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第2話 ここはどこ?

 あーなんか変な夢を見た。


 違和感を覚えながら目を開けると、青い空と森の木々が視界に広がる。

 しかし、自分の周囲の木々だけは、まるで何かに薙ぎ倒されたかのように、無惨に倒れ伏していた——。


 えっ!! 

 ——なんで!? 私、自室のベッドで寝ていたはずなのに!


 慌てて体を起こしたものの、状況がまったく理解できず、ただ呆然とするしかなかった。


 そのとき——


「おっ 気が付いたぞ」

「大丈夫か?」

 そんな声とともに、白髪のショートウルフヘアーの少女がこちらへ近づいてくる。


 よく見ると、彼女の頭の左右には、後ろ向きでやや上に伸びる20センチほどの角が生えていた。

 それに……ちょっと牙っぽい歯まである。


「鬼!?」

 と思わず声に出してしまう。


「誰が鬼だ! 私は最も高等な種族とされる『竜人族』だ!」

「鬼族と間違われるなんて、ありえない!!」


 リュウジンゾクって何? コスプレかな?


 ますます訳がわからないけど、どうやら怒らせてしまったらしい。

 どうしよう——。



 そのとき——。


 赤髪のロングヘアーに、豪華な服装をまとった上品そうな女性が近づいてきた。

 彼女は白髪の少女を少し後ろへ下げると、落ち着いた口調で話しかけてくる。


「私はキュレネ。そして、こっちはムートよ。少し話をしてもよいかしら?」


 今度の人は、貴族令嬢のコスプレかな?


 とりあえず、立ち上がって返事ぐらいはしておこう。


「はい……」


「あなたは、何者かしら?」


 ……えっ? それって、何を聞かれてる?


 いろいろわからなすぎて、何を答えればいいのかすら分からない。


 そう思いながら、自分の状況を正直に口に出す。


「……ここがどこで、なぜ自分が森の中にいるのかも分からず、混乱している人です」


「なるほど」


 ——えっ!? それで納得しちゃうの!?


 めちゃくちゃな答えをした自覚はあるんだけど……。



「もうすぐ日も暮れるし、私たちはここで野営をするつもりだけど、一緒にどうかしら?」


 キュレネはそう言いながら、じっとこちらを見つめる。


「見たところ荷物も何も持っていないようだし、夜通し歩いて町まで移動するわけでもないのよね?」


 そう言ったあと、少し間を置いて——


「それとも、さっきみたいな転移魔法でも使うのかしら?」

 探るような視線を向けながら、付け加えた。


 何を言っているんだろうと思いつつ、その視線が気になり、改めて自分の格好を確認する。


 うへっ……。


 なんと、寝たときのままのピンクのパジャマ姿で、持ち物も一切ない。


 私、なんて恥ずかしい格好で外にいるのよ……。それに、夜の森を一人で歩くなんて、怖すぎる。

 とりあえず、一緒に野営させてもらって、それからどうするか考えよう。


「すいません、ご一緒させてください」


「ところで、あなたのことは何て呼べばいい?」


 そういえば、私は名乗ってもらったのに、自分の名前を言っていなかった。


「『ティア』と呼んでください」


 私がここで倒れている間に、近くに野営用のテントを張っていたようで、そちらへ案内される。立ち上がろうとしたとき、キュレネが私の足元に目を向け裸足であることに気づき、彼女は持っていた革を器用に縫い合わせ、膝下までの簡易的なブーツを作ってくれた。


 その間、ムートが携帯食と飲み物を用意してくれていた。


 3人で食事をしながら、少し落ち着いたころ。キュレネがゆっくりと口を開いた。


 混乱している私を気遣ってか、質問攻めにすることはなく、まずは自分たちのことから話してくれるようだ——



「私たちは、冒険者になるために故郷のゴルフェ島から冒険者ギルドのあるウィスバーロの町へ行く途中なの」


 冒険者って、8000メートル級の山に登ったり、北極とかを探検するような人じゃないよね?


 なんだか、嫌な予感がする。

 そう思いつつ、思い切って聞いてみる。


「冒険者って、何ですか?」


「冒険者を知らないなんて珍しいわね。どこの国でも見かける、かなりメジャーな職業なんだけど」


 キュレネはそう言うと、不思議そうな顔をして続ける。


「簡単に言うと、冒険者は冒険者ギルドという組織に所属して、魔物の討伐や魔石の回収、薬草採取、護衛、探索など、ギルドの様々な依頼をこなす便利屋よ」


 ……それって、ラノベとかアニメに出てくる冒険者のことだよね?

 ますます、嫌な予感がしてきた。


「まるほど、そういう職業があるんですね。ところでそのウィスバーロの町へはあとどのくらいかかるんですか?」


「そうねぇ、あと丸一日ぐらいかしら?」


「そんなにかかるんですか?」


「私達はもう3日も森を歩いていて、あとひと踏ん張りってところよ」


「4日も森を歩かないと町に行けないんですか?」


 ちょっと驚いていると、


「町へ行くのに、普通は森の中を通らないわ」

「今回は町まで直線距離で歩いたほうが近いというムートの提案で、このセプバーロ大森林を突っ切ることにしたのよ」

「腕試しがてら森で魔物狩りをして、お金稼ぎをしながら最短距離を行く一石二鳥作戦なの」


 直線距離が近いからといって、4日もかけて森を通るなんて……この人たちについて行って大丈夫かしら?でも、この人たちがこのルートを通らなかったら、たぶん私は森の中で遭難していたと思う。


 そこは感謝かな。



 その後、私を見つけた時のことを話してくれた。


「この近くを歩いていた時に、轟音とともに光の柱が上がったの。ただ事じゃないと思って急いでここに確認に来たのよ。そしたら、10メートルぐらいの範囲で木々が渦巻き状に倒れていて、その中心にあなたが倒れていたのよ。多分、転移の魔法が暴走していたような感じに見えたのだけど、心当たりはある?」


 そういえばさっきも魔法とか言っていったっけ。その言葉で確信してしまった。

 言葉はなぜか通じるけど、完全に日本じゃない。信じたくないけど、ここは異世界ってやつだよ。


 もちろん心当たりはあるが、自分でも何が起こったのか正確には理解できてはいない。それを他人に話して通じるのだろうか?そう思いながらも、夢の中で起こったことだと思っていたという断りを入れてから、この国を救ってほしいといわれた一連の経緯を話した。ただし、女神様という部分は抜いて。


「うーん、夢というだけあってなんか現実離れした話だけど、現に転移してきた形跡があるから何とも言えないわね。国を行き来できるような大規模な転移の魔法は神殿のような特別な設備のある場所でのみ使えたと昔の文献で見たことがあるけど、今でも使われることがあるのかしら?状況からすると、その転移魔法が失敗してこの森に飛ばされたって感じかしら?」


「その救ってほしい国って、この『トゥリスカーロ王国』のことか?結構な強国だぞ、ここは」

 今度は白髪竜人のムートが質問してきた。


 今、私、トゥリスカーロ王国って国にいるの?聞いたことない国だ。


「多分そうなんじゃないかと思うんですけど、具体的な国名はわかりません」


 そして一縷(いちる)の望みを込めて聞いてみた。

「日本という国は知ってますか?」


「この大陸の主な国は知っているつもりだけど、聞いたことないわ」


 ああ、やっぱりここは異世界なんだ……。


 キュレネさんは何かを察したようで言葉を続ける。


「その国の出身なのね。黒髪の人はこのあたりにいないし、そんな服装も見たことないわ。少なくともこの国や周辺国の出身ではないわね。それに服もあなた自身もまったく汚れていなくて、ずいぶん小綺麗よね。明らかに平民じゃないわよね?助けを求められるぐらいだから、その国の王族か有力貴族ってところかしら?」


「ただの平民です、何の力もないただの学生ですよ」


「平民なのに学生??」

 ムートのつぶやきはスルーして、質問を返す。


「キュレネさんたちの服装も豪華に見えるのですが、貴族なのですか?」


「元貴族の家系だけど、今は平民よ。親は村長だから平民でも上位のほうだけどね。おばあさまが貴族だったころ、大事にしていた昔の服なの。舐められないようにしっかりした服を着なさいって、出してきたのよ。ムートは私と一緒の家で育った、姉妹みたいなものよ」


 一通り話し終えたとき、外はもう真っ暗になっていた。

 自分が置かれている状況はなんとなく把握できたが、何も知らない異世界に転移し、これからやるべきこともはっきりしないうえ、帰り方もわからない。

 どうしようもない不安に襲われ、どんどん暗い気持ちになっていた。


 雰囲気を察したキュレネが、


「顔色もよくないようだし、今日はもう休みましょう」


 と休息を勧めてくれた。


「とりあえず明日、ウィスバーロの町まで一緒に行きましょう。見張りは私たちが2人で交代でするので、あなたはもう休んで」


 精神的に限界になっていた私は、すすめられるままに横になった。

 そして、これが現実ではないことを祈りつつ、いつの間にか眠りに落ちていた。

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