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第19話 祈年祭と魔物狩り勝負5 大猿1

 パイース村に到着した。近いだけあって、前に訪れたランツ村と雰囲気がよく似ている。村の規模や精霊教会の大きさも、ほとんど変わらない印象だった。


 どうやらランツ村での出来事がすでに伝わっていたようで、村長のリカルドさんが出迎えてくれ、歓迎してくれた。


 本来なら、到着した翌日に儀式を行う予定だったが、大雨の影響でさらに翌日へと延期となった。それでも、儀式自体は前回と同じように祭壇が輝き、村人たちに喜ばれ、問題なく成功した。


 儀式の後には祭り(という名の飲み会)が開かれ、その席で狩りに関する情報を得ることができた。


 この辺りでは、北の森に棲むグランダシーミャという体長1.5~2mほどの大猿が、冒険者の間で討伐対象として人気があるらしい。魔物ランクはオーガと同じC。群れで行動し、主に樹上で生活している。そのため、慣れていないと樹上からの攻撃に苦戦するので注意が必要とのことだった。


 そして儀式の翌日――。


 朝から狩りに出かけることにした。口元に布を巻き、ローブのフードを深く被る。前回と同じスタイルで、こっそりと建物を抜け出す。


 前回は、結局山へ行くこともできず、村の道端でヤギの魔物を一体狩っただけだった。


 今回が、初めての本格的な"一人での狩り"となる。


 今までは、キュレネとムートの二人について行くだけだったから、何も考えずに済んでいた。でも、一人で狩りとなると、想像以上に不安になる。


 どこへ行けばいいのかも分からないし、あまり遠くまで行けば、村への戻り方が分からなくなるかもしれない。そんなことを考え出すと、ちょっとした物音にも敏感になり、ガサゴソっと音がするだけでドキッとしてしまう。


 ……もう、2時間くらいは歩いた気がする。

 なのに、まったく魔物と遭遇しない。


 ムートは「向こうから襲ってくる」なんて言ってたけど、そんな気配はどこにもない。

 このままじゃ、獲物ゼロ……?


 そう思いかけた、その時――。

 視界の端で、何かが動いた気がした。

 ――何かいる!!


 向こうもこちらに気づいたようで、顔を向けてくる。


「あんた、ナニモンだ?」


 ……魔物じゃない。人間だ。しかも二人。


 でも、人だって怖い。


 二人とも、ボロボロの服を着ていて、全身が汚れている。やせ細った男たちだ。


 ……10メートルは離れてるし、とりあえず話してみるか。舐められないように、ちょっと粗野な感じでいこう


「冒険者だ。この辺りに、大きなサルの魔物がいると聞いて来たんだが。あんたたちは?」


「俺たちは、この森で暮らしてる者だよ」


 よく見ると、彼らは森で採取したと思われる食べ物を持っていた。


 ……嘘は言ってなさそう


「この辺に、大きなサルの魔物なんかいねぇよ」


 そう言った後、もう一人が思い出したように言う。


「……あれのことじゃねぇか?」


「ああ、あの大猿のことか。討伐してくれるならありがたいが……」


 片方が、森の奥を指さしながら続けた。


「そこの獣道を2時間くらい行った先に、森が焼けた跡が広がってる。その先が、奴らのテリトリーだ」

「でも、あいつらはすごく強い。単独で行っても、返り討ちに遭うだけだぜ。一応、忠告はしたからな。……じゃあな」


 そう言い残し、彼らは森の中へと消えていった。


 うーん……この人たちをどこまで信じていいんだろう?


 正直、怪しさは拭えない。でも、このまま何もせずに帰るのも癪だ。一応、行くだけ行ってみるか。


 すごく強い、って言ってたけど……パイース村の人はCランクって言ってたし、大丈夫よね?


 まあ、普通の感覚ならCランクの魔物だって、一人で挑むのは無謀なんだろうけど。たぶん。


 それに、ここから2時間もかかるなら、着いたらすぐ引き返さないと。帰りが遅くなれば、村に戻るころには暗くなってしまう。少し急ごう。


 獣道らしき場所を速足で進む。


 ……それにしても、相変わらず魔物と遭遇しない。


 道らしい道でもないので、進んでいる方向が合っているのか不安になってくる。そんな気持ちが膨らみ始めたころ、目の前に広がる景色が変わった。


 焼け残った木々ばかりのエリア。


 これが、森が焼けた跡……。ちゃんと道は合ってたんだ。先ほどの話では、この先に大猿がいるらしい。


 焼けたエリアを慎重に進む。これは何かの事故ではなく、意図的に焼かれた跡のようだ。境界が妙に整っていて、不自然な印象を受ける。


 視線を前に向けると、焼け跡の先に森が広がっている。左右を見渡してみたが、どこまで焼けているのか見当がつかないほど、広範囲にわたって燃やされたようだ。


 そのまま10分ほど歩き続け、ようやく普通の森へと入る。


 しばらく進んだとき——。


 ガサッ、ガサッ。


 葉の擦れる音が響く。


 すぐに警戒し、剣を振るスペースを確保できるよう木の密度が低い場所へと移動する。そして剣を構え、周囲を見渡した。


 ガサッ、ガサッ。


 何かが木から木へと移動している。


 動く方向に意識を集中し、攻撃に備えていると——突然、()()の木からサルが飛び降りてきた。


 ギリギリでかわす。しかし、サルはすぐに木へと登り、姿を消す。その体長は優に2メートルを超え、こげ茶色の毛並みをしていた。


 なるほど——。


 樹上を移動し、姿をくらましながらどこからでも攻撃できるのか。


 普通なら地面を基準にし、平面的な動きに対処すればいい。しかし、これは上方向からも攻撃が来る、立体的なヒットアンドアウェイ戦法。戦いにくいはずだ。パイース村の人々が「慣れないと苦戦する」と言っていた意味がよくわかる。


 しかし——さっき前にいたはずなのに、なぜ後ろから現れた?


 ただ素早いだけでは説明がつかない。


 葉が擦れ合う音、木の枝のわずかな動きに意識を集中する。だが——またしても、予想外の方向から攻撃を受けた。


 見切りの技、炯眼けいがんがあるとはいえ、すべてを見切れるわけではない。


 そもそも、この技は人間の動きを基準にしている。腕や足の位置、重心の変化を読み取り、瞬時に次の動きを予測するものだ。しかし、魔物は違う。人間とは異なる骨格や筋肉を持つ相手には、見切りの精度が大きく低下してしまう。


 ……だが、2回ほど動きを見たことで、なんとなく理解できた。


 これだけ慎重な戦い方をするということは——。


 正面から戦えば、それほど強くないのでは?


 今度は、一撃入れたい。

 飛び出してきた瞬間に狙いを定め、すれ違いざまに高速の剣を放つ。


 真刀流奥義——「またたき」。


 とらえた——!


「ぼすっ」


 手に伝わるのは、低反発の重いものを棒で叩いたような鈍い感触。切れていない。


 オーガと戦ったときも感じたが、相手が一定以上の強さを持つと、この剣では斬るのが厳しいようだ。とはいえ、金属の棒で殴ったのだから、ダメージは与えたはず——そう思ったのだが。


 すれ違いざまの一撃を受けた大猿は、向きを変え、両手を振り上げて威嚇してくる。


 あまり効いていない?


 怒ったのか、それとも「木に隠れて攻撃するまでもない」と判断したのか——今度は、普通に地面を踏みしめ、こちらへ迫ってくる。


 振り下ろされる右手をかわし、即座にその腕へ剣を振り下ろす。


「ぼすっ」


 やはり切れない。だが、大猿は痛みを感じたのか、すっと後ろへ下がり距離を取った。


 その瞬間——。


 右後ろから、ガサガサッ——!


 木々が激しく揺れ、もう一体の大猿が飛び込んでくる。


 嘘でしょ、2匹いたの——!?


 ギリギリで回避するが、先ほどの大猿も、今飛び込んできた大猿も、すぐに木々の中へ姿を消した。


 2匹で連携しているってこと?


 さっき、地上に降りたのは私の注意を引きつけるためか……。


 そうか、最初から連携していたんだ!

 前で音を立て、後ろから襲う——そういう戦法なのか!


 結構ピンチだな。


 1匹でも苦戦する相手が2匹——しかも、剣が通らない。


 どうする?


 2匹を同時に相手にするのはまずい。


 1匹だけ、女神モードで倒す?


 ……いや、連携を逆に利用させてもらおう。


 ガサッ、ガサッ——。


 木々が揺れ、葉が擦れ合う音。


 来た。


 飛び出してきた大猿の前に剣を振る。狙いは足止め。それが功を奏し、相手は私の前で立ち止まり、対峙する形となる。


 ——そして、その隙を突き、もう一匹が背後から飛びかかってきた。


 よし、このタイミング——女神モード、発動。


 世界がスローモーションになる。


 ゆっくりと動く2匹の大猿に向けて剣を振る。


 ズバッ——。


 岩すら断つこの力なら、当然——大猿もあっけなく切れてしまう。


 女神モードが解除される。


 倒れ伏す2匹の大猿。


 ふー、強かったな。


 ……とはいえ、女神モードを使ってしまったし、時間もない。さっさと帰ろう。


 そう思いながら、ふと顔を上げた——。


 目が合った。


「うえー!! もう一匹いた!!」



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