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第34話 未知のダンジョンを発見せよ11 依頼は完了

 私の出番、なかったな。


 そう思って油断していると、背後から何かが迫る気配がした。


 ――もう一匹、出てきた?


 振り返ると、他のギガスアラーネより一回り大きな個体がいた。


 ……多分、ムートが言ってたやつだ。


 そう思った瞬間、ギガスアラーネの右前脚が振り下ろされる。


 反射的に剣を振り上げて受ける――つもりだった。


 だが、すっと刀が素通りしたような感覚のまま、あっさりとギガスアラーネの脚が切断される。


 ……この剣、すごい。


 隙だらけに見えたので素早く反対側へ移動し、左前脚も同じように切り落とした。


 ――あれ?


 違和感を覚える。もしかして……今、女神モード並みの力が出てる???


 まずい。 目立ちたくないのに、こんな力を出してしまった。ちゃんと制御できるようにしないと。


 ちらりと周囲を見る。幸い、銅の花のメンバーは私を見ていなかった。


 よし、セーフ。


 ――キュレネたちは、私を見てたかも。


 何か言い訳を考えなきゃ。ギガスアラーネの脚を切れたのは「この剣がすごいから」ということでいいだろう。本当に剣の力かどうかは……わからないけど。


 そんなことを思っていた矢先、ギガスアラーネが糸を吹きかけてきた。


 確か、この糸は炎に弱いんだよね。


「ファイヤー」


 そう言いながら、小さく火炎地獄ムスペルスヘイムを指先から放つ。


 ――やばっ!


 閃光とともに、白っぽい炎が広がる。慌てて魔法を止めた。


 嘘……これでも強すぎるの?


 炎は糸だけでなく、一瞬ギガスアラーネ本体まで包み込んだ。すでに回避行動に移っていたものの、ジャンプした先でふらつき、そのまま逃げ出していく。


 ……もう、放っておいても死にそう。


 ふと、逃げる方向を見ると、ちょうど銅の花のバーンさんがいた。


「すいません、とどめお願いします」


 ――結局、キュレネの希望通り、お互いギガスアラーネを一匹ずつ倒し、三匹目は共同撃破という形になった。


 よし、なんとかうまくいった。


 そう思った矢先、ムートが近づいてくる。


「ギガスアラーネの脚を切るとき、瞬間移動したよな?」


 ――やっぱり見られてたか......。


 二本目の脚を切ったとき、私には周りがスローに見えていた。しかし、他の人からすれば、私が目にも止まらぬ速さで動いたように見えたんだろう。


「……あれは、私の家に伝わる技で『神足』っていうの」


 嘘ではない。 実際に神足の足運びは使った。ただ、あんな速度が出るのはまた別の問題だけど。制御の訓練、しなきゃな。


「ほう、そんな技もあるんだな」


 ――誤魔化せた。


 安堵したのも束の間、今度はキュレネが近づいてきた。


「ねえ、いつの間にあんな強力な火魔法を覚えたの?」


 ――うっ。


「女子三日会わざれば刮目して見よ、というやつよ」


 ……言っちゃったけど、あってるかな?


 キュレネは「何それ?」という顔をして聞き返してくる。


「私の故郷で、『三日も経てば成長している』って意味の言葉よ」


 キュレネは疑うような視線を向けたあと、ふっと納得したように頷いた。


「へー。まあ、いいわ。ティアだしね」


 ――はははは……。


 苦笑いしつつ、何とか誤魔化せたことを願うのだった。



 ギガスアラーネの討伐も終わった。


 いよいよダンジョンの入り口を確かめに行く。


 警戒しつつ、オオグモが現れたあたりへと移動する。


 私には、ダンジョンの入り口に光魔法で岩の映像が投影されているのがわかるのだけど、どうやら他の人には本物の岩と見分けがついていないらしい。


 大盾のアーサーさんが、盾を構えながら槍で慎重に入り口を探る。


 ――すると、何の抵抗もなく槍が岩の奥へと吸い込まれる。


「ここだ」


 アーサーさんが慎重に一人で奥へ入り、すぐに合図を送る。私たちもそれに続いた。


 中は、幅も高さも4メートルほどの広い通路が奥へと続いていた。


 意外にも、内部はそこそこ明るく、明かりなしでもダンジョンの岩肌がはっきりと見える。


 念のため地下探索魔法を使い、周囲の様子を詳しく確認する。


 ――ここがダンジョンの入り口で間違いなさそうだ。


 少し奥まで進んでみたが、今のところ通路以外には何もない。


 ギルドマスターからは、「ダンジョンへの奥には入るな」と釘を刺されていた。


 どんな魔物がいるかもわからないし、私も無理はしないほうがいいと思う。


「よし、今回はここまでで任務達成だ」


「入り口がわかるように目印を付けたら、ベースキャンプに戻るぞ」


 ベースキャンプに戻ると、簡単な打ち上げが始まった。


 残っている食料の中から、それぞれ好きなものを取り出して食べる。


 ……とはいえ、大したものはないのだけど。


 それでも、いつもより少しだけ贅沢な食事を楽しんだ。


 今日はみんな疲れている。


 早めに休むことにするが、もちろん見張り当番は忘れない。



 翌朝。


 出発前に、神樹から魔方位針をちゃんと回収する。


 ベースキャンプは、後で回収を依頼するということでそのままにし、私たちは冒険者ギルドへ戻るのだった。



 ダンジョン発見をギルドマスターに報告する。


「よくやった!」


 ギルドマスターは上機嫌だ。


 近くにダンジョンが見つかったことで、この町の冒険者ギルドが大きく発展するのは間違いないらしい。


「ダンジョン発見の件は、まだ口外しないでくれ」

「冒険者が殺到するとまずいからな」

「まずは国に報告し、ダンジョンの扱いを決めなきゃならん」

「こちらで必要な手続きや確認作業を進めるので、それまでは待機していてくれ」


 ダンジョン発見の報酬については、ギルドでの確認後ということになった。


 そのため、数日間の休みを取ることにした。



 ――そして数日後。


 ダンジョン発見の報告が国に伝わると、すぐに騎士団員数名が駆けつけてきた。


 彼らは銅の花の案内でギルドマスターとともにダンジョンの確認へ向かったのだが……

 戻ってきたあと、なにやらもめている様子だった。


 しばらくして、ギルドから私たちに連絡が入る。


 銅の花と一緒に応接室へ案内されると、ギルドマスターの表情が微妙に曇っているように見えた。


 まさか……あれがダンジョンの入り口じゃなかった、なんてことはないよね?

 そんな不安を抱きながら話を聞くと――


「ダンジョン発見については、ギルドおよび国の両方で正式に確認された」


「報酬は約束通り、一人200万サクルを支払う」


 200万サクル。

 最近、ようやく価値がわかってきたけど、これがあれば一年は何もしなくても生活できるくらいの大金だ。


 パーティ全体で600万サクル。

 かなりの収入だ――でも、この前、倍以上稼いでるんだよね……。


 さらに、ダンジョン発見の報酬として6000ギルドポイントを獲得。


 ギガスアラーネやティグウルス、それに雑魚魔物を倒した分の2600ギルドポイントも加わり、あと2000ポイントでBランクに昇格する。


 Bランクがいよいよ見えてきた。


 ダンジョンを探索すれば、またギガスアラーネに遭遇するだろうから……あと2匹狩ればBランクか。


 ――そう考えていた矢先だった。


「すまん、しばらくお前たちはダンジョンには潜れない」


 ……え?


 一斉にギルドマスターへ視線が向く。


「このトゥリスカーロ王国でダンジョンが発見されたのは、これが初めてのことだ。そのため、国がダンジョンの扱いを決める必要がある。


 ギルド代表として俺と王都の冒険者ギルドマスターが呼ばれ、王国騎士団の会議に出席したんだが……。


 そこで、まず王国騎士団と魔法士団が調査すると決まった。


 表向きの理由は、未知のダンジョンでどんな危険があるかわからないから、王国の最強戦力である自分たちが調査するのが適切だ、というものだったが……。実際のところは、ダンジョンにあるアーティファクトを独占したいだけだろうな。


 なんとか交渉したが、冒険者が関われる範囲としてAランクの冒険者を調査に加えること。

 その調査期間は6カ月。

 

 ……と、一応の条件はつけさせた。


 ただ、調査期間は変更される可能性がある契約になってしまった。

 だから、早くても6カ月後に一般開放されると考えておいたほうがいい。


 ということで、発見者であるお前たちには申し訳ないが――。

 しばらくの間、ダンジョン探索はできない。


 そして、一般開放の時期が決まるまで、ダンジョン発見のことは口外しないでくれ」


「……仕方ねーな」

 バーンが肩をすくめる。


「まあ、先のこととはいえ、一般開放されるだけでもマシって考えるか」


「次はダンジョン探索ができると思っていたのに、残念ね」


 キュレネがため息をつく。

「仕方ないわね……。別の依頼を探しましょう」

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