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第64話 貴族令嬢の護衛17 新たな旅立ち

 その夜、豪華な食事が振る舞われた。


 キュレネとムートは、食事の作法も完璧らしく、貴族たちから褒められていた。

 私はというと――ブレインエクスパンションシステムの能力を駆使し、皆の動きを解析しながら必死に対応。

 何とか無難に乗り切ることができた。


 食事の最中、フォーリアさんが改めて感謝の言葉を口にする。


「直接、戦いの場面を見ることはできませんでしたが……」


 彼女は微笑みながら、キュレネとムートに向かって続けた。


「お二人も相当お強いですよね。魔狼ガルムを二人で5匹も倒すなんて……。

 まぁ、今回はティア様が目立ちすぎましたけど、普通なら称賛されるレベルの強さですわ」


「ありがとうございます」


 キュレネが落ち着いた様子で返答する。


「今回、あなたたちを雇えて本当に良かったと思っています。

 実は私、剣や魔法の鍛錬で行き詰まっていたのです。


 それで、先輩から『強敵との実戦経験が成長につながる』と聞いて、今回のゴブリン討伐を計画しました。


 それが、あなたたちと行動を共にしたことで、ただの実戦経験以上のものを得られた気がします。


 物事の進め方や、強さに対する考え方――そのすべてが、大きく変わるきっかけになりました。

 本当に、ありがとうございます」


 ……何がどう変わったのかは正直わからないけど、本人が満足しているならそれでいいや。


 そう考えていると、フォーリアさんは少し考え込むような素振りを見せた後、提案する。


「そこで……私から何かお礼をしたいと思い、考えました。


 あなたたち、魔法書などは必要ではありませんか?


 私が学園で勉強のために使っているものなのですが、数冊持っています。

 一般には入手困難な書物かと思われます。

 ただ、どれも高価な品ですので……1冊だけにはなりますが、お譲りしようと思います。

 いかがでしょうか?」


それに対しキュレネが返答する。


「確かに、それは興味深いですね。どのような本か、見せていただいてもよろしいですか?」


 フォーリアはメイドに、本を持ってくるよう指示した。


 持ってきた本は全部で10冊。それを見たキュレネの目つきが変わる。

 キュレネが手に取ったのは、『魔法理論の極意』という本だった。


 少しページをめくり、中を確認した後――


「これを譲っていただいてもよろしいでしょうか?」


 その言葉を聞いたフォーリアは、微妙な表情を浮かべる。

「この本は、ほかの本をすべてマスターした人が対象で、非常に難易度が高いのですが……大丈夫ですか?」


「ええ、大丈夫です。これは、魔法界の第一人者・アコルト先生が書いた最新著書の写本ですよね? 実は伝手を頼って入手を試みたのですが、手に入れることができませんでした」


「この本のことをご存じだったのですね。それは失礼しました。では、差し上げます」


「でも、こんなに貴重なものをいただいてしまっていいのですか?」


「実は、これ、勉強がてら私が写したものなので大丈夫ですよ」


「そうですか。それでは、ありがたく頂戴いたします」


 どうやらキュレネが身につけている魔法は、彼女の家が公爵家だった時代のものらしく、やや古い。最新の理論をもとに改良したいと考えているようだ。


 フォーリアさんから「ここにいる間は滞在してもいい」との申し出を受けたが、もう十分に休息も取れたので、私たちは明日発つことを伝えた。


 部屋に戻ると――


「フォーリアさんじゃないけど、今回の件でティアの強さを改めて思い知らされたわ。あの短時間で魔狼王マーナガルムの群れを殲滅、それでいて地下室には傷ひとつつけていない。正直、どんな攻撃で倒したのかよくわからないけど……あれだけの敵を前に、そんな戦いができるほど余裕があったってことでしょ?」


「まあ、そうね」


「やっぱりね。私ももっと強くなりたいから、次は世界最大の大迷宮『アトマイダンジョン』に行きましょう。あそこならAランクの魔物もいるし、相手に困ることはないわ」


 アトマイダンジョンなら、私にとっても都合がいい。ソノリオダンジョンの情報では、まだ稼働している可能性のあるダンジョンのひとつなので、転移装置の確認もしたいし、帰るための手がかりが得られるかもしれない。


「アトマイダンジョンに行く道中にある精霊教会に寄りながらいってもいいかしら? ちょっと到着は遅くなるけど、もらった本に書かれていることをマスターする時間がほしいの。それに、回復魔法の『エクストラヒール』をもっと使いこなしたいから」


「構わないよ。何日くらいかかる?」


 アトマイダンジョンは、ここから西のドライステーロ王国の西端にある。一方、このバンパセーロ王国は東端に位置する。つまり、かなりの距離がある。


「たぶん3カ月くらい。精霊教会には30~40カ所寄ることになりそう」


「わかった。ところで、エクストラヒールがうまく使えないの?」


「ええ、ちょっと安定しなくて……たぶん、もらった魔法陣が不完全なのだと思う。ティアはそんなことないの?」


 そういえば、オリジナルの魔法陣を解析したとき、解析不能な部分は補完して再構成した、と書いてあったっけ。

 オリジナルの魔法陣はノバホマロ(新人類)が使えない第七の属性を利用している。そのため、仮に解析できたとしても、通常の人間には使えないと、頭の中の人が教えてくれた。


 そういえば、最初に冒険者ギルドで「六つしかないはずの魔法適性が七つある」と言われたっけ。

 ということは……やはり、オリジナルの魔法を使えた大聖女サルースも、私と同じ旧人だったのか?


 となると、問題なく使えるという返事はしないほうがいいかもしれない。


「私、ほとんどの魔法の制御がうまくできていないから、少々の不具合は当たり前だと思っていたわ」


 一応、それは本当だ。魔力が大きすぎて、うまく制御できないのだから。


「そう? ティアはうまく使えているように見えたけど、そうでもないのね。じゃあ、ティアは魔法の制御が課題ってことね」


「うん」


 いい機会だから、私は微細なコントロールを身につけよう。


 こうして、私たちは明日からアトマイダンジョンに向けて旅立つことになった。

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