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第50話 貴族令嬢の護衛3 絵の人物

 宿に戻り、私はキュレネたちに「円状の柱は神殿ではなく、城のどこかにある可能性が高い」と報告した。


 すると、街をぶらぶらすると言っていたムートが、意外にも城の敷地内に入る方法を調べてくれていた。


 城への出入りは許可証を持った者に限られる。許可証は、城で働く人間や、城と取引のある商人に発行されるものらしい


 つまり、商人に雇われるか、城の従業員になれば中に入れる可能性がある。しかし、今回は滞在期間が短いため、現実的ではなさそうだ。


 そもそも、時間があったとしても、特別な仕事のスキルがない私が雇ってもらえる自信はないのだけれど……。


「私のほうは、絵の人物について知っているという人にアポが取れたわ。明日、3人で会いに行きましょう」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 翌日、キュレネに案内されながら目的地へ向かう。


 しばらく歩くと、道には瓦礫やゴミが散乱し、壊れた建物が目立つエリアに差しかかった。


 ……これって、いわゆる貧民街とかスラムってやつじゃない? なんか怖いんだけど。


 私はほぼ無敵のはずなのに、昔の感覚で怖がってしまうのが不思議だ。


 それでも、キュレネは気にする様子もなく進んでいく。めちゃくちゃな身なりの人や、酔っぱらって道端に寝転んでいる人もいるが、"話しかけるなオーラ"はここでも有効らしく、誰も近寄ってこないのが救いだった。


 しばらく歩いた後、雑な修理跡が目立つボロボロの平屋の前で、キュレネが立ち止まる。


「ここよ」


 コンコン


 ドアがないので、代わりに柱を叩く。


「すみません」


「……なんだ?」


「情報屋の紹介で来ました」


「ああ、入んな」



 中に入ると、部屋は意外と片付いている。というより、ほとんど物が置かれていなかった。


 そんな中、壁際の椅子に腰かけた中年の男性がこちらを見ている。


「……貴族のお嬢ちゃんたちとは思わなかったな。まさか、俺を捕まえに来たわけじゃないだろうな?」


「いえ、私たちはこの国の人間ではないので、安心してください」


「ああ、なるほど。確かに外国の貴族が知りたがりそうな情報ではあるな。とりあえず、銀貨五枚だ」


「わかったわ」


 キュレネがお金を差し出すと、男はそれを受け取った。


「ある程度、情報屋から話は聞いているが……何が聞きたい?」


「この絵の人物について知りたいのだけど」


「……ああ、いいぜ。その女は、この国の元・第一王女で、今はインテーネ辺境伯夫人だ」


 インテーネ辺境伯領——そこはクヴァーロン王国の最南端で、南の大国シドニオ帝国と国境を接する土地だった。


「そのインテーネ辺境伯夫人について話題にしてはいけないと聞いたのだけれど、なぜかしら?」


「……ここから先の情報は、銀貨五枚だ」


「分かった。払うから、小出しにしないで全部話しなさい」


 そう言って、キュレネが鋭い視線を向ける。


 ……こわっ、なんか逆らえないような雰囲気が出てる。これが噂に聞く『女帝のにらみ』?


 すると男は、怯えたような顔をして、


「わ、わかった……」


 と、素直に話し始めた。



「ちょうど1年前くらいのことだ。元第一王女がインテーネ城から兵を引き連れ、町の住民の虐殺を始めた。そして、なぜか殺された者たちはアンデッドになり、さらに生きている住民を襲う……。その連鎖が続いたせいで、町はあっという間に大混乱に陥り、まさに地獄そのものだった」


 男は淡々と語るが、その目には今も恐怖の色が残っていた。


「唯一の救いは、兵もアンデッドも町の外には出てこなかったことだ。だから、俺のように町から逃げられた者は助かったが……おそらく数万人が犠牲になった。そして、今も数万人がアンデッドとしてさまよう"死の町"になっている」


 "死の町"……?


「つまり、元第一王女が死の町を作り出したってわけだ。王としては、この不名誉な事件を話題にされるのが気に入らないんだろう。だから、箝口令を敷いたって噂だ」


 男は苦々しくそう続ける。


「まあ……後になって考えると、あの時の元第一王女もすでに"上位のアンデッド"になっていたんじゃないかと思う。だから、首謀者は別にいるかもしれんがな」


 ……ということは、私を呼んだあの女性はすでにアンデッドになっている可能性が高いってこと?


 それじゃあ、会いに行っても意味がないか……。


「それにしても、アンデッドとはね」


 キュレネが小さく呟く。


「あの魔人が暗躍していそうだな」


 ムートが警戒するように言った、その時——



「兄貴! やばい、逃げろ!」


 突然、男が飛び込んできた。


「ピークのやつが裏切りやがった! すぐに衛兵どもがここに来る!」


「なんだと……そりゃ、やばいな!」


 男たちは慌てて部屋を飛び出していく。


「……まずいわね。私たちも逃げるわよ」


「なんで?」


「こんな場所にいたってだけで、仲間扱いされて捕まるわ。たぶん、"違う"って言っても聞いてもらえない」


「……あんたら、一体何やったの?」


「ははは……捕まったら、ただじゃ済まねぇことだけは確かだな。悪いな、あんたらを巻き込んじまって。俺たちは別の仲間のところへ行くが……来るか?」


「行かないわ」


「そうか。……気をつけな」


 男たちは慌ただしく去っていく。


「私たちのことは、まだ門番には伝わっていないはず。伝わる前に急いでこの町を出ましょう」


 私たちは急いで町の門へ向かい、何事もなく町の外へ出ることができた。


「……ふぅ、ちょっと危なかったわね。たぶん、あの家から出るときに衛兵に見られてる。しばらくは、この町に戻らない方がいいわ」


 キュレネがそう言うと、私を見た。


「ティアには申し訳ないけど、このままバンパセーロ王国へ向かいましょう」


 ——まあ、かなりの情報が集まったから、よしとするか。


 ……あんまりいい情報じゃないけど。むしろ、悪い情報ばっかりだけど……。


 まとめると——


 まず、私を呼んだ女性は、クヴァーロン王国の元第一王女で、今は南のインテーネ辺境伯領にいる。でも、そこはアンデッドに占拠された町で、彼女自身もアンデッドになっている可能性が高い。


 ……これじゃ、会いに行く意味もなさそうね。


 一方、転移装置は城の敷地内のどこかにあることがわかった。でも、壊れているし、今のところ無理して許可が必要な城の敷地内に入る必要はなさそう。


 そうすると、先に他の転移装置がある場所を探した方がいいのかな……?


 そんな感じの結論に落ち着いた。

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