いだ。区画全体を炎で覆う。


 メガフレイムの魔法でもこのぐらいの威力が出せるんだ......。私の魔法もやりすぎではなかったと安堵する。それにしてもダンジョンは丈夫だ。私やキュレネの魔法でもびくともしない。これなら安心して魔法が使えそうだ。


 しばらくして、キュレネが魔法を放った区画のアリが全滅したことを確認した。残るは、私たちを攻撃するために巣から出たアリだけのようだ。目についたアリを倒していると、数が次第に減り、ついにはいなくなった。


「最短ルートにこんな巣があったなんて、クランの人たちはここを避けて通っていたんでしょうね」


「ダンジョン攻略には、マップ以外にもこういう情報が必要ってことなのね……」


「まだ時間はあるけど、この先どうなるかわからないし、このアーマーアントはDランクだから魔石回収は適当にして急ぎましょう」


 アーマーアントを倒した数は多かったが、オーバーキルしたせいで魔石が消失してしまったものが多い。魔石回収の手間の割に、報酬が低いため、適当に目についた魔石だけ回収して、急ぐことにした。



 何度か魔物と戦った後、ようやく地下2階層へ行く階段がある大部屋にたどり着いた。ちなみに、階層ボスなるものはいなかった。


 ここまでで約3時間。できればクランキャンプまでの最高記録5時間15分を更新したいと思っていたが、一番楽なはずの地下1層目でこのペースだと、最高記録どころか1日という期限内に間に合うかどうかが心配になってくる。


 少し休憩して地下2階層へ移動し、たまに魔物と戦いながら最短ルートを進む。


 ——1時間ほど歩いたところで、

 またしても開けてはいけない扉を開けてしまったようだ......。


 そこにいたのは、2本の長い触角を持ち、体長が70〜80cmほどの平たい楕円形の虫型魔物が数十匹。黒に近いこげ茶色の胴体が妙にてかてかしている。


 これ、私が一番苦手なやつ。

 こいつには関わりたくなかった......。


 ここから逃げたいという思いが強い一方で、高出力の炎魔法で跡形もなく消滅させたいという気持ちも湧き上がってくる。


 本当は虫嫌悪感を調整できなくもない。しかし、こいつを前にして平然としている自分を想像すると、何だか許せない気持ちが込み上げてくる。気持ち悪いものは気持ち悪いと感じないといけない気がするのだ。

 そんな心の葛藤をしている間に、気づけば周囲を取り囲まれていた。


 向こうも警戒しているのか、すぐには襲ってこず、一定の間隔を開けている。


 キュレネが魔法で攻撃しようとすると、それを察知してすぐに隠れたり、距離を取ったりする。今までで一番動きが早い魔物かもしれない。


 攻撃してこないので、しばらく様子を見ていると、向こうも動かず膠着状態になった。


 私はこいつらが大嫌いで、見るのも嫌だ。ずっと見ているのがつらくなって目をそらす。すると、ここぞとばかりに、壁にとまっていた1匹が羽を広げて、上方から私めがけて飛んできた。


 私は必要以上に大きくかわし、上を通り過ぎる瞬間に剣で切ろうと思ったのだが、腹側があまりに気持ち悪く、さらに切った後の状態を想像して、さらに気持ち悪く感じて躊躇してしまった。


 その一匹が通り過ぎた後、奴らはこちらに近づくそぶりを見せた。今度は数匹が飛んできそうだ。間近で攻撃したくないし、どうしよう。


 ——もう限界だ。


「キュレネ、ムート、ここから離脱するから、動かないで!」

 と大声で叫んだ。

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