第46話 ネコ探し12 Aランクを目指している理由
「そろそろティアにも、私たちが急いでAランクを目指している理由を知ってもらいたいの」
その言葉を皮切りに、キュレネはゆっくりと話を続けた――。
「私の家が、昔は貴族だったって話はしたわよね?」
そう前置きしたあと、キュレネは静かに語り始めた。
「私の家――マルヴァ家は、オリトルソル帝国の公爵家だったのよ」
「オリトルソル帝国?」
「知らないのね。この地は、数百年もの間、オリトルソル帝国が全土を治めていたの。でも、百年前に魔王が現れたのよ。それまで帝国は何度も魔王を討伐してきたけど、その時だけは神様から力を授かる ‘エレメンタルマスター’ が現れなかった。それで苦戦して……結局、50年もの戦いの末に、なんとか魔王を封印することはできたけど、国力は尽き果てて帝国は崩壊。その後は各地の有力者たちが台頭して争い、今は主に九つの国が統治する形に落ち着いたの」
私はじっと耳を傾けながら、静かに聞いていた。
「で、私の家も魔王討伐の影響で弱体化していたから、戦争に負けて一族はゴルフェ島に幽閉されることになった。……ただ、そのとき家臣だった者や、一部の領民もついてきてくれてね。今も私たちを支えてくれているし、当時からの縁で援助してくれる貴族もいるのよ。だからこそ、マルヴァ家の ‘貴族復興’ が、私たちの悲願になっっているの」
……なるほど
「そんな中、ゴルフェ島の領主であるジャガー男爵が ‘私を後継者にする’ という話を持ちかけてくれたの。それで手続きを進めていたんだけど……周辺の貴族たちが猛反対してね」
「どうして?」
「うちの家は傍系とはいえ、皇族の血が入っているからよ。もし帝国復活なんて話になれば、旗印にされる危険がある――そういう理由でね。結局、国王の仲介で ‘二十歳までに準貴族相当以上の身分になっていれば、後継者として認める’ っていう条件がついたの」
「準貴族相当って?」
「騎士や魔法士になれば、準貴族として認められるのよ。私の実力なら、どちらかになるのは簡単なはずだった……でも、貴族の管轄だから、徹底的に邪魔されて結局断念したわ」
キュレネは小さく苦笑する。
「まあ、私たちもちょっとやりすぎちゃってたのよね。ムートと私、剣と魔法の両方で ‘同年代の貴族の子たちを圧倒’ しちゃっていたから、反感を買うのも当然だったかもしれないわ。当時はそこまで考えが回らなくて……ただ、全力を尽くしていただけだったんだけど」
――フロールさんが言っていた「天才さん」って、このことか。
「それで、最後の望みをかけて、冒険者としてAランクを目指しているのよ。Aランク冒険者も ‘準貴族相当’ だからね。でも、たった五年でAランクになるって……正直、難易度が段違いなのよね」
「……貴族家の復興の期待を背負って、冒険者をしてるんだ。すごいプレッシャーでしょ?」
「もちろん、プレッシャーはある。でも、冒険者としての経験って、普通に貴族をしていたら得られない貴重なものだし……自分の力でのし上がっていく感じは、嫌いじゃないわ。手ごたえもあるしね」
キュレネはそう言いながら、少しだけ笑った。
「でも、その焦りが出ちゃったのよね。フロールさんとの交渉でも、もうちょっと言いようがあったはずなのに……どうしても ‘冒険者としての成果’ が欲しくて、強引にぶつかりすぎちゃった」
「でも結果として、私たちへの待遇はすごくいいし、悪い印象ではなかったんじゃない?」
「そうだといいんだけど……たぶん ‘魔人と戦えるほどの実力がある’ なら、 ‘何かのときに利用できる’ って考えたんじゃないかしら?それに、私は他の貴族と折り合いが悪いから、 ‘少し好意的にしておけば、他の貴族を出し抜ける’ って思っている可能性もあるわ」
「……なんか、聞きたくなかったな。そんな打算的な感じなの?」
「貴族って、そんなものよ」
私は少し肩を落とした。
「……なんか、眠くなってきちゃった」
話をして、少しすっきりしたのか、キュレネの表情が穏やかになっている。
「最後に、ひとつ聞いていい?」
「うん?」
「あの魔人…… ‘角を切り落とされた’ ことで、相当怒っていたわよね。だから、あなたを狙ってまた襲ってくるかもしれない。でも――次に戦ったら、勝てると思う?」
「……たぶん」
「……そう」
キュレネはその答えを聞いて、安心したようだった。
「思ってた以上に、あなたって ‘強い’ のね。じゃあ、大丈夫ね」
そう言うと、キュレネはベッドに潜り込み、すぐに寝息を立て始めた。
相当疲れてたのね……まあ、無理もないか。
今日は、倒れるまで戦ったんだもんね。
みんなが寝ているのを確認し、ネコちゃんに魔力を分けてから休むことにした。
「魔力譲渡」
これで少しは元気になるかしら?
そう思いながら、私も再び眠りについた。