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第33話 未知のダンジョンを発見せよ10 入り口はそこにある

 ムートの案内でギガスアラーネと遭遇した地点へ向かう。いつものように、彼女はまったく迷うことなく目的地まで進んでいった。


 ――辺りの木々には引っかき傷や焦げ跡が残っている。ここでムートが戦ったのね。


 さらに、巨体のギガスアラーネが森を移動した際につけたであろう痕跡も残っていた。なぎ倒された低木や草、踏み荒らされた地面――いわゆるフィールドサインというやつだ。これを辿れば、再びギガスアラーネに遭遇できる可能性が高い。


 ということで、全員が互いの姿を確認できる程度に広がりながらフィールドサインを探しつつ移動を続ける。途中、糸でぐるぐる巻きにされた小型の魔物の死骸も見つかり、ギガスアラーネが確かにこの辺りにいたことを確信した。


 そうして進んでいくうちに、昼を少し過ぎた頃、視界の開けた崖の上に出た。眼下には10mほど下に広がる谷。その向こう側には、険しい岩壁が続いている。


 そして――その岩壁の一部に、今回の目的地であるダンジョンの入り口があるのだ。


 ぱっと見ただけではただの岩壁にしか見えない。魔法で巧妙に偽装されている。他の人たちは気づいていないようだが、管理者情報の位置とも完全に一致している。間違いない。


 誰か気づいてくれないかな……?


 すると、銅の花のリーダー・バーンさんが谷の向こう側を見ながらつぶやく。


「途中までは順調だったんだが、この辺りで痕跡を見失ったな。見たところ、この先には何もなさそうだし……ハズレだな」


 ――えー!? 当たりも当たり大当たりなのに!!どうしよう……。

 一度ここを離れると、またこの場所へ誘導するのは大変そうだ。なんとかして、みんなをこの周辺に留めさせないと……。


 そんなことを考えていると、キュレネがこちらを覗き込んできた。


「ティア、どうしたの? 調子悪い?」


 ナイスタイミング!


 小声で、


「……おなかすいた」

 と伝える。


 キュレネは少し考えてから、皆に提案した。


「ここでお昼ご飯にするのはどうですか?」


「おお、確かにそんな時間だし、食事するにはちょうどいい場所だな。よし、休憩にするぞ!」


 よしよし、少し時間が稼げた。


 この間に、あの偽装された入り口からギガスアラーネが出てきてくれないかなぁ……と期待しながら食事をする。


 ――しかし。


 何も起こらない。


 食事が終わり、片付けが始まっても、気配はなし。


 仕方ない……ここは私が誘導するしかないか。


「……あのー、私の故郷に伝わる“行くべき方向を神様にお願いして教えてもらうおまじない”があるのですが、やってもいいですか?」


「お、おう?」


 なんだか困ったちゃんを見るような目で見られている気がするが、気にしてはいられない。


 そこらへんに落ちていた50cmほどの重めの木の枝を拾い、地面に直径1mほどの円を描く。そして、円の端に膝をつき、


「天の神よ、我らの行く先を示したまえ――」


 と、それらしい呪文っぽいことを口にしながら、木の棒を真上に投げる。


 もちろん、落ちたときにダンジョンの入り口の方向を指すよう計算済みだ。


 無駄にブレインエクスパンションシステムの能力を使っている気がしないでもないが、使えるものは使っておく。


 木の枝の端が円の中心に落ち、一度バウンドして――見事にダンジョンの入り口のある谷の向こう側の岩壁を指した。


「……あっちです!」


「いや、あっちには何にもないぞ?」


 やっぱり……こんなんじゃ無理か。我ながら苦しい手だとは思ってたよ……。


 なら、もう一押しするしかない。


 私はさっきの枝を拾い、指した方向に向かって投げた。


「えいっ」


 枝はダンジョンの入り口の前でバウンドし、そのまま偽装された入り口の中に消える――予定だった。


 しかし――


 バウンドした瞬間。


 偽装された穴の奥から、何かが飛び出してきた。


 ――ギガスアラーネ。


 どうやら、落ちてきた枝を餌だと勘違いしたらしい。


「……まじかよ!!」


 全員が呆然とする。


 しかし、すぐに気を取り直し、銅の花のリーダー・バーンさんが声を張る。


「ギガスアラーネを倒して、あそこを探索するぞ!」


 全員で崖を降り、ギガスアラーネに対峙する。


 すると――


 もう一匹、姿を現した。


「俺たちがこっちを対応するから、クラーレットは向こうを頼む!」


「はい!」


 私たちは、新しく出てきた方を相手にすることになった。


 しかし、銅の花と距離が近すぎると戦いにくい。もう一匹を慎重に誘導しながら、少し離れた位置へ移動する。


 すると、キュレネがこちらを振り向き、指示を出した。


「ティア、ここは私とムートで対応するから、全体のフォローをお願い。ムートの話だと、もう一匹いるはずだし、もっといる可能性もあるから」


「分かった」


 そう返事をして、戦況がよく見える位置まで下がる。


 まぁ、いざとなればここからでも戦いに割り込めるから問題ないか。


 銅の花の様子を見ると、まず大盾の大男・アーサーさんと魔剣士のシュンカさんが、ギガスアラーネの右前方向から仕掛ける。


 少し遅れて、リーダーのバーンさんが左前側から突撃。


 ギガスアラーネは素早く反応し、左前脚を振り下ろした!


 アーサーさんが大盾を構え、受け止める――!


 ドンッ!


 重い衝撃が響く。


 その隙を狙い、シュンカさんが左前脚めがけて剣を振るう。


 ガキーンッ!


 ――剣が弾かれた。


 続けて、逆側からバーンさんが斬りかかるが……


 ガキーンッ!


 こちらも、ギガスアラーネが右前脚で受け止め、剣を弾き返した!


「固てぇな……!」


 一瞬動きが止まるギガスアラーネ。


 そのタイミングを逃さず、魔法士のヒルデさんとシュートさんがファイヤーボールを発射!


 ゴオッ!


 前衛の三人は、炎が届く前にすっと距離を取る。


 しかし――


 ギガスアラーネは、すかさずジャンプして回避!


 思った以上に動きが機敏だ。


 それでも、戦況はやや銅の花が押しているといったところか。



 さて、キュレネたちはどうだろうか。


 まず、ムートがギガスアラーネに切りかかる。


「パワースラッシュ!」


 強力な横なぎの一撃。


 対するギガスアラーネは、右前脚でそれを受け止める。


 ガキーン!


 衝撃でギガスアラーネの前脚が不自然な方向に曲がり、体勢を崩す。しかし、すかさずムートに向けて複数の糸を放った。


「エアバースト!」


 横からキュレネが魔法を放つ。無理な体勢で糸を吐き出していたギガスアラーネは、避けることができない。爆風が糸どころか本体ごと吹き飛ばし、壁に叩きつけた。


 まともに動けないのか、よろめいている隙を突いてキュレネとムートが飛び込む。


「ピアスファイア!」

「パワースラッシュ!」


 一瞬のうちに、ギガスアラーネの両前脚が斬り落とされる。


 これで攻撃力も防御力も激減だ。


 苦し紛れにジャンプして逃げようとするギガスアラーネ。しかし、それをムートのドラゴンブレスが容赦なく撃ち落とす。


「こっちは時間の問題ね」



 さて、銅の花の方はどうだろうか。


 動きの遅い大盾のアーサーさんが、蜘蛛の糸に捕まり、ぐるぐる巻きにされている。


 ――まずいんじゃないか?


 そう思ったが、何か様子がおかしい。他のメンバーが助けに入らない。……もしかして、これは作戦か?


 ギガスアラーネが静かにアーサーさんへと近づいた、その瞬間――


 スッ!


 絡みついていた糸が突如として消えた。


 次の瞬間、アーサーさんの槍がまっすぐギガスアラーネの顔を貫く。


 糸が消えたのは、アーサーさんの盾の陰に隠れていた魔剣士・シュンカさんの魔法によるもののようだ。


 その合図を待っていたかのように、周囲のメンバーが一斉に攻撃を仕掛ける。


 ――これで、こっちも終わりそうだ。

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