第31話 未知のダンジョンを発見せよ8 情報
そもそも――
ダンジョンって何?
ダンジョンの住人はどうしたの?
ノバホマロって何?
次々と疑問が浮かんでくる。
その疑問の答えが、頭の中に情報が流れ込んでくる。要約すると、こんな感じだ。
およそ1000万年前、この星が他の宇宙と重なり、強い干渉を受けたことで、人が住める環境ではなくなった。その異変を察知していた人類は、いくつかの生存策を講じた。その中の一つが「ダンジョン」だ。
ダンジョンは、当時の過酷な環境――極端な気温変化や大気組成の変動、強力な電磁波・宇宙線の暴露、さらには重力の変化さえも起こる状況から、人類を守るシェルターの役割を果たしていた。
ダンジョンは、以下の三つの要素で構成されている。
•人々が生活する「コア部」
•魔力の源となる「精霊システム」
•巨大な魔術回路である「迷宮部」
この迷宮部と呼ばれる魔術回路に精霊システムで作られた魔力が供給されることによってダンジョン内部の時間経過を極端に遅らせ、人々の劣化を防ぎつつ、さらに外界にも影響を及ぼし人類が生存可能な環境へと改変していったのだ。
人々はコア部で仮死状態となり、多重結界に守られながら、地上が住める環境に戻るまで待ち続けた。しかし、ほとんどのダンジョンは星の過酷な環境に耐えきれず崩壊し、生き残ったダンジョンはわずかだった。
それでも、生き残ったダンジョンでは約3000年前に
「地上環境が回復し、人類が生存可能になった」と判断され、仮死状態が解除された。
だが、その時地上にはすでに別の人類がいた。
それが「ノバホマロ(新人類)」だ。
彼らは、旧人類が「生存可能」と判断するはるか前に、環境に適応して進化をし、繁殖した種族だった。
当時のノバホマロの文明は石器時代レベルだった。
そのため、旧人類たちはノバホマロをどう扱うかについて慎重に議論した。
「脅威になる前に滅ぼすべきか?」
「共存すべきか?」
「支配し、利用すべきか?」
様々な思惑が交錯する中、最終的に出された結論は――
「ノバホマロを間接的に支配する」というものだった。
具体的には、「神の名のもとに導く」という方法が取られた。
ダンジョンの管理者たちは「神」を名乗り、協力し合いながらノバホマロに力を示し、知識を授け、『精霊教』という教えを広めていった。
その結果、ノバホマロの社会には新しい文明と呼べるものが芽生えた。
ある程度文明が発展すると、一部の旧人類たちはダンジョンを出て地上に移住し、ノバホマロと共存することを選んだ者たちもいた。
彼らは「ハイヒューマン」と名乗ったが、戦乱の中で「バーサーカー」と呼ばれることもあった。
また、ノバホマロを救い導いた者のなかには「聖女」と称えられることもあった。
だが、過去3000年の間に行われた幾度かの移住においても、ハイヒューマンがノバホマロと完全に同化することはなかった。
移住した集団は数世代で衰退し、やがて自然消滅していった。
そして、時が経つにつれ、ダンジョンに残る旧人類の数も減少し、ノバホマロへの関心も失われていった。
以前は神として君臨し、魔王討伐などを自ら行っていた旧人類も、やがてノバホマロの代表者に力を授け、神の代行者「エレメンタルマスター」として処理を任せるようになった。
そして512年前――
このダンジョン最後の住人である前管理者が死亡。
彼の意志により、ダンジョンは休止状態へと移行した。
……うーん、何となくわかったような、わからないような……
「それで……なんで異世界人の私が、このダンジョンの管理者になるの?」
すると、頭の中に即座に回答が流れ込んでくる。
「あなたは、1000万年前の危機の際に、ダンジョンとは異なる生存策――すなわち、異世界転移によって脱出した人々の末裔です」
「……えっ?」
思わず絶句する。
そんなつながりがあるなんて、まったく予想していなかった。
「……でも、私の世界では、1000万年前に人類はいなかったことになっているけど?」
「あなたの世界と、この世界とでは、時間軸が異なります。」
「こちらの1000万年前が、そちらの数十万年前にあたる可能性もあります。」
そんなことがあるの?
いや、あるんだろうけど……にわかには信じがたい。
「だとしても、私以外にも人はたくさんいるはずなのに……なんで私だけがこの世界に呼ばれたの?」
しかし、今度の問いには明確な答えは返ってこなかった。
「その情報に関しては、このダンジョンには存在しません」
「そうか、他にもダンジョンがあるんだっけ? ということは、別のダンジョンに行けば何か情報が得られる可能性があるのか」
「おそらく、どこかのダンジョンからの指令であなたが呼ばれたものと思われます。現在も稼働している可能性があるのは、ソノリオダンジョンが停止した時点で動いていたゴルフェダンジョンとアトマイダンジョンの二つです」
「ゴルフェって……キュレネたちの故郷で、魔王が封印されているダンジョンだっけ。そんな場所には簡単に行けないな……」
「それに、アトマイはかなり遠いし……」
「じゃあ、私が最初に転移してきた、あの神殿みたいな施設はどこ?」
「あなたを受け入れたのは、セロプスコの転移装置です」
「セロプスコ? 比較的近いわね。でも、あそこが壊れたから私は中途半端に森の中に放り出されたのよね……」
「他に転移装置は?」
「各ダンジョンとウィステリアに設置されています」
「……ということは、帰れるかもしれない?」
「ですが、ここの転移装置には異世界へ転移するほどの出力はありません。他の転移装置の仕様については不明です」
「うーん……」
――あれ? なんだか頭がくらくらする……
「ブレインエクスパンションシステムとつながったことで、一時的に脳への負担が急増しています。神経回路が構築され、スムーズな処理が可能になるまで無理はなさらないでください」
「そうなのね……。まだまだ疑問はあるけど、後でいいか。どのみち、もっと情報が必要だし。ここの情報修復にも時間がかかるみたいだから、他のダンジョンにも行く必要がありそう。元の世界に帰れる可能性が出てきただけでも良しとしよう」
「それにしても……私がこの世界の旧人類の末裔だなんて。ムートが適当に“バーサーカー”って言ってるだけかと思ってたけど、あながち間違いではないなんて、予想外だったわ」
「それに、ダンジョンの管理人がこの世界の神様……ってことは、つまり私が神になったってこと?」
「……どう振る舞えばいいのかしら?」
「よく考えると、ダンジョンの管理人たちが地上の人に“神”と名乗っていたわけよね。それってどうなんだろう? 本当の神じゃないのに神を名乗るなんて……。それを私が引き継ぐってことは、地上の人たちを騙していることになる?」
「……いや、そもそもこの世界の人たちにとっての“神”って、ダンジョンの管理人のことを指す言葉なのかもしれない。私の常識とは違う概念なのかも」
「そう考えれば、“神”と名乗っても問題はないのか……。地球でいう神様とは、定義そのものが違うんだろう」
「とりあえず、面倒なことにならないように、こっそり情報を集めながら、しばらくは大人しくしていよう」