表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/138

第61話 貴族令嬢の護衛14 最高戦力

「あなたたちには敬意を表して、ここの最高戦力でお相手いたしましょう」


 そう言って、アチピテルが壁に手を触れる。


 次の瞬間、砂が崩れるように壁が消え――


 その奥から、何十匹もの魔狼ガルムが姿を現した。


 そして、群れの中心にいるのは――


「あれは、魔狼王マーナガルム!?」

 オディン隊長が思わず声を上げる。


「ご名答。Aランクの魔物、魔狼王マーナガルムです」


 アチピテルが満足げに微笑む。


「どうです? 素晴らしいでしょう。あなたたちではまともな戦いにもならないと思いますが……覚悟はよろしいですか?」


 ――まずい。


 ここまでの戦いとはレベルが違う。

 さっきのように1匹ずつ倒していたら、仲間を守り切れない。

 かといって、これだけの数の魔物を一瞬で倒すのも、できれば避けたい。


 ――どうする?


 ……いや、私ひとりなら、目撃者なしで済む。


「ここは私が足止めします。皆は逃げてください」


「何言ってるの! あなたにだけ戦わせるわけにはいかないわ!」


 フォーリアさんが即座に反論する。


「私たちも一緒に戦うわ。あの魔物たちを外に出してしまったら、討伐がとんでもなく難しくなる。あれだけの数でフィソイルコの町が襲われれば、間違いなく壊滅するわ。

 ここで食い止めないと、大変なことになるのよ」


 鋭い視線。

 その表情には、決意が満ちている。


「この閉鎖された場所なら、まだ何とかなるかもしれない。もし私たちが先に倒れるようなことがあったら……あなたは離脱して、上にいる仲間に伝えて」


 ――命をかける覚悟ができている。

 いや、もう"死ぬ前提"で、どれだけ道連れにできるかという雰囲気だ。


 このホール内なら、自爆覚悟の大魔法を使えば相打ちを狙えるかもしれない――


 ――そんなの、させるわけにはいかない。


 ここまでして自分の領地や領民を守ろうとする人が、こんな場所で死んでいいわけがない。


 しかし、足手まといだと言って下がらせるわけにもいかないし……


 ――仕方ない。


「私はあなたたちの護衛ですから、全力で守ります」


 少しだけ気合を入れて宣言する。


「これから、一族秘伝の技を使います。下がってください」


「???」


 みんなが戸惑う。


「これから起こることは、他言無用でお願いします」


 何が起こるのかわからないはず。

 それでも、私の様子を見て、フォーリアさんたちは静かに頷いた。



 私はすっと前へ出て、構えた。


 ――さて、どうしようか。


 キュレネ達もどこかにいるから、地下室を破壊するような魔法は使えない。

 それに、あとで悪事の証拠も探すはず。


 よし、周囲への被害を抑えて、効率的に片付けよう。


 さっきの 音速嵐マッハテンペスト(極小) を、1匹につき1つ。

 ……えーと、数は――26匹 か。



「ん? 一人で前に出てきてどうするつもりですか?」


 アチピテルが、私を見て余裕の笑みを浮かべる。


魔狼王マーナガルムが率いるこの群れに立ち向かう勇気は認めますが……なんと無謀なことでしょう」


 その直後、魔狼王マーナガルムが 吠えた。


 その咆哮は空間を震わせ、衝撃となって押し寄せる。


 フォーリアさんたちがすくみ上がった――その瞬間。


 26並列――音速嵐マッハテンペスト、発射。


「――よし、成功」


 小声でつぶやき、小さくガッツポーズ。


「えっ、何が起こったの???」

「な、なんだこれは……!?」


 フォーリアさんたちも、アチピテルも 混乱 している。


 ――まあ、そうなるわよね。


 本来なら 街ひとつを吹き飛ばせる超級魔法 を、極小の威力に調整したとはいえ。

 26発同時 に放つには、超高速処理が必要。


 その影響で、私自身の動きも 無意識に加速 されていた。


 加えて 音速嵐マッハテンペスト は、音速を超える風魔法。


 目で捉えることは不可能 。


 ――結果。


 みんなが咆哮に怯えた 一瞬の間に 、


 25体の魔狼ガルムは吹き飛び、

 魔狼王マーナガルムが いつの間にか負傷し、血を流している。


 戦況が一変したことに、誰もが呆然としていた。


 だが――魔狼王マーナガルムは まだ倒せていない。


「――グルルルルル……!!」


 鋭い殺気を放ち、飛びかかってくる。


 右前足を振り下ろしながら、一気に距離を詰め――


 ――いい機会ね。


 Aランクの魔物が どれほどの強さか 、確かめてみよう。

 受け止めてみるか。


 振り下ろされた右前足を、試しに 左手で受け止める。


 ……あれ?


 遅いし、威力もない。


 ――Bランクと、大差ないじゃない。


 思わず肩透かしを食らう。


 ……うん。

 やっぱり私の強さが異常なんだ。


「じゃ、終わりね」


 魔狼王マーナガルムの 右前足を掴んだまま 、


 一瞬で懐に潜り込み――


 剣を切り上げる。


 ――魔狼王マーナガルム、討伐完了。



 フォーリアさんが驚きと敬意の入り混じった表情で私を見つめる。


「うそ……いつの間にか終わってる……」


 そして、少し戸惑いながらも尋ねてきた。


「ティア様、"他言無用" というのは、どこまでの範囲でしょうか?」


 ……ん? ティア"様"?


 さっきまで普通に呼んでいたのに、一気に距離感が変わってしまった。


「倒す過程です。私がどうやって魔狼ガルムを倒したかを伏せていただければ」


「はい、それはご心配なく、何もわかりませんでした……」


 ……だよね。


「あと、倒すのにかかった時間も秘密でお願いしますね」


「はい、では、この状況は報告してもよろしいのですね?」


「はい、さすがに魔狼ガルムを討伐したという結果は報告の必要があるでしょう」


「わかりました、ありがとうございます」


 フォーリアさんがホッとしたようにうなずく。


 と、そこへ別の質問が飛んできた。


「あの、その……赤い目のことは報告してもよろしいのでしょうか?」


 ……あ。


 そういえば、強力な魔法や負荷の高い処理をすると 目が赤くなる んだった。

 油断してた……。


「それも秘密でお願いします」


 できるだけ何でもないことのようにさらっと言う。


 だが――


「詰めが甘いわよ、ティア」


 冷静な声が響いた。


 視線を向けると、奥から キュレネとムート が姿を現した。

 二人の手には…… アチピテルとウテル 。


「あっ!」


 そういえば、 アチピテルたちのこと 忘れてた……。


「……確かに詰めが甘いわね、私」


 素直に認めると、キュレネが呆れたようにため息をついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ