第63話 貴族令嬢の護衛16 報酬
数日が経ち、ギルドマスターたちが屋敷を訪れた。
その際、私たちも応接室に呼ばれた。集まったのは、ポルシーオ伯爵、フォーリアさん、オディン隊長、そしてギルドマスターのマンスーロさんと受付のイレーナさん。それに私たち三人を加えた計七名だ。
最初に口を開いたのはポルシーオ伯爵だった。
「今回の牧場制圧への協力に、大変感謝する。ありがとう。おかげで後処理も大方片付き、ようやく君たちへの報酬について決めることができる。
当初、冒険者ギルドには娘の護衛を100万サクルで依頼していた。しかし、その後、娘が追加で牧場の調査を依頼し、それに+100万サクルを上乗せ。さらに、状況次第で増額するという約束だったと思う。その増額分については、これから交渉ということで間違いないかな?」
「はい」
冒険者ギルドマスターのマンスーロさんが口を開く。
「本件は、冒険者ギルドが正式に仲介した依頼です。よって、ギルドとしては、冒険者が不利益を被らないよう確認させていただきます」
マンスーロさんもポルシーオ家の関係者だったはずだけど……大丈夫なのかな?
「お手柔らかに」
「まず本件ですが、フォーリアお嬢様の護衛、そしてこの町周辺で発生した異変の調査協力の依頼となります。
まず護衛についてですが、報告によると、牧場の地下にいた魔狼王1匹、そして魔狼35匹のうち、クラーレットが33匹を討伐し、護衛対象を守ったとのことです。
これは、当初の想定をはるかに上回る危険度の高い状況であり、想像を超える成果ではないでしょうか?」
ポルシーオ伯爵が頷きながら答える。
「ああ、娘たちからも聞いている。おそらく、あなた方がいなければ、フォーリアやオディンも命を落としていただろう。
さらに、もし魔狼王の討伐に失敗し、クヴァーロン王国への侵攻を許していたら、我々ポルシーオ一族はその責任を問われ、破滅していたはずだ。
それを、わずかな人数で対処できたのは、まさに奇跡的な成果と言っていい。本当に感謝している」
マンスーロさんが続ける。
「次に、調査協力についてですが、短期間のうちに情報を収集し、分析、敵の企みを阻止するとともに、事件の全容がわかる書類を入手。そして、犯人の逮捕にまで至ったということで、これ以上ない成果と言えるのではないでしょうか?」
「こちらも、娘たちから話を聞いた。情報収集の手法から的確な指導を受けたそうだな。
さらに、集めた情報から牧場で魔狼が飼育されていることを事前に察知し、敵が動く前に制圧を提案したのも君たちだと聞いている。
もし今回のタイミングを逃していたら、すべて後手に回り、食い止めることは不可能だったかもしれない。
その後の牧場の資料も、君たちが隠し場所を発見したおかげで、今回の事件の全容を明らかにできただけでなく、シドニオ帝国の動きまで把握することができた。
これは、我が領だけでなくバンパセーロ王国全体に関わる最重要情報と言っても過言ではない。それをこの短期間、限られた人数で成し遂げたのだから、こちらもまさに奇跡的な成果だろう」
マンスーロさんが笑みを浮かべながら言う。
「どうやら伯爵は、今回の依頼の結果に大変満足されているようで、何よりです。では、報酬額についてですが……いかほどお支払いになりますか?」
ポルシーオ伯爵は一瞬考え、静かに口を開いた。
「5000万サクルでいかがだろうか?」
キュレネが、ムートと私に報酬額について小声で確認をしてきた。
ムートは「どうでもいい」といった様子。
私の方も、相場なんてまったくわからないので「お任せ」といった感じで返答すると、
「思いもしないぐらい多かったのだけど......」
と私たちの態度にはちょっと不満げな様子を見せた。
キュレネは表情を切り替えポルシーオ伯爵の方に向き直り返答した。
「それだけいただけるのでしたら、何も不満はございません。ありがたく頂戴いたします」
「では決まりだ」
ポルシーオ伯爵は頷いた後、少し考え込むような素振りを見せ、続けた。
「もしよければ、我々に仕える気はないか?
仕えるのが性に合わないというのであれば、客人という形で我が領に留まってもらうのでも構わない」
キュレネは家の復興を目指しており、私は故郷へ戻るつもりなのでこの提案には乗れない。
キュレネが伯爵に返答する。
「大変ありがたいお申し出ですが、とある貴族の後継ぎとなる予定があるため、辞退させていただきます」
「なるほど、確かにそれなら仕方あるまい」
伯爵は納得した様子で頷くと、懐から一枚のコインを取り出した。
「では、何か助けが必要になった時は遠慮なく頼ってくれ。このコインを渡しておこう。
これは我が領の恩人の証だ。これを持って訪ねてきた者がいれば、必ず私に報告が入ることになっている」
「ありがとうございます」
私たちはコインを受け取り、一礼する。
その後、ギルドマスターのマンスーロさんは話題を変えた。
「さて、魔物を討伐した場合、魔石や素材は討伐者の所有物とする、という約束になっていたな。確認をしたい」
マンスーロさんが記録を確認しながら尋ねてくる。
「クラーレットが倒したのは、魔狼王1匹、魔狼33匹で間違いないか?」
ええと……魔狼は、キュレネとムートが5匹倒して、私は最初に3匹、その後25匹倒したから……合計33匹。
私は一瞬考えた後、頷く。
「間違いありません」
ギルド受付のイレーナが書類に目を通しながら、報酬の詳細を読み上げる。
「では、討伐報酬としての魔石の買取額ですが――
Aランク魔物
・魔狼王1匹 1000万サクル
Bランク魔物
・魔狼33匹 3300万サクル
さらに、魔狼の素材買取額が2150万サクルとなります。
合計すると……」
イレーナが一呼吸置いて、金額を確定する。
「討伐報酬+依頼報酬+素材買取額で、11,450万サクルになります。
また、ギルドポイントについてですが、討伐分と依頼分を合わせて93,000ポイントです」
私はその数字を聞きながら、ギルドの昇格条件を思い出す。
Aランク昇格の条件は……
• 4つ以上の国でBランク以上の依頼をクリア
• 3人で30万ギルドポイントを獲得
今回の依頼で、Bランク依頼を達成したのは2か国分。
ギルドポイントは、あと16万ポイントほどでAランク昇格が見えてくる。
思った以上に稼げたな……
そう考えていると、マンスーロさんが再び確認を取る。
「魔狼王の討伐は、ティア単独で行ったと聞いているが、間違いないかか?」
「はい、間違いありません」
私が頷くと、マンスーロさんが満足げに微笑んだ。
「では、ティアに『ビーストスレイヤー』の称号と、それを示す勲章を授けよう」
どうやら、すでに準備していたようで、マンスーロさんはその場で勲章を手渡してくれた。