表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/138

第17話 祈年祭と魔物狩り勝負3 狩りに出たけど...

 翌日。


 今日と明日は自由行動だ。

 キュレネたちと『魔物狩り勝負』の約束をしているので狩りに行こうと思う。


 昨日の祭りの最中、村の人に周辺の狩場について聞いておいた。

 初~中級者向けなのは北のヒルデ山、一方で東のグランタ山には「山の主」と呼ばれる強力な魔物がいるため、入らないほうがいいとのことだった。


 よし、今日はヒルデ山へ向かおう。


 狩りの準備をしていると、イネスさんが声をかけてきた。


「ティアちゃん、元気ねぇ」


 ?


 突然の言葉に、私は首をかしげる。


 どうやら私の表情から察したのか、イネスさんが説明してくれた。


「昨日、儀式で大量に魔力を使ったでしょ? それに加えて、お酒もたくさん飲まされてるし……。今日は動けない光神官が多いのよ」


 なるほど、それでか。


 だから、今日と明日はしっかり休めるようになっているんだな。


「無理しないで、早めに帰ってくるのよ」


 その言い方、まるで保護者のようだった。


 女神モードを使うつもりなので、なるべく顔を見られないように口元に布を巻き、ローブを羽織ってフードを深く被る。顔の部分だけ見ると、少し忍者のようかもしれない。


 この姿で誰かに見られるのは避けたかったので、窓からこっそり抜け出し、誰にも気づかれないよう村の外へ向かった。


 この道を進めばヒルデ山だよね——そう思いながら歩いていると、前方から三人の人影がこちらに向かって走ってくる。


 よく見ると、先頭にいるのは村長だった。


「魔物だ! あんたも逃げろ!」


 そう叫びながら、私の横を駆け抜けようとした瞬間、村長がつまずいて派手に転んでしまった。


 後ろを走っていた二人はそのまま通り過ぎたが、村長が倒れたことに気づくと、慌てて引き返してくる。


 しかし、村長はすぐには動けそうにない。



 村長たちが逃げてきた方を見やると、そこには人型で二足歩行する、ヤギの顔を持つ青い魔物がいた。


 大きさは……オーガよりも大きいかもしれない。


 そう考えているうちに、気づけば10メートルほどの距離まで接近されていた。


「そいつの目を見るな!」


 誰かの声が響く。


 見ちゃダメだと言われたせいで、つい反射的に目を見てしまう。


 ヤギの目……瞳孔が細長くて、ぞっとするほど不気味だ。


 しまった! 言われたせいで、逆に気になって見てしまったじゃないの。


 なにやら目が光ったような気がするけど、それだけ……よね?


 魔物は構えることもなく、平然とこちらへ歩み寄ってくる。


 私は剣の柄に手をかけ、いつでも攻撃できるよう備えた。


「ほう……俺の『パラライズアイ』が効かないとは。面白い。今度は楽しめそうだな」


 しゃべるの!?


 驚いて一瞬の隙に、魔物の周囲から大きな魔力があふれだした。


 大きな魔法が来る。——そんな確信があった。


 私はともかく近くの村人たちは危ない。被害が出る前に何とかしなくちゃ。


 それなりに強そうだけど、相手は一体だけ。魔法を放たれる前に、瞬殺する!


 女神モード、発動。


 世界が止まったかのような感覚の中、ヤギの魔物の目の前へと踏み込み、抜刀術を放つ。


 真刀流奥義——


ひらめき」


 刃は左の肋骨下から右肩へと鋭く切り上げる。


 その瞬間、ヤギの魔物と目が合った。


 ……もしかして、今の攻撃、見えていた?


 切り上げたままの姿勢で、女神モードが解除される。


「ん? なんだ?」


 ヤギの魔物がそう呟き、動こうとした——その刹那。


 切り口からずれ落ち、魔物は崩れ落ちた。


 ——うーん。いきなり女神モードを使うと、相手の強さがさっぱりわからないわね。


 とりあえず、魔石を回収しておこう。


 ……それにしても、この死体どうしよう?


 道の真ん中にこんなに大きいものが転がっていたら、邪魔よね……。


 村長に聞いてみよう。


「この死体、どこか捨てる場所はありますか?」


 ……あれ? 返事がない。


 動きが止まってる? もしかして、さっきのヤギの魔物になにかされた?


 もう一度、尋ねる。


「この死体、どこに捨てればいいですか?」


「あ、ああ……」


 どうやら、村長は目の前で起こった出来事に気が動転していたらしい。


 しばらくして正気を取り戻し、ようやく返事をくれた。


「この魔物の素材は、いらないのですか?」


 素材? いつも倒した魔物はそのまま捨ててたよね……。


「いりません」


「では、もらってもよろしいのですか?」


「かまいません」


 そう答えた途端、周りにいた人たちが「村長だけもらうのはずるい!」と言い出した。


 え、そんなことで争わないで……。


 変な揉め事にならないようにしておこう。


「村に寄付しますので、皆さんで分けてください」


「ありがとうございます! 助けていただいただけでなく、これまでいただけるとは……。ぜひ、お礼をさせてください。村までお越しください!」


 ——うわ、面倒なことを言い出したよ。


 と思ったその時、村の方から大声が響き、男の人が全力で駆けてくる。


「村長、大変だ! 重傷を負った騎士様たちが村にやって来た!」


「なに? ……ちょうど今、教会に光神官様が来ている。教会で治療を受けてもらえ!」


 ——その“光神官”って、私のことよね。


 どうやら、教会に戻った方がよさそう。


「それから、こいつを解体するために、数名手伝いを寄こしてくれ!」


 村長が騒ぎに気を取られている隙に、私はその場をさりげなく離れ、こっそり教会へ戻った。


 誰にも気づかれないよう窓から自分の部屋に戻り、すぐに神官服へ着替える。ちょうどそのタイミングで、イネスさんが呼びに来た。


「良かった。まだ出発してなかったのね。今、重傷者が運び込まれたの。ティアちゃん回復魔法をお願い」


 私が急いで重傷者が運び込まれた部屋へ向かうと、すでに三人の騎士が寝かされ、神官や騎士団員らが懸命に手当をしていた。


 寝かされていた一人が、弱々しい声で訴えた。


「アーティ様を……助けてくれ……」


 重傷者の世話をしていた騎士団員の一人が、私を案内する。


 アーティ様と呼ばれていたのは、三人の中でも最も重傷を負っている人物だった。


 若く見えるが、“様”付きで呼ばれていることから、身分の高い人なのだろう。


 状態を確認すると、頭や腹から大量の血を流し、意識はなく、顔は青白い。


 特に腹部はひどく抉られ、周囲は黒く変色し、腫れ上がっていた。


 普通なら目を背けたくなるような傷。


 でもこの世界に来てから、不思議とこういう状況にも耐性がある。


 効果を試す機会もないままだったけれど、果たしてこんな重傷を癒せるほどの力があるのだろうか——


 不安を抱えながらも、私はそっと手をかざす。



「ヒール」


 普通のヒールを装いエクストラヒール魔法を発動させる。


 手のひらから、柔らかな光が溢れ出した——。


 魔法をかけると、患者の状態が手に取るようにわかった。


 ——麻痺(魔法由来)、毒、骨折(頭・背骨・肋骨)、内臓破裂、血液不足……


 ……これ、本当に助かるの?


 まず、魔法由来の麻痺を解除。次いで解毒も成功。


 あとは怪我が治るまで、ひたすら魔法をかけ続けるしかない。


 というのも、この世界の回復魔法は“瞬時に傷を癒す”ものではなく、魔法をかけている間だけ回復速度を数倍から数十倍に引き上げる、という仕組みだからだ。


 魔法をかけながら、案内してくれた騎士団員——アプロさんというらしい——から事情を聞く。


 話の概要はこうだ。


 最近、広範囲で牙狼デンテスルプスの被害が広がっており、王国は討伐のために第4騎士団を派遣。


 騎士団は、群れを率いるリーダーを追い、村近くのグランタ山とヒルデ山の間に入った。


 そこで遭遇してしまったのが、“山の主”と呼ばれる魔物——カペルディアボルス。


「最近、犬コロが俺の庭で暴れまくってるようだから、追い払おうと思って出てきたんだが……お前たちも目障りだ、ついでに退治してやる」


 そう言われて、いきなり戦闘になったらしい。


 しかし、カペルディアボルスに対する対策をしていなかった騎士団は、一方的にやられ、撤退を余儀なくされた——ということだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ