第43話 ネコ探し9 魔法の威力と大ピンチ
--------------------------(こちらはティア視点です)
通路を抜けると、奥行き・幅ともに100mはあろうかという広大な空間が広がっていた。
奥には数十体のアンデッドコボルドが徘徊しており、そのさらに奥には身長2mを超えるエルダーコボルドのアンデッドが10体ほど。これは、私がこの世界に来て初めて倒した魔物のアンデッド……。
そしてさらに奥、ひと際異質な存在がいた。
身長3mを超える、巨大なコボルドのアンデッド――アンデッドコボルドキング。
死してなお精悍な顔つきをしている。
私の侵入に気づくと、アンデッドたちは統率の取れた動きでこちらに迫ってきた。
――なにこれ? コボルドキングの能力? アンデッドになっても使えるの?
まあ、いいわ。
ちょうど魔法の威力を試したかったところだし。
これまで、魔力を極限まで抑えていたけれど、今回は周囲に仲間もいない。
気にせず使えるわね。
前回ギガスアラーネに対して中途半端に使った炎の魔法……。今度こそ本来の威力を確かめてみようかしら。
確か、炎の魔法は酸素の供給も魔法で行われるから、空気中の酸素は消費しない。
――つまり、酸欠の心配はないってこと。
「よし、やるよ」
とはいえ、さすがに全力を出すのは怖い。ほどほどに抑えて――
「火炎地獄」
白い炎が勢いよく空間全体に広がる。
同時に、高熱の爆風が私の横を通り抜け、外へと吹き抜けていった。
――マジか……。やっちゃった……。
威力が高すぎた。
私は魔法結界に守られているから平気だけど、もし仲間がいたら間違いなく全滅していた。
酸欠だけ心配してた私がバカでした……。
炎が消えた後の空間を見渡す。
天井や壁面の一部は溶けて流れ出し、床は黄色、オレンジ、赤色に輝くマグマのような状態になっていた。
まさに火炎地獄。
もはやアンデッドの姿はどこにもない。いや、痕跡すら見つかるかどうか……。
――何、この魔法……。
一都市くらいなら簡単に壊滅させられるんじゃない?
神様の天罰として使うならともかく、普段使いには向かないわね……。
このまま放置するのも気が引けるし、冷やしておこう。
「氷結地獄」
今度は慎重に魔力をコントロールし、氷魔法を展開する。
瞬く間にマグマは固まり、周囲の温度も常温まで下がった。
――うまくいった。
まあ、岩の色や質感がすっかり変わっちゃったけど……もう、気にしないことにしよう。
改めて周囲を見渡す。
入ってきた通路以外、どこにも抜け道がない……。
もし別の通路があって、その先にキュレネたちがいたら、さっきの爆風でどうなっていたかわからない。その点では安心だけど――手がかりがないのも困るわね……。
仕方ない、転移の罠があった祭壇に戻ってみるか。
そう思った瞬間、嫌な予感が脳裏をよぎった。
――祭壇、大丈夫かしら?
急いで祭壇まで戻ると……
崩れていた。
はめ込まれていた魔石にはひびが入り、一部はすでに崩れ落ちている。
――爆風で壊しちゃったんだ……。
キュレネたちの行き先を探る、手がかりのひとつを……。
呆然と立ち尽くしていると、ふと、足元に振動を感じた。
ゴゴゴゴゴ……
――地震? いや、違う。
……これは、戦闘の振動?
誰かが魔法を使っている……?
どこから?
集中すると、頭の中の人が教えてくれる。
前方、10度下方向、約50m先で魔法の行使あり。
――って、待って、それって……壁と地面なんですけど!?
どうすりゃいいのよ……。
--------------------------(ここからキュレネ視点です)
強力な魔法一つだけなら、なんとか防げるかもしれない。
けれど――並列で発動されたら防ぎきれない。
防ぎきれない分はムートに担当してもらうしかない。二人で連携すれば、防御面はなんとかなるか……?。
問題は攻撃。
私の魔法や、ムートのブレスを直撃させても、致命傷には至っていない。
――炎耐性が高いのは確定ね。
さっき、ネコちゃんが放った魔法は風魔法。
ダメージは与えたみたいだけど、倒しきれなかった。
つまり、魔法耐性全般がかなり高いと考えるべき。
それなら、物理攻撃……?
アレはアームシールドやパラライズガードを腕にかけて攻撃を防いでいた。逆に言えば、ガードできなければダメージを与えられるはず。
――隙を突いて、腕以外に攻撃を仕掛ける。
理想を言えば――剣を突き刺し、剣先から魔法を体内で発動させる。
いくら魔人でも、それならダメージを受けるはず。
防御も攻撃も、ムートとの連携が鍵になる。
私はムートに作戦を伝え、無理を承知で身体強化の度合いを上げた。
――よし、決戦だ。
気合を入れ直し、魔人に備える。
一方、魔人もそれなりにダメージを負っているようだった。
ゆっくりと近づいてきたものの、少し手前で足を止める。
「ほう……」
魔人は、私を見据え、不敵に笑う。
「その気合の入った顔――まだ勝てるつもりでいるようだな」
そして、両手の掌を向かい合わせる。
その瞬間、赤黒い炎が渦巻きながら輝き始めた。
――まずい。
あれを食らったら、間違いなく即死する。
これまでのフレイムスピアとは桁違いの魔力を感じる……!
「グランドシールド!」
咄嗟に、防御魔法を発動させる。
できるだけ障害物を作らなきゃ……!
「そうだ、その顔だ……」
魔人が嗤う。
「私と戦おうなどと考えたことが、そもそもの間違いだったのだ――」
魔人が、魔法を放とうとした瞬間――
左後方の壁が、崩れ壁に大きな穴が開いた。
壁に大きな穴が開き、瓦礫が崩れ落ちる。
「……なんだ?」
目を向けると、そこには一人の人影。
「あー……やっと見つけた! よかったー!」
生死にかかわる緊迫した状況 だというのに――あまりにも場違いな、能天気な声が響き渡る。
「……ふん、仲間か?」
魔人は、再びニヤリと笑った。
「では――まずは、あいつから殺すとしようか」
「ティア、逃げて!!」
叫んだ――その瞬間。
魔人の魔法が発動した。
「ヘルフレイム」
赤黒い炎が、一瞬にしてティアを包み込む。
「ティアーーーーーーーーッ!!」
目の前の光景に、私は呆然とするしかなかった。
ティアの姿が、燃え盛る炎の中に消える――。
「……ははは……!」
魔人の不気味な笑い声が響く。
「悲しむことはない……次は、お前たちだからな」




