第44話 ネコ探し10 合流と決着
------------------------------(ここからティア視点に戻ります)
前方、10度下方向、約50m先――そこから、魔法で戦っている気配がする。
だけど、目の前には洞窟の岩壁。
下を見てもただの岩の地面で、隠し通路なんてなさそうだけど……。
《大地崩壊》を使えば、壁に穴をあけられると、頭の中の人が教えてくれる。
……また、物騒な名前の魔法だ。
さっきの例もあるし、控えめにいこう。
魔力を絞り、魔法を発動する。
「《大地崩壊》!」
目の前の壁に、直径2mほどの穴が開く。
……うわぁ、やっぱりヤバい魔法だった。
普通に使ったら、この辺り一帯が消し飛んでたわ。
魔力を絞り、慎重に魔法をかけながら進む。
――あっという間に、50m先へ到達。
穴を抜けると、すぐにキュレネとムートの姿が目に入った。
「あー……やっと見つけた! 良かったー!」
喜んだのも束の間。
――あれ? 二人とも何とも言えない顔をしている。
ふと視線を向けると、紫色の大きな魔物が――赤黒い炎の魔法を抱えている!?
あっ、戦闘中か!?
魔物がこちらを向いた――その瞬間、
魔法が撃ち放たれる。
キュレネが何か叫んだようだけど――魔法の轟音でよく聞こえない。
まぁ……攻撃してきたんだから、敵ってことでいいよね?
「アンチマジックシールド!」
全身が魔法無効化のシールドに包まれる。
アンチマジックシールドは、触れた魔法だけ無効化する。
でも、敵の魔法は私の体よりもずっと大きい炎。
だから、私に触れなかった炎はそのまま通り過ぎていく。
外から見れば、私は炎に包まれているように見えているはず。
――その中を、私は駆け抜ける。
炎をすり抜け、敵の眼前まで――!!
……まだ気づいていない。
なら――首狙いで、斜め下から剣を切り上げる。
「なっ……!?」
炎の中から現れた私に、魔物は驚愕の表情を浮かべた。
魔物は慌てて角に魔法をかけ、剣を受けようとする。
アンチマジックシールド発動中だから、魔法による防御も通じない。
私は、そのまま剣を振り抜く。
シュパァンッ!
スパッ――!!
魔物の右角が、根元付近から斬り落とされる。
「なにぃぃぃぃ!?」
魔物の悲鳴が洞窟内に響き渡った。
「私の角がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 許さん……許さん、許さん!!」
魔物は叫びながら――無差別に魔法を乱射し始めた。
錯乱しているのか、狙いがめちゃくちゃだ。
「たぶん、角を切られたせいで魔法をうまく制御できてないんじゃないかしら。今がチャンスね!」
キュレネが魔法をかわしながら、敵に飛び込み、剣を突き立てようとする――が。
直前で魔物が飛び上がり、羽を広げた。
「逃がすか!」
ムートがすかさずドラゴンブレスを放つ。
しかし――わずかにかすっただけ。
私は……先ほどの火炎地獄で周囲をめちゃくちゃにしてしまったことが頭をよぎり、魔法の発動を躊躇してしまい、結局、見上げるしかできなかった。
「黒髪赤目の貴様……!」
魔物が憎悪に満ちた目で私を見下ろす。
「お前だけは、許さん……!!」
そう捨て台詞を吐くと、魔物は天井の穴から逃げていった。
……うげ、変な魔物に恨まれちゃった。
やっぱり、魔力を多めに使うと目が赤くなるのは変わってないんだな……。
どさっ――。
キュレネが崩れ落ちた。
すぐに駆け寄り、エクストラヒールを発動。
――キュレネの状態を確認する。
気を失っているが、命に別状はなし。
……良かった。
ムートも駆けつけてくるが、どうも動きがぎこちない。
「ムート、どこをやられたの?」
「……麻痺の魔法を食らった。体が思うように動かせない」
なら、すぐに治せそう。
一旦キュレネへのヒールを止め、ムートにエクストラヒールをかける。
パァァァ――
ムートの体が淡い光に包まれると、すぐに動きが戻ったようだ。
再びキュレネにエクストラヒールをかけながら、私はムートに尋ねた。
「さっきの魔物、一体なんだったの?」
「……魔人だな。たぶん、今回のアンデッド事件の首謀者だ」
「魔人?」
「別名『デーモンロード』。魔王に次ぐ実力を持つと言われている」
「えっ、それってヤバくない? 逃がしちゃまずかったんじゃ……?」
「いや、むしろ助かったと思ってる」
ムートが低く息を吐く。
「俺やキュレネの攻撃は、ほとんど通じてなかった。もう動くこともできなかったし、あのまま続けてたらやばかったのはこっちの方だ。正直、ティアが来なかったら詰んでた」
「そ、そんな……」
「……そうだ、ネコちゃんを忘れてた!」
ムートは立ち上がり、祭壇の方へ駆け出す。
地面に倒れていたネコちゃんを抱え、戻ってきた。
「こいつにも助けてもらったんだ」
そう言いながら、ヒールをかける。
だけど――ネコちゃんは動かないまま。
このまま、キュレネを抱えて村に戻った方がいいか……と思った、その時。
「……んっ」
キュレネが、ゆっくりと目を開けた。
「魔人は……?」
「逃げられちゃった」
「……私、気を失ってた? どれくらい?」
「五分くらいかな。動ける?」
「ええ……少しは回復したみたい。ありがとう。あとは自分で回復魔法をかけるから平気よ」
そう言いながら、キュレネはゆっくり立ち上がる。
彼女は周囲を見回し、ムートとネコちゃんを確認すると、
「戻りましょうか。ティアが出てきたところから帰れるの?」
「うん」
「あんなところに隠し通路があったなんて……。分かってたら、魔人と戦わずに済んだのに」
……いや、それ隠し通路じゃなくて、魔法で穴あけたんだけど。
でも、勘違いしてるから黙っておこう。
「さっき切り落とした魔人の角と、祭壇にあるダークオニクスを回収していきましょう。これで追加報酬がもらえるわ」
そういえば……
貴族様と交わした約束を思い出す。
事件の首謀者の存在を証明できれば、追加報酬が出る。
ムートは「魔人が犯人だ」と言っていたし……。
魔人の角だけで証拠として認められるかな?
少し不安に思いながら、
禍々しい魔力を帯びたラグビーボールほどの大きさの黒い宝玉に近寄り、前回と同様、アンチマジックで魔力を消し去り、慎重に回収する。
一方、魔人の角はダークオニクス以上に禍々しい雰囲気を放っていものの、……不思議と外に魔力は漏れていなかった。なので、そのままの状態で角を回収し、ムートたちの元へ向かう。
ムートは、未だに目覚めないネコちゃんを抱えたまま待っていた。
キュレネは周囲を確認し、小さく頷いた。
「――では、戻りましょう」