第25話 未知のダンジョンを発見せよ2 探索と報告
今日からダンジョン探索が始まる。
まずは冒険者ギルドに立ち寄り、一週間ほどかけてブランカ周辺の目撃ポイントを巡る予定を伝えた。すでに「銅の花」は出発し、予定通りアルタピーノへ向かったらしい。
私たちは、以前オオグモと遭遇した場所へ向かう。ここはブランカ周辺の目撃ポイントの中で最北に位置する。
地下探索魔法は大量の魔力を消費する。そのため、魔物と遭遇した場合、キュレネは極力戦闘を避け、魔力を温存する方針だ。代わりに、戦闘は基本的に私とムートが担当する。
さらに、今日は新しい剣を実戦で試す初めての機会でもある。少しは魔物と遭遇することを期待していたのだが――幸か不幸か、何事もなく目的地へ到着してしまった。
一休みした後、キュレネは両膝を地面につき、続いて右手を開いて地面に触れた。
そして、左手で右手首を握ると、何やら魔法を使い始める。
地面から「ゴォー」という音が響き、軽い振動が伝わってきた。
これは地魔法の一種で、地面に魔力を伝え、その反動で地質の状態を探るものらしい。使用する魔力の量によって調査範囲は変わるが、一回の使用で数百メートル先まで把握できるという。
「うーん……ここは特に空洞のない、普通の地面ね」
キュレネがそう言うと、私たちは次の地点へ向かった。移動しながら、気が向いたときに地下探索魔法を試していく。
ブランカ周辺の目撃ポイントは全部で五つ。最短距離で回るのではなく、できるだけ広い範囲を探索できるように工夫しながら南下していったが、結局何も見つからなかった。
「とりあえず、予定していた範囲は調査したし、戻りましょう」
今いるのはブランカの南側、ソノリオに近い地点だ。
「次回は、南のソノリオに直接向かおうと思う。だから、下調べも兼ねてもう少し南へ進み、ソノリオからウィスバーロの町へ抜けるルートを通って戻りましょう」
その道中、ちょうどブランカとソノリオの境目あたりで、何気なく地下探索魔法を使ってみた。
「あれっ!? この下に何かあるわ」
キュレネが驚いた声を上げる。
「ちょっと調査予定を過ぎちゃうけど、一番近いソノリオの目撃ポイントまで調べてみましょう」
そう言って、今までよりも短い間隔で地下探索魔法を使いながら進んでいく。そして、1日後、ソノリオの目撃ポイントへ到着した。
「どうも、最初に見つけた場所あたりから南東に向かってダンジョンが広がっていそうね。予定よりだいぶ進んじゃったし、一度冒険者ギルドに戻って報告しましょう」
冒険者ギルドへ戻り、報告を行った。
どうやら銅の花も一度戻って報告を済ませ、すでに再出発したらしい。アルタピーノ周辺の目撃ポイントの約三分の一を調査し、特に何も発見はなかったとのことだ。
ただ、一応2日後に戻る予定とのことで、戻り次第打ち合わせをすることになった。私たちは、それまで待機となる。
まあ、ちょうどいい休息になるよね。
2日後、銅の花は予定通り戻ってきた。さっそく打ち合わせが開かれる。
メンバーは前回と同じく、ギルドマスターのアルベルトさん、受付課長のセリシャさん、銅の花、そして私たちクラーレットの奇跡だ。
「まず、双方からダンジョンらしき地下構造物を発見したという速報を受けている。詳しく話を聞かせてくれ」
双方……ってことは、銅の花も発見したんだ。
まずは、銅の花のリーダー、バーンさんが口を開いた。
地図を指し示しながら説明する。
「俺たちはこのルートでアルタピーノに入ったが、ここまでは何もなし。このポイントで初めて地下の構造物を発見した。それから周辺を探索したが、それより東側では何も見つからなかった。おそらく、そこがダンジョンの東端だろう。だが、西・南・北にはまだ続いているようだった。一度ここで調査を中断し、報告のために戻ってきた」
次いで、キュレネが報告を始める。
「私たちは、ブランカの最北の目撃ポイントから南下しながら、各目撃ポイントを回りつつ調査を行いました。そして、ブランカとソノリオの境界付近で地下の構造物を発見。おそらく、この辺りがダンジョンの北西端で、そこから南東方向に広がっていると思われます。とりあえず、南のソノリオ側に入った地点までは確認済みです」
「なるほど。ちょうど東西の端を確認できたわけか。20kmほどの距離があるな。それなりに大きなダンジョンのようだ。これだけ広いと、入り口を見つけるのは苦労しそうだ。まずは南北の広がりも大まかに確認し、ダンジョンのおおよその大きさを把握しておきたい」
そこで、私たちはソノリオの西端から入り、南を回ってアルタピーノの東端へ向かうルートを進むことになった。一方、銅の花はアルタピーノの東端から入り、北回りでソノリオの西端へ向かう。
前回戻ったルートを使い、ソノリオへ入って調査を開始する。
「ダンジョンの入り口って、必ず端にあるわけじゃないんだよね?」
「ああ。今回の探索の目的は、ダンジョンの大きさを把握することだ。だから主に端を進むことになる。入り口を見つけられる可能性は低いな」
「でも、最終的には入り口を探すんだよね? ギルドマスターの話だと、ダンジョンの入り口って一カ所しかないの?」
「いや、そんなことはない。確か、入り口が三つあるダンジョンもあったはずだ」
「それでも三つだけなんだ……。こんな広い場所から見つけるの、大変そう。でも、地下探索魔法で探せるんじゃないの?」
「うーん、見つけられなくはないけど、結構難しいのよ。地下探索魔法って、最初は地面につけた手の大きさ分しか範囲がなくて、深くなるほど広がっていく仕組みなの。だから地表近くだと探索範囲が狭いの。それに入り口は地面より上にあるから、魔法の範囲外になることが多いのよ。そもそも、そこまで鮮明に見えるものでもないしね。だから今回は、ダンジョンの端をたどって大きさを把握する過程で入り口が見つかればラッキー、って感じね」
「ふーん、そんな感じか」
前回の探索でダンジョンの北西端と思われる地点を確認したので、そこから南下し、ダンジョンの端を探っていく。
しばらく進んだところで、キュレネが怪訝そうな顔をして立ち止まった。
「なにこれ?」
「どうしたの?」
「西側の端が、南へ一直線に続いてるわ。これなら結構簡単に終わりそうね」
実際、そのまま南へ20kmほど進むと、西端は直角に曲がり、そのまま南端へと繋がっていた。とりあえず、1日目の探索はここで終了。もしかして南端も東へ一直線に続いているのだろうか?
翌日、探索を再開する。
予想通り、南端は東へまっすぐ伸びていた。探索が楽なのはありがたいが、ただまっすぐ歩くだけなので退屈でもある。そんなことを考えながら3時間ほど進んだところで、遠くの山肌に穴のようなものを見つけた。
「アレもしかして、ダンジョンの入り口?」
「おお、確かに穴が開いているな」
「二人とも、よく見えるわね。私、魔法を使わないと見えないわ」
キュレネはそう言って視力強化の魔法を使う。
「ああ、アレね。じゃあ、行ってみましょう」
慎重に近づき、木の陰から様子をうかがう。穴の大きさは、縦横3mほどありそうだ。
「うーん、魔物の気配がするわね。ちょっと試してみましょうか?」
キュレネが風魔法で洞窟の前に音を鳴らす。
「ボン」
すると、すぐにゴブリンが3匹ほど姿を現した。
「ゴブリンの住処かしら? まあ、ゴブリンがいるなら、強い魔物はいないはずだし……探索してみましょう」
出てきたゴブリンをさっと倒し、洞窟の中へ入る。
ついこの前習得したばかりの暗視魔法を使う。この魔法を使えば、暗闇でも普通に見える。光があると逆にまぶしくなるのかと思いきや明るさは瞬時に自動で調節され目に優しい仕様となっている。
洞窟の奥には、かすかに光が見える。
そっと近づき、様子をうかがう。
薄明かりの中でも、暗視魔法のおかげで問題なく視界が確保できる。
奥は少し開けた空間になっており、10匹以上のゴブリンがたむろしていた。
「行くわよ」
キュレネとムートが風魔法で一瞬のうちにゴブリンたちを全滅させる。
改めて周囲を観察すると、この洞窟はここで行き止まりになっているようだった。
「うーん……ただの洞窟かしら? 念のため、地下探索魔法で調べてみるわね」
キュレネが魔法を発動させる。
「……この辺りの地下には、ここにつながるような構造物はなさそう。ただの小規模なゴブリンの巣だったみたいね」
「残念。こういうのがたくさんあると、ダンジョンを探すのも一苦労だなぁ……」
再びダンジョンの南端へ戻り、探索を継続する。
結局、ダンジョンの南端は東西にまっすぐ20kmほど続いており、東端に到達したところで2日目の探索を終えた。
一応、目指している目的地――銅の花が発見したアルタピーノの東端――はここから真北に位置している。南端が一直線だったように、東端も北へまっすぐ伸びている可能性が高そうだ。
翌日、北へ向かい探索を続ける。
予想通り、ダンジョンの東端はまっすぐ北に伸びていた。大きな障害もなく、目的地へと到達する。
「北側は銅の花が調べていると思うけど、おそらくダンジョンの外周は20km×20kmのほぼ正方形ね。冒険者ギルドに戻って報告しましょう」