第41話 ネコ探し7 アンデッド討伐
ムートの特殊能力――目的地に迷わずたどり着ける。
実は私も同じことができるようになっているのだが、それは内緒にしておく。ここはムートに任せよう。
木々の間を進み、発煙石の場所へと向かう。
やがて、落ちている発煙石を発見した。
「やっぱりティアの発煙石よ。ほら」
キュレネが拾い上げる。確かに私のものだ。
発煙石には、誰のものかわかるように印をつけてある。
「……なんで私の発煙石がここにあるの?」
周囲を見渡すと、発煙石のすぐそばに争った跡が残っていた。
さらにその近くを探ると、祠から持ち去られたお弁当の袋が散乱しているのを発見する。
どうやら、お弁の当の袋に、発煙石が紛れ込んでいたらしい。
「ってことは、お弁当を盗んだ子供のコボルドが、この辺りで何かと争っていた……?」
「だとすると、この近くにアンデッドがいる可能性が高いわね」
推理は的中した。
木々の間から覗き込むと、今までで最大のアンデッドコボルドの群れを発見したのだ。
しかも、大きな洞窟を拠点にしているようだ。
「……少なくとも100匹はいるわね」
「すでにすべてアンデッド化してる」
「ティア、もしかして……これを狙ってお弁当を盗ませたんじゃないでしょうね?」
「そんなわけないよ! 偶然よ!」
まさかそんな疑いをかけられるとは思わなかった。
でも、それだけ私のいつもの行動に何かを感じているということなのかもしれない。
何か勘づかれたのだとしたら、気をつけなきゃ……。
見つからないように注意しながら、コボルドの巣がよく見える場所へと移動する。
「……これはすごいわね」
キュレネが低く呟く。
確かに、ここまで大規模なコボルドの群れは初めて見る。
「これだけの数を討伐し、しかもアンデッド化させた何者かがいるってことよね」
「多分、この規模の群れを率いていたのはコボルドキングだろうな」
ムートが鋭い視線を洞窟へ向ける。
「Bランクのコボルドキングを含む100匹超の群れを討伐……普通なら数十人規模の討伐隊を派遣しなきゃ勝てない相手だ。でも、それをした形跡はどこにもない。ってことは、少数でこれだけのコボルドを倒せる何者かがいるってことだな」
なるほど……そんな厄介な相手が潜んでいる可能性があるのか。
でも、今の私なら何が出てきても平気な気がする。
「どうやって攻略しようかしら」
キュレネが顎に指を当てて考える。
「とりあえず、遠距離から攻撃して数を減らしましょうか」
洞窟から100メートルほど離れた場所に、うまく身を隠せる茂みを発見する。
木々に紛れながら慎重に移動し、私は素早く木の上へ登る。そこから、洞窟の入り口を見下ろした。
「マジックバレッツ」
キュレネが、地魔法で生成した小石を風魔法で弾丸のように打ち出す。
ズダダダッ!
目にも止まらぬ速さで飛び出した小石が、洞窟周辺にいたアンデッドコボルドたちに命中した。
「……さすがアンデッドだけあって、あいつら馬鹿だな」
ムートが呆れたように笑う。
「表に出てくるとすぐやられるのに、次から次へと躊躇なく出てくる」
やがて、洞窟の入り口付近にいたコボルドたちは、すべて倒された。
「よし、洞窟内に入りましょう」
私たちは慎重に洞窟へと足を踏み入れた。
10メートルほど進むと、急に視界が開けた。
そこは広い空間になっており、入ってきた通路とは別にもう一つ道が続いている。
そして、奥の壁際には祭壇のようなものがあった。
中央には魔石のようなものが輝いている。
「……なんだこれ?」
興味を引かれ、思わず魔石に手を伸ばす。
「ティア! 触っちゃダメ!」
「えっ?」
時すでに遅し。
――パァァァッ!
まばゆい光が弾け、魔法陣が浮かび上がる。
「まずいわ、それ転移魔法陣よ! 転移するなら私たちも――!」
キュレネとムートが咄嗟に飛び込んできた。
次の瞬間、二人の姿が光に包まれ、あっという間に消えてしまう。
そして、光はすべて消え去った。
……あれ?
私はその場に立ち尽くしていた。
私だけ転移しなかった。
――どういうこと?
数秒間、頭が追いつかず呆然とする。
でも、多分理由は――。
……私、無意識に魔法をキャンセルしちゃったんだ。
魔法が効かないって、こういうデメリットもあるのか……。
とりあえず、洞窟の外に出よう。
10メートルほど戻る。
けれど――
……二人とも、いない。
冷静になって考える。
キュレネには魔方位針の片割れを渡してある。
それを頼りにすれば、二人の居場所がわかるはず。
針の示す方向は――祭壇の奥の壁の下。
でも、そこは行き止まりだ。
……そういえば、もう一度この魔石に触れたら、二人と同じ場所に行けるんじゃ?
そう思い、魔石を見つめる。
……けれど、先ほどのような輝きが消えていた。
嫌な予感がする。
恐る恐る魔石に触れてみる。
――何も起こらない。
……やっぱり、だめか......。
多分、輝きがないと転移魔法は発動しない。
でも、魔方位針の示す方向を考えれば、この洞窟を進んでいけば二人の元に辿り着ける可能性がある。
祭壇のある空間を抜け、別の通路へと足を踏み入れた。