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第57話 貴族令嬢の護衛10 調査

 フィソイルコ町に戻ると、まず町役場へ向かい、『ヴァルマクボ牧場』という牧場が存在したこと、そして「1カ月以内に申請に来い」と伝えたことを町長のブリジニックさんに報告した。さらに、クバーラ子爵が背後にいる可能性もあるため、逐次状況を報告するようフォーリアさんが指示を出した。


 また、牧場がこの町の肉屋にユゥバムースを納入しているらしいことを伝え、実際に取引が行われているか調査を依頼した。ブリジニックさんは元々商業ギルドの出身で、こうした案件に興味があるらしく、快く引き受けてくれた。


 その後、屋敷に戻り、今後の方針について打ち合わせを行う。とはいえ、メインとなるのはフォーリアさんとキュレネの会話だ。


「牧場にクバーラ子爵が関わっているとなると厄介ね。彼には、お父様から直接確認してもらうわ」


「クバーラ子爵って何者ですか?」


「ヴァルマクボ山地で境界を接している隣の領主よ。過去に何度か領地の境界を巡って揉めたことがあるの。ただ、今回の牧場は明らかにこちらのポルシーオ領側にあるし、普通はあんな場所に牧場を作らない。だから、あの牧場主の話が嘘の可能性もあるわね」


「クバーラ子爵領の調査は可能ですか?」


「ええ、一応、向こうにも協力者がいるわ」


 ──常日頃から隣の領に密偵を送り込んでるってことね。


「冒険者ギルドマスターの話では、牧場を作る際にこの町の住民は関わっていなさそう。だから、クバーラ領の人間が関わっているか確認したほうがいいわね。それから、ユゥバムースがクバーラ領にも流れているかどうかも調べたいわ」


「そうね。クバーラ領の調査と合わせて、あの牧場も監視させましょう」


「それと、あの牧場が孤児院のクルオ君が行った牧場と同じなのか気になるわ。食堂や居住空間を見る限り、それほど大勢が暮らせるようには見えなかったの」


「確かに、あの牧場だけとは限らないわね。町から消えた人数に対して、あそこにいた人の数が明らかに少なかったもの」


「もう一度、クルオ君を牧場に連れて行って確認させる?」


 そういう意見が出たところで、私は口を開いた。


「私、あの牧場で見た人全員の顔を描けます。それで確認しましょう」



 次の日、私は牧場の人々を描いた絵を一式町役場に渡し、勧誘に来た人物や納品に訪れた者がこの中にいるかも確認してほしいと追加で依頼した。その後、孤児院を訪ね、クルオ君に牧場にいた人物を確認してもらう。


「僕たちに“いい仕事がある”って言ってきたのがこのおじさん。それと、“もう友達は帰った”って言ったのもこの人」


 クルオ君が指差したのは、ちょい悪おやじのウテルだった。


 さらに、一緒に食事をした人も数名いたことがわかり、クルオ君が行った牧場と、私たちが確認した牧場が同じである可能性は高いと判断した。


 その後、数日にわたりさまざまな報告が届く。


 ポルシーオ伯爵からの手紙には、クバーラ子爵に牧場の件で面会を申し込んだものの、はぐらかされて話が進まないこと、おそらく何か裏があるだろうとの見解が記されていた。また、今回の件を優先度が高いと判断し、もともと別件を担当させる予定だった者たち10名を急遽こちらへ派遣することにしたため、調査を進めるようにとの指示があった。ちなみに「クバーラ子爵と多少揉めても構わない」とのことだった。


 ──ポルシーオ伯爵も、この件が大事になる可能性が高いと見ているのね。それにしても、情報が少ない段階ですぐに人員を派遣してくれるなんて、対応が早くて助かる。


 一方、冒険者ギルドに依頼していた調査の結果も届いた。ゴブリンの巣に残されていた毛や歯型、足跡を分析したところ、Bランクの魔狼ガルムのものと判明した。


 ガルムの特徴

  • 体長2~3メートル、群れで狩りをする。

  • 黒い体毛は魔力を帯びており、強靭かつ耐魔法性に優れる。

  • 主に大陸南部、シドニオ帝国に生息。


「今まで、この山でそんな魔物を見たことないわ。なんでこんな北部の山にいるの? 南部から移動してきたなら、目撃例や被害報告があってもおかしくないのに」


「確かに、どうしてここにいるのかは不明だけど……でも、この魔物ならゴブリンの巣を壊滅させる力は十分ありそうね」



 町長からの報告によると、西壁地区の壁に穴があり、人が自由に出入りできる状態になっていたという。外側は張りぼてで偽装され、内側には壁の穴に面する形で小屋が建てられていた。そのため、小屋の中に入らなければ穴の存在に気づけなかったらしい。


 周辺の調査では、約3カ月前から徐々に人が姿を消し、現在までにおよそ200人が行方不明になっている可能性があるとのこと。勧誘していたのは、やはりちょい悪おやじのウテルさんがメインで、牧場にいたガラの悪い男たちも目撃されているようだ。


 ──やっぱり、あの牧場に連れて行かれたのは間違いなさそうね。


 さらに、ユゥバムースについても新たな情報が入った。週に1度、行商人風の男が6匹ずつ町の3番通りにあるカボ肉店に納入しているという。売上金はそのまま穀物などの食料の購入に充てられ、男はそれを持ち帰っているらしい。


「……あの牧場主、“この町に納入している”って言ってたけど、随分と少ないわね。ひと月で24匹だけ。あの牧場で生産されたもののほんの一部って感じ」


 どうやら、この町がメインの販売先ではないようだ。


 一方、クバーラ領の調査では、2年ほど前に今回の牧場で使われているのと同じ建築資材が発注されていたことが判明した。発注者は「ポルシーオ領の者」と名乗っていたらしい。だが、その人物は初めての客で、それ以降は現れておらず、クバーラ領の建築業者とは関係がないと考えられる。


「ポルシーオ領にも同じ建築資材はあるのに、わざわざ“ポルシーオ領の者”と名乗ってクバーラ領から調達するなんて、どう考えても不自然よね」


 また、ユゥバムースの流通についても調査が行われたが、市場にはほとんど出回っておらず、確認できたものは冒険者ギルド経由の仕入れ品だけだった。牧場から直接仕入れている業者は確認されていないという。


 ──クバーラ領もメインの販売先じゃない? じゃあ、一体どこに売っているの……?



 牧場を監視している見張りからの報告によると、実際に働いていると確認できたのは20~30人ほど。


人の出入りはほとんどなく、一度だけコルヌボース(角牛)に荷物を積んだ二人組がフィソイルコの町へ向かい、そのまま戻ってきたらしい。


 ──これって、町長からの報告にあった件かしら?


 また、毎朝30~40匹のユゥバムースが倉庫へ運ばれているため、牧場で飼育されている数はほぼ一定に保たれているように見えるという。


「……全然出荷数と合わないじゃない。自分たちで消費してるってこと?」


「でも、それにしては数が多すぎます。ユゥバムース1匹で人20人分の食事量に相当します。それが30匹なら600人分、40匹なら800人分になりますよ」


「この町から連れて行かれた200人に加えて、ほかの町からも集めているなら、それくらいいてもおかしくないわね……。地下にでもいるのかしら? でも、肉以外の食料も必要だし、一体どうなってるの……?」

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