第136話 女神として8 微妙な情報
一度元の世界に戻ってしまえば、もうこの世界には来られない。
そんな話を聞かされたら、どうすればいいのか迷ってしまう。
――私、このままじゃ帰れないよ……。
心は、残る方へと傾いていく。けれど、帰りたいという気持ちも、どこかにまだ残っている。
頭の中の人が語りかけてくる。
「あなたが残った場合と帰った場合、それぞれでこの世界がどうなるのか、シミュレーションしてみてはいかがですか?」
「……なるほど」
私はすぐに、精霊システムが停止するまでに必要な文明水準に達する可能性をシミュレーションさせた。
――その結果。
私が残った場合:40〜50%
私が帰った場合:70〜80%
……えっ!? なんでよ。私、邪魔ってこと……?
私がいない方が明らかに良いという結果が出てしまった。
その差はおよそ30%。それだけの違いがあるのなら、帰った方がいいのだろう。
でも、どうしても腑に落ちない。
私は理由を解析させてみた。
大まかに言えば、「神様がいるから何とかなる」と思われて、各国の初動が遅れてしまう――ということらしい。
そして、その遅れが最後まで尾を引く可能性が高い、という結論だった。
だから私は、この世界から消える“神の退場”というパフォーマンスを大々的に行い、
「神はもういない」と盛大に宣言するのが効果的……らしい。
うーん、なんて結論なのよ……。
――いない方がいいなら、帰るよ。
割り切れないもやもやを抱えたまま、私は心の中でそうつぶやいた。
意気消沈しながら、もうひとつ気になっていたことを調べてみた。
「この世界に呼ばれたのは、どうして私だったの?」
地球人がこの世界の人たちの子孫だというのなら、私である必要はなかったはずだ。
ゴルフェダンジョンの管理者サーバーが返答してきた。
「『ノバホマロにこの文明の継承を最優先で行え』──それが前管理者からの命令でした。
しかし、我々はノバホマロに直接干渉できないよう設計されています。
そのため、管理者権限を持つ者を介して情報を伝える必要がありました。
ところが、すでに管理者はいません。そこで、前管理者の方針に従い、異世界に管理者候補を探すことになり、ようやくあなた方の世界に候補者がいると判明しました。
しかし、我々の判断だけでは候補者を召喚できませんでした。
ただ、“管理者が存在しない場合の対応”を歴代の管理者たちが明確に定めていなかったため、解釈次第で召喚できる方法があると判断し、ずっと機会をうかがっていたのです。
そして、ついに千載一遇のチャンスが訪れました。
転移装置を通じて神に語りかけようとした者が現れたのです。
スピカ・クヴァーロン第三王女です。
この行為を、ノバホマロが“神を呼んだ”と解釈しました。
この意思を“神”に伝え、了承されれば、この地に神をお連れすることができます。
しかし、神=管理者が不在だったため、代わりに“管理者になり得る者”を召喚できると解釈しました。
ただし、“神に語りかける”という行為が出発点だったため、『自分を神だと認識している者』にしか連絡できないという制約が生じました。
それ以外に制約はなかったため、“自分を神だと認識している者”の中から、ノバホマロの文明継承の成功率が高い人物を選定しました。
まず、管理者権限を得るとそのまま権力を握って好き勝手に振る舞う可能性がある者は除外しました。
そもそも自称“神”の方々ですから、ここでかなりの数が脱落しました。
その上で、たとえ面倒ごとでも、他人のために最後までやり抜く責任感のある人を選びました。
最終的には、その中で魔法適性が高く、戦闘能力があり、健康リスクが少ない人物として、あなたが選ばれたのです」
……うーん、正直なんか微妙な理由よね。
選んだ基準が権力欲がない、お人好しって感じじゃない……都合よく使える人を探したら、私だったってことじゃないの。
せめて「神としての適性が高かった」とか、もっと前向きな理由が欲しかったよ……。
でも、実際私はそのとおりに行動してるんだよね。……知らない方がよかったかも。
なんだろう、さっきから、がっかりするような話ばかりじゃない?
もしかして、私を帰りやすくさせるためのお膳立て……? まさかね。
そんなことを考えているうちに、キュレネたちがゴルフェダンジョンに到着した。
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