第23話 【別視点】終わりよければすべてよしとは言うけれど 第4騎士団アプロの回想録
周辺の村々で牙狼の群れによる被害が急増したことを受け、我ら王国第4騎士団の15人が派遣された。
この日、討伐対象の牙狼の群れを追い、グランタ山とヒルデ山の間の谷に差し掛かったところで、不運にもAランクのデーモン『カペルディアボルス』に遭遇してしまった。
さらに不運だったのは、実績作りのために同行していたアーティ第三王子の回避が遅れ、真っ先に標的にされてしまったことだ。
王子をかばうためガステーヨが即座に飛び込んだが、一撃で吹き飛ばされてしまい、なすすべなく王子は爪で腹を貫かれ、そのまま木に激突——一瞬にして瀕死の重傷を負った。
護衛対象の王子が最初に倒れるという大失態である。
何とかデーモンの動きを止めようと私が切り込んだが、力及ばず返り討ちに遭いそうになった。
間一髪、団長が庇ってくれたものの、代わりに団長が重傷を負ってしまった。
しかし、この時デーモンの動きを一瞬止めることに成功。
その隙に後衛の騎士たちが簡易結界と土壁の魔法で足止めし、煙幕を張ることで撤退——これが唯一の幸運だった。
近くにランツ村があったため、そこで療養させてもらうことにした。
だが、かろうじて命を取り留めたものの、王子の状態は絶望的だった。
「朝までもつかどうか」というほどの重傷である。
ランツ村で王子を治療したのは、紫の衣をまとったティアという神官だった。
子供だったが光魔法を使える神官であり、ただそれだけでも貴重な存在だった。
だが、その神官は徹夜で回復魔法をかけ続け、王子の意識が戻るまで回復させたのだ。
「かなり優秀な神官だな」
……そう、その時はそう思っただけだった。
しかし、実際はそんなものではなかったのだ。
城で治療にあたった光魔法士ファコ様から疑問が投げかけられた。
「アーティ様は、なぜここまで回復しているのです?」
当初は最初に受けた報告より軽傷だったのではないかと思っていたのだが、治療のため詳しく検査すると、王子の傷は命を落とすほどの重傷だったことが判明。騎士団員の聞き取りや残った傷跡を見ても、確かに瀕死の状態だったことは間違いないというのだ。
私は「ティア神官が一晩中ヒールをかけ続けていた」ことを説明した。
だが——
「ヒールの魔法では、こんな速度で治療できるはずがない」
さらにカペルディアボルスの爪の毒についても、完全な解毒は極めて困難で、普通なら助からないか、助かっても後遺症が残るレベルのものだと言われた。
しかし王子の体には毒の痕跡があるにもかかわらず、完全に解毒されていた。
「ヒールの魔法では、この毒の解毒は絶対にできない」
そう聞かされた。つまり何か別の特別な魔法が使われたはずだと言うのだ。
通常ではありえない処置をしてくれたのだと確信した私は「ティア神官に改めて礼を伝えたいと」ランツ村を再訪した。
だが——
「あの神官は村の神官ではなく、祈年祭のために本部から派遣された者。もうここにはいない」
ならばと精霊教会本部に問い合わせると——
「そのような神官は存在しない」
どういうことだ?
教会が秘匿するほどの特別な力を持つ者だったのか?
騎士団内では、
「教会が秘匿している聖女なのでは?」
という噂まで出たが真相は不明だった。
そしてその日、もうひとつありえないことが起こっていた。
私たちが手も足も出なかったカペルディアボルスの死体が、村に運ばれていたのだ。
村長を含む3人の村人が目撃していた。
彼らによると——
「覆面をした赤目の冒険者が、一刀でカペルディアボルスを切り捨てた」
カペルディアボルスは強力な魔力で肉体が強化され、通常攻撃が通らない。
それを身をもって体験した私からすると、そんなことはありえない。
だが死体は確かに存在し——
肩から肋骨にかけて、見事に二つに分かれていた。
さらにその冒険者は、死体を村に寄付すると言い残し、いつの間にか消えていたという。
カペルディアボルスの死体は角や目など、高価な素材の塊だ。
普通の冒険者なら何十年分もの稼ぎになるはずなのに、である。
村人の証言をもとにその冒険者の情報を集めた。
•覆面をした赤目
•背が小さく華奢
•女の声だった
•魔剣を使っていた(と思われる)
しかし該当する人物は見つからなかった。
——現実に存在する人物なのだろうか?
おとぎ話に出てくるバーサーカーも赤目だが......。
まさか、そんなことは……。
結局、カペルディアボルスの死体は団長が買い取り、報告は改ざんされた。
「第4騎士団が激闘の末、軽傷者を出しながらも討伐に成功した」
さらに——
アーティ王子には『デーモン討伐の実績』まで付与され、
本来なら処罰されるはずの騎士団は、結果として褒美を受け取ることになった。
終わりよければすべてよし——
そうはいっても、私の心にはモヤモヤが残ったまま。
真実の方が国王に報告できないほどに現実離れをしているのだから。
謎の神官と赤目の冒険者——ありえない力を持つ二人——いったい彼らは何者だったのでしょうか?