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第65話 【別視点】限界の壁 フォーリア・ポルシーオの回想録

 私は、高等学園2年生の夏休みに、とても貴重な体験をした。


 当時の私は、より強くなるために努力をしていたものの、挫折感を抱えていた。ヴェルティーソ高等学園に入学するまでは、地元では「天才」や「神童」と呼ばれ、同年代の中で常に1番だった。しかし、全国から才能ある者が集まるこの学園では、1番どころか10番にも入れなかった。

 1年目は仕方がないとして、必死に努力した2年目の夏休みも、闘技大会の選手候補にすら選ばれなかった。


 そんな私に声をかけてくれたのは、選手に内定していた1年上のエストレモ先輩だった。

「俺も昔、伸び悩んでいた。でも、強い魔物と戦い、死闘を経験したことで、それまでできないと思っていたことができるようになったんだ。気づかぬうちに、自分で“限界の壁”を作ってしまっていたんだよ」


 自分がそんな壁を作っているとは思わないが、強い魔物との戦いで何かを得られる可能性はあるかもしれない。そう考え、夏休みに魔物狩りを計画した。



 ターゲットはBランクの魔物。Bランクを1人で倒せれば、一流の騎士や魔法士と認められるほどの実力がある。さすがに1人では厳しいが、複数人なら十分討伐可能だ。


 幸い、私の領地ヴァルマクボ山地に「ゴブリンキング」がいることを思い出した。


 父に相談すると、最初は危険だからと反対されたが、何とか説得し、「女性のみのBランク以上の冒険者パーティを同行させること」を条件に許可を得た。


 後から知ったことだが、この条件には裏があった。女性のみのBランクパーティは数が少なく、小さな町フィソイルコのギルドでは、そんなパーティを手配するのはほぼ不可能。そのため、実質的に「許可したが実行はできない」状態にしたのだという。


 ところが、運よく「クラーレットの奇跡」という女性だけのBランクパーティが、冒険者ギルドから護衛として派遣されてきた。後に起こることを考えれば、まさに“奇跡”だった。



 彼女たちと初めて会ったときの印象は、一言で言えば「違和感」だった。


 赤髪の高位貴族令嬢のような少女に、白髪の竜人の護衛、そして黒髪の幼い使用人風の少女。


 普通、私のような貴族令嬢が、同年代の貴族令嬢に護衛されるなんてありえない。でも、彼女は平民だという。しかし、その所作も装備もとても平民のものとは思えなかった。きっと身分を偽っているのだろうと推測した。


 さらに驚くべきは、彼女たち全員が15歳でありながらBランク冒険者だったこと。冒険者登録できるのは15歳からだが、登録してすぐにBランクになるなど普通では考えられない。もしかすると、大貴族の娘たちが金や権力でBランクを手に入れたのでは……と疑ったほどだ。


 しかし、それは杞憂だった。少し試しただけで、彼女たちが本物の実力者であることがわかった。そして、黒髪の少女が『デーモンスレイヤー』だというのだ。


 正直、そのときは信じていなかった。だが、後にその実力を見せつけられることになる。



 ゴブリンキング討伐に向かったが、現地はすでに壊滅していた。それだけでなく、山の上に謎の牧場ができ、スラムから人が消えるという不可解な現象が次々と発覚した。


 当初は護衛として同行していたクラーレットの奇跡に、新たに調査の協力も依頼した。


 その中で、リーダーのキュレネさんは非常に的確な情報収集のアドバイスをくれた。普段ならアドバイスを受けてもその通りにはしない私が、彼女の言葉には自然と従ってしまった。その結果、重要な情報を次々と得ることができた。


「彼女が学園にいれば、トップクラスの実力者なのは間違いない」


 そう確信した。


 さらに、普段は寡黙だったムートさんが「牧場の地下に魔狼ガルムがいる」と突然言い出した。正直、適当なことを言っているのかと呆れた。


 しかし、直後にティア様まで同じことを言い出し、完璧に説得されてしまった。そして、事実として地下に魔狼ガルムがいたのだ。



 お父様から派遣された調査隊が到着し、牧場の制圧に向かったが、地下3階でガルム5匹と遭遇した。

 驚くことに、キュレネさんとムートさんの2人だけで対応すると言う。無謀だと思ったが、彼女たちは実際に問題なく倒してしまった。


 さらに地下2階では、また別のガルム5匹と遭遇した。私は護衛2人と共に必死に戦っていたが、ティア様はいつの間にか3匹を瞬殺していた。


 そして、その直後——


 マーナガルムと、その配下のガルム25匹が現れた。

 死を覚悟した。だが、ティア様は「一人で足止めするから逃げろ」と言うのだ。


 当然拒否したが、後から思えば、彼女一人の方が都合がよかったのだろう。


 ティア様は「これから起こることは他言無用」と告げ、秘伝の技を使って私たちを守ると宣言した。その顔は神々しく、自信に満ちていた。


 戦闘が始まった——と思った次の瞬間、決着がついていた。

 何が起こったのかすら、わからなかった。



 その夜、私は興奮で眠れず、戦いを振り返っていた。


 『Aランクの魔物は、1人では倒せない』


 そう思い込んでいた。だが、目の前でティア様はそれを瞬殺した。


 ——これこそが、“限界の壁”だったのでは?


 いや、あれは特別。そう思い込もうとした。


 そこに、ふとそこにクラーレットの奇跡のもう二人のメンバーが頭をよぎった。


 ——彼女たち2人も、私の常識の外にいた。


 ——私の“限界の壁”結構低かったんだ......。


 そう気づいてから、私は大きく成長することができた。

 少なくとも今の壁は1人でAランクの魔物を瞬殺する先にある......。


 私にとって、クラーレットの奇跡、そしてティア様との出会いは、人生を変えるほどの貴重な体験だった。

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