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第45話 ネコ探し11 報告

 洞窟を出ると、外はまだ明るかったが、夕暮れが近づいていた。


「今日のうちに報告を済ませましょう」


 そう言って、一行は山を下り、そのままフロール・パピリオ邸へ向かった。


 屋敷に到着すると、執事が出迎え、前回と同じ応接室へと案内される。

 ほどなくして、以前お茶を運んできたメイドが現れ、静かにカップを並べた。


「本日はどのようなご用件でしょうか?」


「依頼の完了報告です」


「ご依頼のネコはこちらに」


 ムートが腕に抱えたネコを示す。


「申し訳ありません。私どもにはその姿が見えませんので、大奥様をお呼びしてまいります」



 フロール様がやってきて、ネコちゃんを見るなり目を見開いた。


「おお、間違いないわ。助けてくれて感謝するわ」


 そう言ったあと、ふと険しい表情になる。


「実は、一瞬、魔力が大きくなったのを感じたの。その後、急に魔力が消えたから心配していたのよ。もしかして、あなたたちに向けて魔法を使ったのかしら?」


「いえ、それは今回の一連のアンデッド騒動の犯人である魔人に向けた攻撃です。その攻撃のおかげで、私たちは命拾いしました」


 こういう説明はキュレネに任せよう。


「魔人ですって!?魔人がアンデッド騒動の犯人!?あなたたち、魔人と戦って無事だったの?」


「何とか撃退はしましたが、逃げられてしまいました」


「魔人を撃退した?たった3人で?信じがたい話ね。騎士団でも勝てるかわからない相手よ。何か証拠はあるかしら?」


「これで納得していただけますか?」


 そう言って、キュレネが袋から魔人の角を取り出した。


「なっ……!!!」


 フロール様は目を大きく見開き、しばらく言葉を失った。


 沈黙の後、震える声で言う。

「この禍々しさ……間違いなく魔人のものね。それに、この切断面の新しさ……確かに、あなたたちは本当に魔人と戦ったのね。魔人が現れたとなると、これは国の一大事だわ。この角は、こちらで預からせてもらうわね」


「お断りします」


 キュレネはきっぱりと言い、魔人の角を袋に戻した。


 えっ?と驚いてキュレネを見ると、いつもより凛とした表情で、妙な迫力があった。


「この角は冒険者ギルドに納めますので冒険者ギルドとの交渉をお願いします。 今回の件、国の一大事として対応することになると思われます。 このまま渡してしまうと、私たちのところには戻るかわかりません。手元にないと冒険者ギルドから評価を受けられない恐れがあります」


「……なるほど。確かに一理あるわね。だけど、国としても迅速な報告が必要なのよ」


「申し訳ありませんが、こちらも命がけの仕事です。正当な評価が必要です。冒険者としての正式な手続きは譲れません」


「このまま角を預かると、あなたたちが評価されないとでも?」


「……私たちの活躍を望まない貴族がおりますので」


 えっ、何それ?キュレネって貴族ともめてるの?


 フロール様は何か思い当たったような顔をして、キュレネをじっと見つめた。


「もしかして……あなた、マルヴァ家の?」


「はい」


「なるほど……噂の天才さんね。それだけの力を持っているとは驚いたわ」


 少し考え込んだ後、フロール様は決断したように言った。


「わかったわ。では、あなたたちは今夜、この屋敷に泊まりなさい」


 えっ!?急にどういう展開!?


「明日、冒険者ギルドのギルドマスターをここに呼ぶわ。そこで正式な手続きを済ませましょう。それが一番早いでしょう」


「……わかりました」


 なるほど、冒険者ギルドに戻ってから手続きするより、ずっと早そうね。


 でも……明日、ギルドマスターって本当に来られるの?私たち、馬車で三日かかったんだけど……。



 フロール様は執事に私たち用の客室と食事の準備をするよう指示し、さらにこう言った。


「この屋敷には、そのネコを見ることができる者はいないわ。だから、あなたたちで面倒を見てちょうだい」


 最後に、「ギルドマスターと魔法士団を呼び出すから」と言い残し、足早に部屋を出ていった。


 ほどなくして、私たちは客室へ案内された。


「隣の部屋に使用人が控えておりますので、何かありましたら呼び鈴でお呼びください。食事は後ほどお部屋にお持ちいたします」


 そう言って、使用人は丁寧に一礼し、部屋を後にした。


 客室はまさに貴族仕様で、広々とした空間にはテラスや浴槽まで備わっている。


「……なんか、待遇がすごすぎない?」

 思わずそう呟いてしまうほど、贅沢な部屋だった。


 早速、使用人を呼び、ネコちゃん用の毛布をもらって寝かせる。


「ずっと目を覚まさないけど、大丈夫かしら?」


「霊獣だから死にはしないと思うけど、回復には時間がかかるかもね。魔力譲渡の魔法があれば多少は助けになるかもしれないけど……霊獣って魔力の塊みたいな存在だから、人間が供給できる魔力の量でどれくらい回復するかはわからないわ」


 ――魔力譲渡か。私、使えるじゃない。

 みんなが寝たあとで、こっそり試してみようかしら。


 そんなことを考えていると、使用人が食事を運んできた。


 しかも、湯浴みの準備まで整えてあるという。


 この世界に来てから、初めて味わう贅沢な時間。

 豪華な旅行を満喫するような気分で、私は心地よい疲れとともにベッドに入った。



 ふと目が覚めると、月明かりのテラスにキュレネの姿があった。


 静かに外へ出ると、キュレネは遠くを見つめたまま立っている。


「眠れないの?今日はかなりのダメージを受けてたみたいだから、休んだほうがいいわよ」


「そうね……」


 そう答えながらも、キュレネの顔はどこか深刻そうだった。


 どう声をかけたらいいか迷っていると、不意に彼女が呟く。


「……驕りと焦りは禁物よね」


 それから、ゆっくりと話し始めた。


「本来なら、魔人に遭遇した時点で全力で逃げる道を探すべきだったのよ。でも、どこかで ‘これに勝てたら大量のギルドポイントが稼げるかも’ って思ってしまっていたの。まずいとは思いながらも、欲が出て、早々に逃げる選択肢を諦めてしまった。私とムートなら、何とかなるかもって……でも、まったく歯が立たなかった」


「魔人との戦い……ティアが来てくれなかったら、きっと私たちは死んでいたわ」


「そもそも、私が転送の罠にかからなかったら、魔人と遭遇することもなかったんだけどね」


「……そう言われると、確かにそうね」

 キュレネが、少しだけ表情を緩める。


「うっ……」


「まあ、それは冗談として」

 私は軽く肩をすくめた。


 すると、キュレネは私の方を見て、真剣な眼差しで言った。


「そろそろティアにも、私たちが急いでAランクを目指している理由を知ってもらいたいの」

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