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第49話 貴族令嬢の護衛2 転移装置はどこ?

 宿を出て、町で一番大きな神殿へ向かう。


 思えば、この世界に来てから、ずいぶんメンタルが強くなった気がする。

 前なら、一人で知らない場所へ調査に行くなんて、そんな度胸はなかった。


 やはり、魔法で身体強化されているように、メンタルも強化されているのだろう。


 そんなことを考えながら歩いているうちに、神殿に到着した。


 今は『ブレイン・エクスパンション・システム』の補助があるおかげで、道に迷うこともなくスムーズに目的地へ辿り着ける。


 とりあえず、周りの人たちに合わせて神殿に入り、お祈りをする。


 さて、このあとどうしようか——と考えながらきょろきょろと辺りを見回していると、優しそうな紫神官のおばさんが声をかけてきた。


「お嬢ちゃん、どうしましたか?」


 ……お嬢ちゃん?

 一体、いくつに見られているんだろうか?


 いや、それはともかく、お城にある神殿について聞きたい。

 けれど、いきなりそんな話を切り出すのも不自然だ。


 そこで、とっさに適当な理由を口にする。


「私、この町へ来る前に光神官になったばかりなのですが……今ひとつ神官の役割を理解できていなくて。


 どういう感じでお仕事をされているのか知りたくて、神殿に来てみたんです」


「光神官?」


 紫神官のおばさん——いや、女性は少し驚いたような顔をする。


「そういえば、少し前に光神官制度についての通達があったわね……。

 光神官にお会いするのは初めてだわ。 確認させてもらってもいいかしら?」


 私は光神官カードを取り出して見せる。


「ティアさん……ですか?」


 光神官カードを確認すると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。


「ヒールの魔法を使えるのよね?」


「はい」


「申し遅れました、私はミゲラと申します。


 実は、私も光魔法が使えて、この神殿に併設されている施療院の副院長を務めています」


 副院長!? 思ったより偉い人だった……。


 私が驚いていると、ミゲラさんはにこやかにこう言った。


「せっかく来てもらったので、今から光神官の仕事を体験してみない?」


「えっ、今からですか?」


「もちろん! どんな感じで仕事をしているのか教えてあげるわ。

 きっと、これは神の御導きよ。さあ、こっちへ来て!」


 返事をする間もなく、ミゲラさんにぐいぐいと引っ張られていく。


 そのまま更衣室へ連れていかれ、神官服に着替えた私は、診療室へと案内された——。



 部屋に入ると、簡素な長いテーブルと数脚の椅子が並んでいた。副院長で光魔法士のミゲラさんと私は、神殿の奥側の椅子に並んで座る。


「午前中は診療室で、比較的軽症の患者を診るわ。ここでは治療を希望する人が多いから、時間ごとに区切って順番にヒールをかけていくの」

「一度で完治することは少ないけれど、多くの人を診るのが優先ね。もちろん、治りきらなかった場合はまた来てもらうわ。でも、慣れるまでは中途半端に感じて、すっきりしないかもしれないわね。ただ、治療を待つ人たちが不公平感を抱かないようにするのが大事なの」

「それから、一日に使う魔力の量は、多くても6~7割に抑えて。余力がないと続かないし、いざというときに魔力が残っていなかったらどうにもならないから」


 矢継ぎ早に説明されたが、今の私は頭の回転がいいので、すんなりと内容が理解できた。


 ……そういえば、私って自分の魔力量を意識したことがないけど、どれくらいあるんだろう?


 そんなことを考えた瞬間、頭の中の"誰か"が「この大陸を滅亡させるような魔法でも使わない限り、魔力切れはありません」とのたまった。


 ……じゃあ、問題ないか。


 説明を聞き終えると、ちょうど時間になったらしく、青色神官が入り口の扉を開けて患者を案内し、列を作らせる。最初はミゲラさんが手本を見せてくれるというので、観察することにした。


 彼女の診療の流れは、


  1. 砂時計をひっくり返す

  2. 患者の症状を聞く

  3. 症状に合わせた場所にヒールの魔法をかける

  4. 時間が来たら終了し、次の患者を診る


 この繰り返しだった。


 おおよその診療時間は、一人あたり10分ほど。


 私も診療を始めたが、私とミゲラさんの診療タイミングを少しずらし、ミゲラさんがヒールをかけている間に、私が患者の症状を聞く流れにした。


 というのも、症状を正確に聞き出すのは意外と難しく、ミゲラさんにフォローしてもらう必要があったからだ。


 ヒールの加減はよく分からなかったが、以前キュレネが使っていた強さに合わせてみることにした。


 特に問題も起こらず、無事に午前中の診療を終えることができた。



 午前中の仕事が終わると、私たちは食堂へ案内された。食事をしながら、ミゲラさんに城内の神殿についての情報を聞くことにする。


「この町には神殿が四つあると聞いたのですが、光魔法を使える神官はどのくらいいるのでしょうか?」


「ああ、どこも似たような状況よ。ふらっと現れた光神官に、いきなり仕事をさせるくらいには足りていないわ」


 ……自虐ネタはちょっと反応に困るな。


「もしかして、城内の神殿でも光神官は不足しているんですか?」


「ええ、足りていないわね。もしかして、城内の神殿で光神官をしたいの?」


「はい。どんな感じなのか興味があって」


「まあ、若いうちは憧れるかもしれないわね。ティアちゃんは貴族の出身?」


「いえ」


「そう。平民にしては雰囲気が違う気がするけど……。では、有力者とのコネは?」


「いえ、特に」


「そういう状況なら、少なくとも実績を積んで、有力者の推薦をもらえるようにならないと、城内の神殿で働く許可は出ないわ。それに、あそこは貴族家出身の神官が多いから、色々と厳しいことも覚えておいてね」


 なるほど……すぐに城内の神殿に行くのは難しそうだ。


「ミゲラさんは、城内の神殿に入ったことがありますか?」


「ええ、何度か行ったことがあるわ」


「そこに、円状に柱が配置された建物はありますか? 正確には、十二角形の頂点に数メートルの柱が立っているような場所なのですが」


「いや、城内の神殿にそんな場所はないわよ」


「そうなんですか? 知り合いに『かっこいい神殿があるから一度見ておいた方がいいよ』って勧められたんですが……違うんですかね?」


 適当に話を作ってみる。


「そうね……ちょっと見てみましょうか」


 そう言って、ミゲラさんは神殿にある塔へと案内してくれた。


「ここからなら、城内の神殿の上のほうが少し見えるわよ」


 塔から見渡すと、左奥には大きな城があり、右側には長方形に柱が配置された神殿らしき建物が見えた。


 そのとき、頭の中の"誰か"が囁く。


「転移装置の位置座標は、神殿ではなく左奥の建物のほうだ」


 左奥……つまり、お城の建物の中? それとも、お城の裏側に何かあるのだろうか?


 私は勝手に神殿にあるものだと思い込んでいたけれど、よく考えれば転移装置だ。城の中にあっても不思議ではない。


 ……となると、城内に入る方法を探さなければならないのか。うーん、困ったな。


 午後は施療院で入院患者の診療をして終わった。特に問題もなく、無事に一日分の給金も受け取る。


 光神官の仕事を手伝わされちゃったけど、知りたかった情報は手に入ったし、お金ももらえたからいいよね。

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