第28話 未知のダンジョンを発見せよ5 ダンジョン入り口探索
3人そろって探索に向かう。
とりあえず、周囲を観察しながら歩く。
時折、キュレネが地下探索魔法を使い、ダンジョンの有無を確認する。
本来は地下にダンジョンがなければ、そのエリアを探索対象から外すつもりだったのだが……。
どこを調べても地下にダンジョンがある。
結果、探索範囲を減らすことができなかった。
ちなみに、地下探索魔法は「地下にダンジョンがあるかどうか」を調べる魔法で、地上にある入口を見つけるのには向いていない。
しかし、「地上探索魔法」なんてものは存在しないため、結局は歩きながら地道に探索するしかない。
結局、何も見つからないまま夕方近くになり、ベースキャンプへ戻ることにした。
ムートが、今日探索した範囲を地図に書き込んでいく。
……でも、私にはどこを歩いたかなんて全然分からない。
なのに、どうしてムートは正確に記録できるんだろう?
「ねえ、なんでどこを歩いたか分かるの?」
「……なんで分からないんだ?」
あぁ、これが『簡単に分かる人には、なんで分からないのか分わからない』というやつか……。
うーん、どうしようもないな。
「……なんでだろうね。」
そう言って、会話を終わらせた。
銅の花のメンバーも特に収穫はなかったようで、こうして1日目の探索は終了した。
一眠りしていると、三人目の見張り当番のムートに起こされた。
もう十分に睡眠をとったので、眠くはない。テントの外に出て見張りをする。とはいえ、感知の魔導具が光るまでは特にすることもない。お湯を沸かし、お茶を飲みながら星空を見上げた。
そういえば、元の世界ではあまり星空を見なかったな。けれど、帰りが遅くなったとき、オリオン座だけはすぐにわかった。一時期、ベテルギウスが爆発するとかしないとか話題になっていたから、それだけは気になって見た覚えがある。
そんなことを考えていると、感知の魔導具がわずかに点滅した。
魔物か? 周囲を見回す。視力は強化されているので、かなり遠くまで見える。遠くのほうで、小さな魔物がうろうろしていた。こっちを向いたときに目が光るので、何気に怖い。けれど、しばらくすると立ち去っていった。
あと一時間くらいか。見張りの時間は長く感じるな。結構暇だ。みんな、ずっと感知の魔導具を監視しているのだろうか? そんなことを考えていると、「銅の花」の副リーダー、ヒルデさんが起きてきた。
「おはよう」
「おはようございます」
「もう他の人も起きてくるから、見張りは終わりでいいわよ。ごくろうさま」
「あの、皆さん、見張りのときってどう過ごしているんですか?」
「そうね……。あまり集中して監視しても疲れちゃうし、気を抜くと眠くなるから、軽く何かをしながら監視する人が多いわね。私は、普段あまり使わない魔法を忘れないように使ってみたりしてる。でも、あまり集中しすぎるのはダメよ。以前、見張りのときに新しい魔法を練習してたら、監視を忘れて危ない目にあったことがあるから」
なるほど。そういえば、真刀流の技であいまいになっているところもある。この時間を使って思い出そうか。
「ありがとうございます。参考になりました」
そんなやりとりをしているうちに、みんなが起きてきて、また一日が始まる。
一週間ほどが経過し、ベースキャンプから比較的近い場所の探索はほぼ終わった。しかし、特に進展はなく、今日の探索を終えた今はベースキャンプへの帰り道だ。
「このままだと時間がかかりすぎる。手分けして、ばらばらに探索しないか?」
そういえば、前にも同じようなことを言っていたっけ。
「そうしたほうがいいかもしれないわね」
キュレネも賛成なんだ。
「うーん……」
本当は、一人で行動してソノリオの神樹を調べてみたい。でも、一人でのダンジョンの入り口探索はたぶん無理だ。
「魔物は倒せるし、魔方位針があるから行って帰るだけなら問題ないけど、どの場所を探索したか地図に記せないから、私一人で行っても意味がないと思う」
「そうなのか。じゃあ、俺かキュレネのどっちかにつくってことで、二手に分かれるか」
「まあ、しょうがないわね」
そんな話をしながらベースキャンプに戻ると、「銅の花」のメンバーがベースキャンプの前で何かをしていた。
キュレネが近づいて声をかける。
「どうかしましたか?」
「ああ、ちょっとな。ベースキャンプを探ったような足跡が残っているんだ」
見ると、五本の爪を持つ直径30〜40cm程度の丸い足跡が、ベースキャンプ周囲のあちこちに残っている。かなり大きな魔物のものらしい。
「この辺ではほとんど見かけないはずなんだが……。形と大きさからすると、虎熊か灰熊の可能性があるな。灰熊ならCランクだからそれほど問題はないが、虎熊だった場合は少々厄介だ。Bランクに分類される強敵なうえ、勘が鋭い。ベースキャンプの存在に気づいた可能性がある。もしそうなら、ベースキャンプを破壊し、食料を奪われる危険もあるな。念のため、どちらかのパーティがここに残ったほうがよさそうだ」
「ティアが一人で残ればいいんじゃないか?」
「えっ?」
「そうね、それでいいと思うわ」
「おいおい、足跡の主が虎熊だった場合、この嬢ちゃん一人じゃやばいだろ」
そう発言したのは「銅の花」のリーダー、バーンさんだった。他のメンバーも驚いた顔をしている。
「もともと私たちは、個別に行動しようという話をしていたんです。こう見えて、この子はものすごく強いので、一人で残っても問題ありません。むしろ適任です」
「そう言われてもなぁ……」
本当に大丈夫なのかという不安げなバーンさんに代わり、副リーダーのヒルデさんが声をかけてきた。
「ティアちゃん、虎熊を見たことある?」
「いえ、ないです」
「灰熊は?」
「見たことないです」
「それで大丈夫なの?」
「どちらでも討伐してしまっていいんですよね? なら、問題ないと思います」
ヒルデさんたちはしばらく固まったまま動かなかった。
今の剣があれば、Bランクの魔物に負ける気はしない。それに、いざというときは女神モードを使えばいい。
「自信があるってことか? まあ、確かにギルドマスターもお前らのことを強いと言っていたからな。それじゃあ、頼むとしよう。でも、やばいと思ったら逃げてくれ」
こうして、話はまとまった。