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第4話 冒険者になります1

「ゴブリンだ」

 先頭を歩いていたムートが、手を挙げて合図した。


 ゴブリン——緑色の肌に高い鼻、大きく尖った耳を持つ小柄な人型の魔物だ。身長は130cmほどで、こん棒や石斧のような武器を構えている。


 全部で5匹いる。


「向こうは気づいてないみたいだから、魔法でやっつけちゃいましょう」


 そう言うと、キュレネが風魔法を放った。


 同時にムートが飛び出し、回り込んで退路をふさぐ。


 キュレネの魔法は3匹を仕留めたが、奥にいた2匹は手前のゴブリンが盾になったため、ほぼ無傷だった。すかさずムートが飛び込み、1匹を仕留める。


 残る1匹——挟み撃ちだ。


「ティア、ちょっと戦ってみて。さっき私は見れなかったのよ」


 キュレネの無茶ぶりだ。


 えー、結構怖いんですけど。 でも、ここで役立たずだと思われるのも困るしなぁ……。

 まあ、私のほうがリーチも長いし、隙だらけに見えるから大丈夫……かな?


 とりあえず、中段に構えながらじりじりと近づく。

 間合いに入った瞬間、振りかぶりながら一気に踏み込み、頭めがけて振り下ろした。

 ゴブリンはとっさにこん棒を前に出したが——そのこん棒ごと、真っ二つになっていた。


 魔石を拾いながら、「木の棒って案外、武器として使えるのね」なんて思っていると——


「あなた、その剣技もすごいけど、魔法もすごいのね」

 そう言われてしまった。


「……魔法?」


 いや、魔法なんて使ってないけど。なんで私、褒められた?

 剣のほうは、昔おじいちゃんに習ったのよね。最後の務めとして、どうしても子孫に残したいって言われて。


「身体強化とエンチャントを使ってたでしょ? あなたのその華奢な体から繰り出せるスピードとパワーじゃなかったわ。それに、木の棒でゴブリンが持っていたこん棒を両断するなんて、普通じゃないわよ」


「私、魔法なんて使えないよ」


「魔法なしであの攻撃ができるわけないわ。でも、無意識に使えるのは……バーサーカーの特殊能力なのかしらね」


 なるほど、魔法で強化されてたのか。

 どうりで異常な身体能力だと思ったよ。さらに言うなら、メンタルも強化されている感じがする。


 しかし、バーサーカーって言われるのはちょっと心外だ。

 おとなしいと思うのだが。


「魔法って、普通どうやって使うの?」


「使う魔法の魔法陣をイメージするのよ。でも、魔法には属性があって、その適性がないと使えないの。冒険者登録のときに魔法適性を調べるから、そのとき適性のある魔法を教えるわ。


 ちなみに、さっき使った身体強化は光魔法、エンチャントは土魔法が最も効果が高いと言われているの。でも、身体強化とエンチャントに関してはたくさん研究されていて、他の属性の魔法でも同じような効果を出せるものがあるってわかってるから、ティアがどの属性に適性があるかは何とも言えないわね」


 あとのお楽しみってとこね。


 そんな会話をしながらひとまず休憩を取り、さらに数時間歩き続ける。すると、ようやくファンタジーでよく見かけるような城壁に囲まれた、中世ヨーロッパ風の町が見えてきた。


 しばらく進み、高さ10メートルを超える外壁で囲まれた町——『ウィスバーロ』に到着。私は、その迫力に圧倒されながら町の門をくぐる。


 町の中へ入ると、まっすぐ伸びる石畳のメインストリートが広がっていた。道沿いには4〜5階建ての建物が立ち並び、奥には広場のような場所が見える。そこは活気に満ち、かなりの賑わいを見せていた。


 町へ入ると、キュレネが時々訪れるという服飾品店に立ち寄った。そこは仕立てを請け負うだけでなく、中古品の買取・販売も行っており、町の中でも比較的上級の店だという。


 そこで、私は服や装備を一式そろえることにした。着ていたパジャマは品質が非常に良いと判断され、高値で買い取ってもらえた。


 そのお金で装備を一通りそろえたところ、偶然にも私にぴったりのサイズで、貴族が注文したもののキャンセルされたという新古品が見つかった。そのおかげで、キュレネたちと同レベルの豪華な服装になった。


 ただ、少しはお金を手元に残しておきたかったため、まともな武器は諦めることにした。その代わりに、子供の練習用として使われる、有名な魔剣の縮小レプリカである模擬剣を()()()()()として購入した。


 一応、木の棒でも戦えたので、この模擬剣でも何とかなるだろう。


 手元に残ったお金は15万サクル。サクルというのがここの通貨単位。まだ物の価値はわからないが、これだけあれば当面は何とかなるらしい。


 服の調達を終え、店を出ると、いつの間にか夕方が近づいていた。




「今日中に冒険者登録まで済ませましょう」


 キュレネがそう言うやいなや、足早に町の広場へと向かう。広場周辺には冒険者ギルドのほか、町の役場や商業ギルドなどが立ち並んでいた。これらが、この町で勢力を持つ主要な団体らしい。


 冒険者ギルドへ入ると、意外にも内部は整然としており、ガラの悪い者はほとんどいなかった。男女の比率も均等で、少し安心する。だが、その安堵も束の間、突然周囲の視線が一斉にこちらへと集まった。


 理由はすぐに分かった。――3人とも、まわりの冒険者たちと比べて、服装があまりにも豪華だったのだ。


 めちゃくちゃ悪目立ちしてるんですけど……。


「周りの視線が怖いよ……」

 小声でそう呟きながら、顔を隠すように俯いて歩いていると――


「冒険者なんて、なめられたら負けなの。このくらいでちょうどいいのよ。ティアも堂々とした立ち振る舞いをしてね」


 キュレネって強気な性格なんだ。あまり目立たずに生きてきた一般庶民の私としては、正直かなりきつい。


 とはいえ、周囲の視線を浴び続けながらも、誰にも話しかけられることなく受付へ到着した。どうやら貴族と勘違いされているのか、皆どこか引き気味だ。


 受付はカウンター形式になっており、四つの窓口がある。そのうちの一つに行くと、きりっとした顔立ちの女性が担当してくれた。


「この三人の冒険者登録をお願いします」


 キュレネがそう話しかけると、受付の女性は少し緊張した面持ちで尋ねた。


「失礼ですが……貴族の方でしょうか?」


「平民です」


 その言葉を聞いた聞いた受付の女性は、ほっとしたように表情を和らげた。そして、主に私を見ながらこう続ける。


「登録は十五歳以上になりますが……」


 もしかして、この世界じゃ会う人みんなに子ども扱いされるのかな?

 私はため息をつきながら、肩を落とした。


 三人とも十五歳だと伝えると、「十五歳未満であることが発覚した場合、ペナルティが科される」という説明を受けた。その後、登録の準備があるとのことでしばらく待たされ、やがて別室へと案内された。



 部屋は十畳ほどの広さで、飾り気がなく、すっきりとしていた。正面にはカウンターがあり、その前には椅子が並べられている。


「どうぞ、お座りください」


 促されて席に座ると、カウンターの奥に何やら機械のようなものが設置されているのが目に入った。

 先ほどの女性がカウンター越しに口を開く。


「自己紹介が遅くなりました。受付担当のソフィアです。よろしくお願いします。まず、登録作業の前に冒険者制度について説明させていただきます」


 冒険者ギルドに登録すると、ギルドを通じてさまざまな仕事の依頼を受けられるようになります。依頼された仕事を無事に完了すると、報酬が支払われるほか、ギルドポイントも加算されます。


 依頼の種類は、大きく分けて三つあります。


  1. 常時依頼

 魔物から回収した魔石や素材、薬草の収集など、決まった品物を持ち込めば、いつでも既定の金額で買い取ります。


  2. 個別依頼

 個別依頼掲示板に張り出された依頼です。受注したい場合は、依頼票を受付に持って行き、受注処理を行ってください。


  3. 指名依頼

 依頼者またはギルドから直接指名される依頼です。報酬などの条件は、その都度相談となります。


 次に、冒険者のランクについて説明します。


 ランクは AからDまでの四段階 に分かれており、最初は Dランクからスタート します。

 依頼をこなし、ギルドポイントを規定以上ためることでランクアップが可能です。


 Cランクへの昇格条件

 一人あたり 1000ギルドポイント を獲得すると、DランクからCランクへ昇格できます。

 例えば、三人パーティの場合は 合計3000ギルドポイント をためることで、全員がCランクへ昇格できます。


 次のランクの昇格条件については、ランクアップ時に詳しく説明します。


「登録料および年会費として、一人 1万サクル をいただきますが、よろしいでしょうか?


 冒険者登録をすると、各国のどの町でも冒険者ギルドの 同様のサービス を受けることができます。また、ギルド直営の宿も 特別価格 で利用可能です。


 なお、年会費を納めなかった場合は、冒険者資格を失います のでご注意ください。


 最後に、虚偽の報告や不正な手段での依頼達成が発覚した場合 は、降格処分のほか、場合によっては 役人への引き渡しやギルド追放 となることもあります。十分ご注意ください」


 ソフィアさんの説明を聞いたキュレネは、ムートと私の顔を確認し、うなずいた。


「登録をお願いします」

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