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第18話 祈年祭と魔物狩り勝負4 騎士団員の治療

 最初に「アーティ様を助けてくれ」と頼んできた重傷者は、騎士団長のヴェントさんだった。


 どうやら、今話をしているアプロさんをかばい、彼自身も負傷していたらしい。


 そんな話をしていた矢先——


 隣で寝ていたヴェントさんが、突然激しく苦しみだした。


 付き添っていた騎士が慌てて傷口を確認する。


「団長! 右脇腹が……!」


 見ると、そこには黒く変色した皮膚。


 ——さっきアーティさんが受けていたのと同じ毒だ。


「毒にやられています。急いで解毒します」


 私はそう言うと、一旦アーティさんへの魔法を中断し、ヴェントさんに向き直る。


「ヒール」


 解毒は比較的簡単だ。毒成分を魔法で壊してしまえばいい。


 その他にも右腕の骨折を確認した。このままだと歪んだままになって正常に動かなくなる。今ここで正常に治しておこう。


 しばらく魔法をかけていると——


「俺はいい……アーティ様を頼む……」


 ヴェントさんが苦しげにそう言った。


 まあ、解毒はできたし、骨の歪みも治したのでこのまま自然治癒でも大丈夫だろう。


 私は再びアーティさんへ魔法をかけようとした。——その時、アプロさんの顔色が悪いことに気づく。


「……もしかして、調子が悪いですか?」


 彼はすでに包帯を巻かれていたが、よく見ると腕の一部が黒ずんでいる。


 ……もしかして、毒?


「腕を見せてください」


 包帯を剥がすと、案の定、毒の影響が広がっていた。


 この騎士団の人たちは、どうしてこうも我慢強いのかしら。


「ヒール」


 すぐに解毒を完了させる。


「とりあえず、解毒は済みました」


「ありがとうございます……」


「他に毒を受けた人はいませんか?」


 この毒はカペルディアボルスの爪によるものらしい。


 他に爪で傷つけられた人はいないか確認すると、どうやら大丈夫なようだった。



 再びアーティさんに魔法をかけていると、騎士団の一人が声をかけてきた。


「国には連絡が届いたはずです。明日の朝には王国の光魔法士が来てくれると思います。それまで、どうかお願いします」


 ……朝までか。

 結構きついかも。


 そう思いながらも、たまに休憩を挟みつつ魔法をかけ続けた。途中でアプロさんは寝落ちし、他の神官や騎士団員も最低限の人数を残して休んでいる。


 明け方が近づくころ、アーティさんの容態はかなり回復し、もう大丈夫そうだと感じられるほどになっていた。


 朝になり、皆が目を覚まし始めると、この部屋への出入りも増えていった。その気配に反応したのか、寝ていたアプロさんやヴェントさんも目を覚ます。


 それから少しして――アーティさんが、ゆっくりと目を開けた。


 そして、私を見つめると、口から出たのは意外な言葉だった。


「……女神様?」


「え?」


 思わず驚き、少し挙動不審になっていたと思う。周囲にいた人たちも驚いていた。ただ、それは「女神様」という言葉にではなく――アーティさんが言葉を発するほど回復したことに対してだった。


 実のところ、私を含め誰もがアーティさんの命は助からないと思っていたのだ。


 その後、アーティさんは「女神様」と呼んだ理由を説明してくれた。深い意味があったわけではなく、自分はすでに死んだものだと思っていたらしい。死後の世界で目の前に女性がいたから、なんとなくそう呼んでみたのだと。


 そんなやり取りをしていると、空から大きな翼を持つ馬のような生き物が飛来した。


「ペガサスだ!」


 誰かが声を上げる。


 ペガサスが地面に降り立つと、その背から一人の人物が降りてきた。神官の案内を受け、そのままこの部屋へと入ってくる。


 すると、団長さんが声をかけた。


「ファコ、すまん」


「アーティ様は?」


 そう言った瞬間、彼の視線がアーティさんへと向かう。


「アーティ様、ご無事でしたか!」


 安堵の色を浮かべると、すぐに私に目を向け、


「ご苦労だった。私が代わろう」


 そう言うや否や、返事を待つことなく私の前に割り込み、魔法をかけ始めた。


「ん?報告よりもずいぶん状態がいいな。朝までもたぬかもしれんと聞いていたが……まあいい。この状態なら城まで運んだ方がよさそうだ」


 そう呟くと、アーティさんに何か言葉をかけた後、


「ヴェント、悪いが、お前の治療はまた今度だ」


 そう言って近くの騎士に指示を出し、アーティさんをペガサスまで運ばせ、そのまま去って行った。


「何だったの、あの人……?」


 そう思っていたところ、アプロさんが教えてくれた。彼は魔法士団の光魔法士であり、ヴェント騎士団長の親友なのだという。


「ティア神官、ありがとう。もう今日は休んでください」


「明日またお願いします」


 ……でも、私、明日にはここを出る予定なんだよね。できるだけ今日中に治したほうがいいはず。


「まだ大丈夫なので、できるだけ治療させてもらいますよ」


 そう言って、今度はヴェント騎士団長に魔法をかける。午前中には、なんとか動けるくらいまで回復した。


 続いて、最後の重傷者であるガステーヨさんの治療に取りかかる。その間、本来ならまだ安静が必要なはずのヴェント騎士団長が、やたらと慌ただしく動き回っていた。気にはなったが、アプロさんは「責任者だから仕方がないんです」と苦笑いしていた。


 夕方には、ガステーヨさんも動ける程度に回復。さすがに私も疲れを感じたので、治療を終え、部屋に戻ることにした。


 その日はすぐに眠りについた。翌朝、いつもより少し寝坊してしまい、慌てて準備をしていると、騎士団が村を出発するとのことで、私も見送りに呼ばれた。


 騎士団の皆が動けるようになったこと、そしてもともと予定にない滞在は村に負担をかけるという理由から、早めの出発を決めたのだという。


 団長から、改めてお礼を言われた。


「この度は、私を含めた第4騎士団員を助けていただき、ありがとうございました。お礼として、後ほど教会へ十分な寄付をさせていただきます」


 ……やっぱり教会に寄付、そうなるよね。

 でも、なんちゃって神官の私としては、教会に寄付されてもあまり意味がないんだよなぁ……。


 そう思いつつ、微妙な顔にならないように必死で取り繕った。


 騎士団を見送った後、私たちもすぐに次の目的地、パイース村へと向かうことになった。


 出発前、アマンド村長とヴィレラ神官から「ぜひ来年も来てほしい」と言われたが……。


 いやいや、私、神官じゃないし。

 そもそも、来年までこの世界にいるつもりもないし。


 そんなことはもちろん言えず、


「本部の意向もありますので、どうなるかは分かりませんが……また機会があればよろしくお願いします」


 と、無難な返事をしてその場を後にした。

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