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第54話 貴族令嬢の護衛7 調査の依頼

 孤児院を出て、西壁地区を経由して冒険者ギルドへ行く。


 ギルドマスターのマンスーロさんに、三番目のゴブリンの巣も壊滅していたことを報告した。


「うーん……何か引っかかるな。

 高レベルの魔物が複数現れたとなると、もっと山の環境に変化があってもいいはずなんだが……。

 しかも、今のところ被害が出ているのはゴブリンの巣だけ。一体どういうことだ……?」


 考え込むマンスーロさんに、フォーリアさんが尋ねる。


「ところでマンスーロ、ヴァルマクボ山地のどこかに牧場なんてあったかしら?」


「……いえ、知りません」


「最近、その牧場とやらに働きに行った人がいるのよ。何か知らない?」


「牧場で人を募集していたなんて話、聞いたこともありませんが……。

 それに、もし牧場を作るなら、この町から職人が派遣されたり、資材の調達や運搬があるはずです。

 でも、ここ数年、そんな話は一切ありませんよ」


「そう……今回の件、何か気になるのよね」


 フォーリアさんは腕を組み、少し考え込んだ。

 すると、彼女がふと思いついたように言う。


「ねぇ、クラーレットはBランクの魔物が同時に何匹までなら倒せる?」


 キュレネが代表して答える。


「……三匹までなら保証できます」


「保証する、ですって? ずいぶんな自信ね」


 フォーリアさんがニヤリと笑う。


「では、護衛の仕事に加え、今回の件の調査にも協力してもらえないかしら?

 とりあえず、報酬は倍の額を出すわ。さらに、危険度が高い場合は状況に応じて増額する」


「その増額分、一方的に決めるのではなく、ちゃんと交渉させてください」


「ええ、いいわ。では決まりね。……いいわね、ギルドマスター?」


 フォーリアさんが「マンスーロ」ではなく「ギルドマスター」と呼んだ。

 つまり、正式な依頼としてギルドに認めるよう求めているのか。


 マンスーロさんは、腕を組んで少し考え込んだ後、苦笑いしながら言った。


「おいおい、ちょっと待て。

 普通のBランクパーティなら、Bランクの魔物をパーティ全員で一匹狩れる程度だろ?

 三人で三匹狩れるなら、Aランク相当じゃねぇか。……お前ら、Bランクになりたてだろ?」


 キュレネが落ち着いた口調で返す。


「今回の件、何者かがゴブリンの巣を壊滅させていますが、

 そもそもゴブリンの巣の攻略自体は、フォーリアさんたち三人でも可能なレベルと考えられます。

 それに加えて、私たちも同行するのであれば、調査段階での戦力としては許容範囲ではないでしょうか?」


「うーん……」


 マンスーロさんは渋い顔をするが、キュレネは続けた。


「私たちの実力については、ギルドマスターならこれまでの経歴を確認できるはずです。

 それを見て不足だと判断するなら、止めていただいて構いません」


「……わかった」


 そう言うと、ギルドマスターは席を立ち、部屋を出て行った。


 少しすると、部屋にお茶とお菓子が運ばれてくる。


「おお、気が利くね」


 マンスーロさんの評価が上がった。


「じゃあ、私たちは休憩しましょうか。……疲れたわ」


 皆、本当に疲れているようで口数が少ない。


 ゴブリン討伐のために何時間も山を歩き、戻ってすぐに孤児院と冒険者ギルドを訪れたのだから無理もない。


 そりゃあ、疲れるよ……。



 ゆっくりしていると、マンスーロさんが戻ってきた。


「すまなかった。経歴を確認させてもらったが……まさかお前たちがここまで強いとは思わなかった。

 正直、お前たち以上の冒険者がこの町に来るとも思えん。私からも、ぜひ協力をお願いしたい」


「へぇ、あなたたち本当に強いのね」


 フォーリアさんが感心したように笑うと、続けて言った。


「じゃあ決まりね。……マンスーロ、しばらくこの部屋を借りてもいいかしら?」


「はい、どうぞお使いください。追加依頼の件は処理しておきますので、帰りに受け取ってください」


 そう言って、マンスーロさんは部屋を出て行った。


 フォーリアさんは改めて周囲を見渡し、話を切り出す。


「では、今後の方針を決めたいわ。

 本当はゴブリンの巣を壊滅させた者を見つけたいところだけど……手がかりがない。

 だから、まずは『牧場』とやらを確認したいのだけれど、それでいいかしら?」


 キュレネは少し考え込んだ後、慎重に答える。


「……おおむね、それで問題ないとは思います。ただ……今回の件、何か嫌な感じがするんです。

 他にできることがあるかもしれません。一度、整理させてもらってもいいですか?」


「ええ、どうぞ」



「今回、調査が必要と思われる件は三つ。


  1. 牧場

  2. 町からいなくなった人々

  3. ゴブリンの巣を壊滅させた者


 まず、牧場について。孤児院のクルオ君が実際に働いていたようなので、牧場のような施設が存在するのは確かでしょう。ただし、牧場の設立も人員の募集も秘密裏に行われていた形跡があります。運営者はかなり怪しいと言えるでしょう。

 さらに、道中で魔物に遭遇する可能性もあるため、フォーリアさんの提案通り、私たちが直接確認しに行くのがよさそうです」


「次に、町からいなくなった人々についてですが……。先ほど孤児院から冒険者ギルドへ来る途中で見た西壁地区、あそこはいわゆるスラムという認識で合っていますよね? 以前より人の姿が少なくなったということですが、どのくらいの人数が消えたと考えられますか?」


「うーん……難しいわね。確かに、前はもっと人で溢れていたわ。そう考えると、少なくとも100人くらいはいなくなっていてもおかしくないわね」


「そうなると、いくつかおかしな点が出てきます。

 まず、牧場を運営するのに、そこまで多くの人手が必要なのでしょうか? 山の上に大規模な牧場を作るのは不自然です。それに、町で人員募集を行わず、スラムの人々や孤児だけを連れて行っているようですが、彼ら全員が牧場の仕事に適しているとは思えません。

 クルオ君の話では、『帰った』と言われた子が実際には戻っていなかったとのこと。不当に拘束され、別の仕事をさせられている可能性があります。

 さらに、それだけの人数が町から姿を消しているのなら、目撃者もいるはずです。誰が、どんな状況で出て行ったのかを調べられれば……。

 もちろん、町から消えた全員の情報を追うのは難しいでしょうが、ある程度の人数や名前が把握できれば手がかりになるかもしれません。この件、町役場に調査を依頼できないでしょうか?」


「確かに、その情報はあった方がいいわね。町役場に頼むのは良い案だわ」


「最後に、ゴブリンの巣を壊滅させた者についてですが、これにも不審な点があります。

 少なくとも二箇所のゴブリンの巣を壊滅させた、かなりの実力者がいるのは間違いないでしょう。しかし、それならば山全体にもっと大きな影響が出てもおかしくないはずです。けれど、目立った被害はゴブリンの巣のみ。これほどの強者がいながら、普段はまったく姿を見せず、目撃証言すらない……。まるで、人間の犯罪者のようです。

 ただ、いくつかの手掛かりがあります。

 ゴブリンの死体には、食いちぎられた跡があり、そこに残った歯型や血だまりには足跡が残されていました。おそらく、上下に二本ずつの牙を持ち、四足歩行する魔物でしょう。さらに、同じ種類の黒い毛が何本も落ちていました。

 歯型と足跡については、ここにいるティアが原寸大で正確に絵を描きます。この絵と毛を冒険者ギルドに提出し、どんな魔物なのか特定してもらおうと思います」


 これは、ゴブリンの巣でキュレネと話していたことだった。


「それから、この件はポルシーオ伯爵にも伝えたほうがいいでしょう」


「こんな、何も分かっていない状況で報告なんてできないわ」


「確かに不確定な要素は多いですが、状況次第では大事になる可能性もあります。早めに知らせておいた方がいいかと。今後の展開次第では、ポルシーオ伯爵様に応援を頼むことになるかもしれませんし、情報さえ伝えておけば、伯爵様の方で何らかの判断をされるかもしれません」


「キュレネさん、ありがとう。その通りね。急いでお父様に報告するわ」


 こうして、ひとまず話し合いは終わった。

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