表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/138

第52話 貴族令嬢の護衛5 謎の襲撃者がいる?

 屋敷といっても別荘のようなもので、普段は誰も住んでいないらしい。今回は、お嬢様が学園の夏休みを利用して実戦経験を積みたいとのことで、一行だけが滞在している状況だった。


 彼女たちは私たちを年下の貴族風少女、というか貴族だと思い込んでいる節があり、同じテーブルで食事をするなど、思いのほかフレンドリーに接してくれた。


 貴族からこんなに親しげに接されるとは思わなかった。今回の依頼は、かなりラッキーかもしれない。


 翌日、さっそくゴブリン狩りに出かける。ゴブリンの巣は3か所あり、いずれもフィソイルコの町から西にあるヴァルマクボ山地に位置する。今日はその中でも最も近い巣を目指す。


 ギルドから渡された簡単な地図を頼りに、目印を確認しながら進む。最後の目印である大きなこぶのある木を見つけ、慎重に周囲を見渡すと、ちょうど洞窟からゴブリンが出てくるのが見えた。


 見つけた……あれがゴブリンの巣か。今、巣の周りにゴブリンが二匹いる。


 ほぼ同時に、皆も気づいたようだった。木陰に隠れたまま集まり、フォーリアさんが作戦を立てる。まずはゴブリンを洞窟の外へおびき出し、それを倒してから突入するという流れだ。


 先陣を切るのは、黄色髪の騎士ラーパさん。彼女が前に出てゴブリンの巣へと近づく。その少し後ろ、左右にフォーリアさんと緑髪の魔法士アルミニスさんが続いた。


 私たちは戦闘が始まるまで隠れて待機する。


 ゴブリンたちはフォーリアさんたちに気付き、騒ぎ始める。それに呼応するかのように、洞窟の奥から次々とゴブリンが姿を現した。数は……15匹ほどか。


 すでにフォーリアさんとアルミニスさんは魔法の準備を整えていた。先頭のラーパさんが剣を振り回し、威嚇する。


 それに応じるように、ゴブリンたちが一斉に襲い掛かってきた。その瞬間、後方の二人が魔法を発動させる。


「ファイヤーストーム!」


 一瞬にして、ゴブリンたちが炎に包まれた。炎が収まると同時に、フォーリアさんとラーパさんが剣を構えて突撃し、アルミニスさんが後方から援護する。


 ゴブリンの群れは、あっという間に全滅した。


 ……私たち護衛の出番は、まったくなかった。



 すぐに洞窟へ入る。先頭を行くのはフォーリアさんとラーパさん。その後ろにアルミニスさんが続き、さらにその後ろを私たち三人がついていく。


 しばらく進むと、広間に出た。


 そこには数十匹のゴブリンがうごめき、さらに奥にはひときわ大きな個体が鎮座している。


「ここのリーダーはゴブリンロードだな。さて、お嬢様たちの実力を見せてもらおうか」


 ムートはどこか上から目線で見学者のように振る舞っていた。


 ゴブリンロードは、通常のゴブリンの上位種でCランクの魔物だ。

 通常のゴブリンが1.3m程度なのに対し、ゴブリンロードは2m近い巨体を誇る。その傍らには、比較的大きなゴブリンが四匹。おそらくDランクのホブゴブリンだろう。


 フォーリアさんとアルミニスさんが、魔法で先制攻撃を仕掛ける。広間にパニックが広がり、ゴブリンたちはなすすべもなく倒れていく。ホブゴブリンたちも、さほど手間取ることなく片付けられた。


 残るは、ゴブリンロードのみ。


 ここで、ラーパさんとアルミニスさんが下がり、フォーリアさんが前に出る。


 そういえば……今回の目的は、お嬢様の実戦経験を積むことだった。


 護衛である私が黙って見ているのも妙な気がするが、いざとなれば攻撃を受ける直前で割り込めばいいだろう。


 フォーリアさんが動いた。敵へ向かうかと思いきや、すっと横に逸れながら魔法を放つ。


「ファイヤーボール!」


 火球がゴブリンロードに直撃。しかし、大きなダメージにはならなかった。それでも僅かに体勢を崩し、一歩後ずさる。


 その隙をついて、フォーリアさんが切り込む。しかし、ゴブリンロードは棍棒を振り下ろし、フォーリアさんの剣を弾き返した。


「パワーではゴブリンロードの方が上か……まあまあね」


 フォーリアさんは、どこか嬉しそうな表情を浮かべたかと思うと、再び踏み込む。


 間合いに入る前に剣を振る。


「烈風剣!」


 剣から風の刃が飛び出し、ゴブリンロードを切り裂く。かわせなかったゴブリンロードは、大きくダメージを受け、後ずさった。


 そのまま、フォーリアさんが畳みかけ――勝負あり。


 その後、残ったゴブリンがいないか確認し、町へ戻って冒険者ギルドへ報告した。


 結局、私たちがやったことといえば……岩陰から弓を構えたゴブリンを、キュレネが魔法で仕留めたくらい。


 ほぼ何もしていない。



◇ ◇ ◇ ◇ 


 二日後、二番目のゴブリンの巣へ向かう。


 地図に示された洞窟を発見するも、近づくにつれて強烈な腐敗臭が鼻を突いた。


「……臭い」


 思わず顔をしかめる。


 さらに奇妙なことに、見張りのゴブリンの姿がどこにもない。不審に思い、警戒を強めながら洞窟へと足を踏み入れると――


 そこには、ゴブリンたちの無残な死体が転がっていた。


「なんだこれ……?」


 皆、驚きの声を上げる。


 すでにゴブリンは全滅していた。死体の状態から見て、全滅してからそれほど日数は経っていないようだ。


 一瞬、あの魔人がアンデッドにするために殺したのではないか、という考えが頭をよぎった。だが、明らかに状況が違う。


「獣に食い散らかされたような跡ね。この辺りに獣系の魔物は何がいるか分かりますか?」


 キュレネがフォーリアさんに問いかける。


牙狼デンテスルプスはよく見かけるわね」


「……牙狼デンテスルプスが犯人ではないわね。ゴブリンとの力の差はそれほど大きくないから、本来なら牙狼デンテスルプスの死体も転がっているはず。でも、ここにはゴブリンの死体しかない。

 ここまで一方的に蹂躙できるような相手がいる……?」


 キュレネが眉をひそめる。


「一度戻って、冒険者ギルドに報告しましょう」



◇ ◇ ◇ ◇



 冒険者ギルドでゴブリンの巣壊滅の報告をし、ついでに強力な魔物の出現情報がないか尋ねた。


 報告を受けたギルド職員のイレーナさんは、一度奥へと引っ込み、すぐに戻ってくると、私たちを打ち合わせ室へ案内した。


 打ち合わせ室は質素な造りだった。


 ここのギルド、お金がないのかな……?


 そんな失礼なことを考えていると、青髪で体格のいい中年の男性が入ってきた。


「これはフォーリアお嬢様、お久しぶりでございます」


「久しぶりね」


 あれ? 知り合い?


 私が少し困惑していると、フォーリアさんが説明してくれた。


「彼はここのギルドマスターのマンスーロ。我がポルシーオ家の分家筋の人よ。ここに呼んだってことは、ゴブリンの巣壊滅の話が聞きたいってことでいいわよね?」


 そう軽く確認すると、私たちはゴブリンの巣で見た状況を詳しく説明した。


「……それで、どれくらいの規模の巣だったかわかるか? イレーナ」


「はい。資料によると、ゴブリン50~70匹程度の中規模なものと推測されていました」


「つまり、その規模の巣を壊滅させるほどの強力な魔物がいる、ということか……? だが、なぜわざわざゴブリンを全滅させる必要があった?」


 その疑問に、キュレネが答えた。


「50ものゴブリンを食べるほどの巨大な魔物なら、そもそもこの洞窟に入り込めません。おそらく、複数の魔物が襲撃し、ゴブリンを食料としたのではないかと考えられます」


「なるほど。しかし……ゴブリンを食うとはな。魔物の中でも、食材としては最底辺だと思うぜ。他にも魔物はいるってのに、わざわざゴブリンを狙うなんて妙な話だ。それに、襲った側の死体が一つもないってことは、少なくともCランク以上の魔物の集団と考えるべきか……?」


 マンスーロが腕を組んで唸る。


「ゴブリンを好んで狙うCランク以上の魔物、か……そんな奴がいた覚えはないな」


「何か目撃情報はありませんか?」


「今のところはないな」


「それも妙ですね。ゴブリンの巣を壊滅させるような集団がいるなら、もっと目立つはずなのに……」


「まあいい。念のため、ヴァルマクボ山地方面へ行く冒険者たちには、いつもより警戒を強めるよう通達しておく」


「少し面白くなってきたわ。正直、ゴブリン狩りだけじゃ退屈してたのよね」


 フォーリアさんが微笑む。


「フォーリアお嬢様も、十分にお気をつけください」


「Bランク冒険者の護衛もいるし、大丈夫よ」


 まあ、そうだけど……。

 このお嬢様、ちょっと危険な香りがする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ