第27話 未知のダンジョンを発見せよ4 ソノリオの神樹
今日から、ベースキャンプを設置するためにソノリオの神樹へ向けて出発する。
ベースキャンプセットの輸送を担当するホワイトキャッツは、角牛という魔物4頭に荷物を積んでいた。
森の中には馬車や荷車は入れないから、そのまま動物(魔物)に荷物を載せて移動するんだ。
ウィスバーロの町から街道を南下し、西側からソノリオの森へ入る。ソノリオの神樹は、冒険者の間ではそこそこ有名なポイントらしい。荷物を運んでくれているホワイトキャッツのリーダー、サリバーさんも過去に訪れたことがあるそうで、道に迷うこともなく、魔物に遭遇することもなく、無事に目的地へ到着した。
そこは高台になっており、高さ50m、幹の直径は10mほどもある巨木が1本だけそびえ立っていた。周囲は半径100mほどにわたって木が一本も生えておらず、背の低い雑草がまばらに広がるだけの荒地のような場所だった。
森の中にぽっかりと木が生えていない場所があるのは、なんだか違和感がある。けれど、ベースキャンプを設置するにはちょうどいい場所かもしれない。そんなことを考えているうちに、皆はすぐに作業に取り掛かった。
まず、10m四方の四隅に結界柱を設置する。ベースキャンプ用の結界柱は継ぎ式になっており、高さも調節可能だ。今回は2.5mの高さに設定した。結界柱に魔石をセットすると、4本の柱に囲まれた範囲に結界が張られる仕組みになっている。
結界の内側は半分ずつのスペースに分けた。5m×10mのエリアは居住スペースとし、さらに4つの区画に分けてテントを設営する。
• 物置
• 銅の花(男性メンバー用)
• 銅の花(女性メンバー用)
• 私たちクラーレットの部屋
残りの半分は炊事や食事をするためのオープンスペースとした。
この結界の性能としては、
• 認識阻害(外部から視認しづらくなる)
• 気配遮断(内部のにおいや人の気配を遮る)
• 防御機能(Bランクの魔物の攻撃に約10分耐えられる)
といった効果を持つ。防御機能は物足りないようにも感じたが、持ち運びできて簡単に設置できる携帯型の結界としては高性能らしい。幸い、この付近ではSランクやAランクの魔物は確認されておらず、Bランクの魔物を倒せる冒険者がいれば十分に対応できるとのことだった。
一時間ほどでベースキャンプを設置し、物置に食料やその他の物品を運び込む。
この結界を出入りするためには魔力の登録が必要で、全員登録を行った後、結界を作動させた。こうして、無事にベースキャンプの設置が完了した。
荷物を運び、ベースキャンプの設置を手伝ってくれたホワイトキャッツのメンバーは、作業が終わるとすぐに帰り支度を始めた。
もう夕方になろうとしているが、今から帰っても大丈夫なのだろうか? そう思っていると、彼らは近くに適した水場と草場があると言う。角牛を休ませるにはちょうどよく、そこに一泊してから町へ戻るつもりなのだそうだ。
そういうことなら安心だ。
私たちはお礼を伝え、ホワイトキャッツのメンバーを見送った。
簡単な夕食をとった後、明日からの探索に向けた打ち合わせを行った。
探索について
• 各パーティごとに探索を実施する。
• 当面は無理をせず、日の出とともに出発し、日没前に帰還する方針とする。
• 出発前に探索エリア、食料、備品を確認し合う。
• 帰還後は探索範囲を地図に記入し、特記事項があれば情報共有を行う。
夜間の見張りについて
• 結界はあるが、念のため見張りを行う。
• 一晩を4人交代制で守る。―― 8人いるため、1人あたり2日に1回、2時間の見張りとなる。
見張りはそれほど負担にはならなそうだ。実際の警戒には、ベースキャンプセットに含まれる『感知の魔導具』を使用する。これは台座にはめ込まれた野球のボール大の透明な石で、結界に魔物や人間が近づくと光る仕組みになっている。
この魔導具は接近距離に応じて光の強さが変わるため、近いほど明るくなる。
また、接近してきたのが弱い魔物であれば、起こさずに倒してしまっても構わないとのこと。ただ、正直なところ、見ただけで相手の強さなんて分からない。でも、ここにはSランクやAランクの魔物はいないと言っていたし、適当に倒しちゃっても大丈夫だろう。
とりあえず今夜の見張りは「銅の花」のメンバー4人が担当するため、私たちは休んでいいことになった。
私たちはテントに入り、明日の探索ルートを決めた後、就寝した。
何事もなく朝を迎えた。
簡単な朝食を済ませ、今日の予定を確認する。
「銅の花」のメンバーは、東側の比較的近い場所にギガスアラーネの目撃ポイントがあるため、そこを中心に探索するとのこと。
一方、私たち「クラーレット」は、西側の近場を探索することにした。
念のため、先日魔道具屋で購入した魔方位針の片方をベースキャンプに置いて外に出た。
早速、手元にある方の魔方位針に魔力を流してみた。
「……あれ? ベースキャンプの方向を指さないんだけど……?」
「ベースキャンプの結界で魔力が遮られているんじゃないかしら?」
試しにベースキャンプへ戻り、置いていた魔方位針を回収し再び外に出る。
「あー、ベースキャンプの外ならちゃんと反応する!」
それなら、ベースキャンプの近くに隠しておけばいいか。
辺りを見回すと、目に入ったのはソノリオの神樹。
あの神樹の根元に隠すのが良さそうだ。
神樹へ近づくと、木の幹に扉のようなものが見えた。
「……なにこれ?」
よく見ると、扉には文字が浮かび上がっている。
『ノバホマロが近くにいるので使用は控えてください』
???
「ねえ、この扉、なんだと思う?」
「……扉? どこにもないぞ?」
「ティア、もしかして扉が見えてるの?」
えっ、2人には見えてないの??
これ、もしかして私だけが見えるやつ?
……なんだか、このことは内緒にしておいた方がいい気がする。
「あー、勘違い! 目の錯覚だったかも……」
"ノバホマロ" って何を指すんだろう?
とりあえず、「周囲に誰もいないときなら使える」 ってことなのかな?
今度、一人になったら試してみよう。
ともあれ、まずは魔方位針を隠す場所を確保しないと。
神樹の根元を探すと、ちょうどいい穴を見つけた。
……でも、そのまま入れるとちょっと目立つ。
そこで、近くに落ちていた樹皮で魔方位針を包んでから穴に入れた。
うん、ちゃんと作動してる。
これなら大丈夫だろう。